『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物をゲストに迎え、プロデューサーと対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。 そのSeason2では、藤戸プロデューサーと『FFXI』中期~後期の開発スタッフとの対談により、各拡張データディスクや追加シナリオの制作エピソードをうかがっていく。
第2回のテーマは、拡張データディスク第3弾『アトルガンの秘宝』。当時のディレクターである小川公一さんと、数多くのバトルコンテンツを生み出した伊藤泉貴さん、そしておもにアイテム・装備群の作成を担当していた林洋介さんを迎え、『アトルガンの秘宝』と各コンテンツの開発経緯について語っていただいた。
2006年4月20日にリリースされた『FFXI』の拡張データディスク第3弾。これまでの冒険から大きく舞台を移し、近東のエラジア大陸にあるアトルガン皇国周辺で物語が展開する。冒険者は傭兵派遣会社“サラヒム・センチネル”に入社して傭兵となり、社長であるナジャ・サラヒムのもとで活動していくことに。傭兵として活動していく中で出会うキャラクターとしては、ヒロインである宮廷傀儡師のアフマウや、そのお供として登場するオートマトン・アヴゼンとメネジン、ヤグードの剣士・ゲッショー、幽霊船の船長・ルザフなど、これまで以上に個性豊かなNPCが多数登場した。
冒険の中心となる新たな街・アトルガン白門は、競売所をはじめとした各種施設が充実しており、ジュノ大公国に続く冒険者の新たな拠点となった。ほかにも、新たな獣人のテリトリーであるマムーク、ハルブーン、アラパゴ暗礁域や、ワジャーム樹林、ゼオルム火山、カダーバの浮沼など、多様な新エリアが追加された。
新たなエキストラジョブとしては、青魔道士、コルセア、からくり士の3ジョブが実装。バトルコンテンツは、最大700人の冒険者が街を防衛するために戦う大規模バトルのビシージ、傭兵階級を上げるためにさまざまな作戦に従事するアサルト、装備がすべて外された状態でスタートするサルベージなどが実装された。バトル以外のコンテンツでも、チョコボを卵から育てるチョコボ育成、育成したチョコボをレースに出場させるチョコボレース、モンスターを捕らえて闘獣場のステージで闘わせるパンクラティオンなどが追加されている。
『プロマシアの呪縛』まではマッププランナーを担当。その後、拡張データディスク『アトルガンの秘宝』から『アルタナの神兵』まで、『FFXI』の3代目ディレクターを務める。『FFXI』から離れた後は『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』のチーフプランナーなどを担当。
『アトルガンの秘宝』では、バトルプランナーとしてビシージ、アサルト、サルベージなどのバトルコンテンツをメインに担当。その後2010年に、4代目ディレクターの松井聡彦氏から引き継ぐ形で『FFXI』の5代目ディレクターに就任し、『ヴァナ・ディールの星唄』までのディレクションを手掛ける。
『アトルガンの秘宝』では、プランナーとしておもにアイテムの作成を担当。また、伊藤氏のチームでアサルトやサルベージといったバトルコンテンツなども手掛ける。現在は『ファイナルファンタジーXIV』のリードアイテムデザイナーを務めている。
伊藤さんの提案で生まれた幻の“サッカー場”
今回は、拡張ディスク第3弾『アトルガンの秘宝』と、そのコンテンツについて、当時のディレクターである小川さん、バトルプランナーである伊藤さん、アイテム担当である林さんをお招きしてお話をうかがっていこうと思います。その前に藤戸さんを含め、『アトルガンの秘宝』の開発当時に担当されていたお仕事をお聞かせください。
- 藤戸
そのころですと、確実にやっていたのは釣りのデータ作りですね。
釣りは最初から藤戸さんが担当していたのでしょうか?
- 藤戸
最初は前田さん(前田明彦氏。元イベントプランナー)が担当していたのですが、前田さんが異動することになって、自分が引き継いだ形ですね。釣りについては、もともと「拡張ディスクでエリアが増えるタイミングでは魚を増やそう」という話になっていたので、『アトルガンの秘宝』でも追加することになりましたが、これまでとはだいぶ舞台が違いますし、魚の種類も名前も変わるだろうと考えていました。そこで岩尾さん(岩尾賢一氏。『FFXI』の世界設定などを手掛けた元プランナー)と相談して、合成レシピなどのデータも含めて作った記憶があります。
小川さんは、いつごろディレクターに指名されたのでしょうか。
- 小川
『プロマシアの呪縛』を発売した段階で、すでにプロマシアエリアのマップ関係の仕事はほぼ終わっており、そのころディレクターに指名されました。そこから「つぎの拡張ディスクではマップとしてどういう舞台や地形があるといいのか?」ということを考え始め、新しい世界を組み立てる作業に入っていきました。
- 藤戸
ディレクターの指名を受けたときは、すぐに承諾されたのですか?
- 小川
そのときは、「指名してもらえるならやろう!」という意識だったと思います。前回(Season2 第1回参照)も言ったように『アトルガンの秘宝』はマップ先行で作業をスタートさせたので、実務的にも自分が適任だったのでしょう。樋口さん(樋口勝久氏。『FFXI』元バトルディレクター)からは、「ディレクターとしてやりたいことをやればいいよ。ほかのことは俺がやるから」と頼もしい言葉をいただいていたので、「じゃあ、やりたいことを詰め込んでやろう!」と思って作業を進めていきました。
伊藤さんの当時のお仕事はいかがでしょう?
- 伊藤
『プロマシアの呪縛』では、ウルガラン山脈やアットワ地溝などの遊びの多いエリアを作っていたこともあり、その延長線上としていろいろなコンテンツを考えていました。なかでも小川さんと「メインコンテンツとして、大規模な戦闘ができるビシージを作ろう」という話をしていたのは覚えています。そのための街の構造を考えるほか、「防衛用としてNPCが欲しい」といったことなどを話し合っていましたね。
あのウルガランの滑り台やアットワの山登りは伊藤さんのご担当だったとは! 伊藤さんがマップ作りを手掛けたのは『プロマシアの呪縛』までだったのでしょうか。
- 伊藤
そうですね。自分でマップを手掛けたのは『プロマシアの呪縛』までだった気がします。ちなみに『アトルガンの秘宝』では、「“サッカー場”を作っておいてください」と小川さんに言った記憶があります。けっきょく、その“サッカー場”は使われませんでしたけど(笑)。
その“サッカー場”は、どういう用途を想定されていたのですか?
- 伊藤
新しく対人戦の競技ができる場所があったらいいな、と考えてお願いしたものです。具体的には、スフィアロイドを使ってサッカーのような競技ができるコンテンツを作っていたのですが、お蔵入りになりました(笑)。スフィアロイドのターゲットを移り変わらせて、うまくゴールまで導けたら得点、というルールだったと思います。
そのエリア自体はいまでも存在するのですか?
- 藤戸
デバッグコマンドを使えば行けますよ。以前、コミュニティチームのイベント(※)で使ったことがありましたね。
※2012年3月29日に開催された“ヴァナTV杯 有頂天ダメージコンテスト”のこと。 林さんは当時どのようなお仕事をされていましたか?
- 林
そのころの肩書きは覚えていないのですが、いろいろなアイテムを作っていました。それだけでなく、伊藤さんの下でアサルト、ナイズル島踏査指令、サルベージなどのコンテンツを作りました。自分のイメージですと、伊藤さんが大きい“箱”を作り、その“箱”の中を埋めていくのが自分も含めた3~4人の現場プランナーの仕事でした。たとえば、アサルトやサルベージには大枠のルールがあって、その中に“作戦”や“遺構”という個別の遊びがありましたが、そういった個々の部分を自分たちが考えて作っていった感じです。あと、季節イベントも作っていましたね。
林さんは“アイテム班”とうかがっていたので、アイテムをメインに作られているイメージでしたが、コンテンツもかなりの量を手掛けられていたのですね。
- 林
はい。サルベージは、でき上がったマップ=遺構を渡されて、その遺構を使った遊びを自分含めた各担当者が考えるという感じでした。アサルトも階級ごとに担当プランナーが分かれていて、自分は曹長と少尉の担当だったと思います。
アサルトの作戦はこれまでのコンテンツ以上に斬新な内容が多く、アイデアを出すのはたいへんだったのではないでしょうか。
- 林
アサルトの作戦内容は、考えていて楽しかったですよ。同じような立場のプランナーたちと分担していたので、仲間のアイデアを見て「じゃあ、俺はこういう内容にしよう」とか、雑談しているときに誰かが話したアイデアの種を拾い、それを広げていったりもしました。
エラジア大陸は“宝島”のイメージで作られた
それでは改めて、『アトルガンの秘宝』の舞台やコンセプトをどのようにして固めていったのかお聞かせください。
- 小川
自分は当初“ひんがしの国”に興味があって、「和風の絵面でやりたい」という相談を背景班の方にしていたんです。でも、「いまから和風の舞台を作り上げるのは難しい」、「(冒険者が)そこまで行くには遠い」といった話になり、近東を舞台にすることになりました。
- 林
“ひんがしの国”は、それはそれで見たかったですね(笑)。
- 小川
そこからのコンセプトとしては“宝島”のイメージで、「お祭り感があり、遊べる大陸」という方向に進んでいきました。また、当時はまだレベル上限を開放する予定がなく、高レベルの冒険者たちでジュノの混雑が飽和していたこともあり、“レベル75の人たちの新しい遊び場”という位置づけにもしています。
それが『アトルガンの秘宝』のコンテンツの豊富さにつながってくるのですね。
- 小川
「ストーリー以上に、コンテンツを重視しよう」という考えかたでしたね。
コンセプトが決定した後は、具体的にどのような部分から開発を始めたのでしょうか? やはり、マップから着手した形でしょうか?
- 小川
マップもそうですが、“どのマップでどういう遊びをするのか”を踏まえて作っていかないといけないので、バトルコンテンツについても同時に話をしていました。また、インスタンスエリアという仕組み(※)がほかのゲームで出始めていたので、『FFXI』でも実現可能かどうか、相談をしていたと思います。
※そのときに必要なエリアを一時的に作り出す仕組み。『FFXI』ではレイヤーエリアとも呼ばれる。それまでの『FFXI』のバトルフィールドでは、戦闘用の空間は3つで固定となっており、プレイヤーを順次送り込み、満室になると入場できないという仕組みだった。インスタンスを採用することで、アサルトなどではより多くのパーティが同時に作戦領域に侵入できるようになった。 やはり最初からコンテンツを重視していたと。
- 小川
具体的にはインスタンスエリアの遊びとしてアサルトの企画を進めつつ、先ほどの伊藤さんのお話のように「攻城戦とか、ロマンのある大規模なバトルをやりたい! 街にモンスターが攻めてきたら熱いよね!」というアイデアから、ビシージを大きな柱としていこうと考えました。
- 伊藤
そこで小川さんから相談されて、岩尾さんも含めて一度草案を作成した記憶があります。「街に攻めてくる蛮族軍の目標はひとつだけれど、それぞれの場所にNPCの“ヒーロー”(のちの五蛇将)がいる。まず蛮族軍は分散して“ヒーロー”を狙ってくるので、それを撃退しましょう」といったこともその草案にありました。
実際にビシージが開放された当初は、進軍の待ち時間も含めてワクワクしたのを覚えています。
- 伊藤
ただ、『アトルガンの秘宝』発売直後はたいへんでした(苦笑)。蛮族軍はフィールド上を実際に進軍して来るのですが、そのルート上にプレイヤーの皆さんが大勢待ち構えていて、街にたどり着く前に蛮族軍が倒されてしまうんです。当然、ビシージは一向に発生しないと。そのため、フィールド上では蛮族軍には手出しできないように修正して、進軍はあくまで演出ということにしました。それでようやくビシージが発生するようになったわけです。
みんなワクワクしすぎて、街まで攻めてくるのを待ちきれなかったんですよね(笑)。
- 藤戸
ちょうどあのころは、2005年7月に『プロマシアの呪縛』のストーリーが大団円で完結した後、少し停滞感も出てきていて、プレイヤーの皆さんが新しいものに飢えていた時期だったと思います。それを完全に打破しようとしていたのが『アトルガンの秘宝』でしたから、皆さんのワクワク感はすごく感じていました。
さて、ストーリーはどのように決まっていったのですか?
- 小川
確か、岩尾さんが「“傭兵”の話にしたい」と言って、物語は傭兵派遣会社を中心に展開する形になりました。それをもとに、シナリオ担当者がプロットを作り、それを関係者で確認して細部を詰めていくという作業を毎週していましたね。『プロマシアの呪縛』などの物語と比べると、序盤は“番外編みたいなノリ”でもいいと考えており、プレイヤーが入りやすい感じにして、いままでとは違う冒険を楽しんでもらおうと思っていました。
結果、『プロマシアの呪縛』では世界を救っているのに、『アトルガンの秘宝』ではひとりの社員としてこき使われるようになるという……(笑)。ちなみに、物語やコンテンツの実装予定=ロードマップは、どなたが作られたのでしょうか?
- 伊藤
基本は小川さんで、ほかにはみんなで考えながら、「このコンテンツに必要なプランナーがこれくらいの人数だから、これのスケジュールを後ろに倒してください」とか、そういうことを提案していた記憶があります。たとえば、アサルトは作戦領域が5つあって、新しい階級を追加する際は、横並びで一斉に実装する必要があります。サルベージも4つのエリア(遺構)を同時に実装しなくてはいけないので、プランナーを4人そこに配置する必要があると。そうしたことを考慮して調整していました。
3つの新ジョブが生まれた経緯
『アトルガンの秘宝』では3年ぶりに新たなジョブが追加されましたが、その経緯についてもお聞かせください。
- 小川
『プロマシアの呪縛』ではジョブの追加がなかったので、最初のオーダーとしては「4つ新ジョブが欲しい」とお願いしました。それをジョブ担当に精査してもらい、現実的なところで3つになりました。
それぞれのジョブについて、どういうオーダーをされたのでしょうか。
- 小川
まず、青魔道士は欲しいと希望しました。つぎに、舞台的に“海賊”を入れたかったのですが、倫理的な問題などもあってそのままではダメでした。そこで、“ギャンブラー”の要素も混ぜて練り上げたのが、コルセアという新ジョブになります。
- 伊藤
からくり士は、「カスタマイズできるペット系の枠が欲しい」という意見がもとになっていると思います。
- 藤戸
青魔道士はわりと早くでき上がっていたと思いますね。コルセアもコンセプトがわかりやすいので、苦労した感じはなかったかと。からくり士は、ジョブ担当が設計で苦しんでいた記憶があります。権代さん(権代光俊氏。『FFXI』元バトルプランナー)が「どうしよう……」とすごく悩まれていて、松井さん(松井聡彦氏。『FFXI』4代目ディレクター/2代目プロデューサー。当時はバトルディレクター)も「うーん……」と考え込んで、そこだけ難航していました。
どういった部分を悩んでいたのでしょうか?
- 藤戸
ペットジョブはペットが戦闘不能になったとしても、まだマスター(プレイヤー自身)が戦えます。それは大きなメリットと考えられていましたが、その一方でペット単独、もしくはマスター単独ではほかのジョブと並ぶほど強くできず、それが皆さんの不満になっていたと思います。ですから、その点をどう解決すればいいのかという問題と、さらに新ジョブとして既存のペットと共闘するジョブ(獣使い、召喚士、竜騎士)と一線を画さないといけないという問題について、最後まで悩んでいました。
新しいジョブが3つ追加されるというのは、アイテム作りやコンテンツ作りにどれくらい影響があったのでしょうか。
- 伊藤
『アトルガンの秘宝』の実装直後は「新ジョブをパーティに入れてコンテンツが攻略できるのか? バトルでどのくらい活躍できるのか?」といったことを頻繁に確認していました。
- 林
アイテムについては、「どこかのレベル帯でそのジョブが装備できるものがない」ということにならないように注意しました。あと、からくり士のアタッチメントについては、バージョンアップごとに松井さんに「追加しますか?」と確認しにいくのですが、ギリギリまで悩まれていることが多かったですね。
異国感を感じさせるグラフィックへの挑戦
『アトルガンの秘宝』のフィールドやダンジョンについては、ビジュアルの変化も大きかったように思います。とくに、アトルガン地方の空は印象的でした。
- 小川
背景班が意識的に空気感を変えていたのでしょうね。『アトルガンの秘宝』時点でもサービス開始当時から約4年が経過しており、業界のトレンドも変わってきていましたので、『FFXI』内の可能な範囲で、より高度なグラフィック表現にチャレンジしていたと思います。
同じ“森林”でもジャグナー森林やユタンガ大森林と、ワジャーム樹林とでは、雰囲気が違いますよね。
- 小川
明らかに“違うところに来た”という雰囲気になるよう意識しました。また、新たな舞台ということで、3つの蛮族拠点があったりと、“アトルガン地方だけでもひとつのワールドマップが成立するように”というイメージもありました。もちろん“中の国”より規模は小さいですが。
- 伊藤
『アトルガンの秘宝』の各エリアでは、蛮族たちの生活感が表現されているのを強く感じましたね。オリジナルエリアでの経験が活かされていて、蛮族たちの拠点に隣接するエリアでも「ここまで蛮族のテリトリーになっている」ということがわかるようになっており、背景班の技術の結晶という感じがします。
現在進行形で蛮族と小競り合いをしている感じがありますよね。ビシージでも街のNPCが蛮族にさらわれるギミックなどがありました。
- 伊藤
NPCがさらわれると、同時に街の機能が奪われてしまうという要素ですね。
- 小川
個人的にこのギミックはけっこう気に入っています。
- 藤戸
ビシージというメインコンテンツのギミックとして、エリア単体での仕掛けにとどまらなかったのはよかったと思います。
- 伊藤
ひとつのエリアから別のエリアに影響を及ぼすという要素は、ひとつのチャレンジでした。先ほどお話ししたビシージでの進軍も、獣人がエリアをまたぐ際にきちんとデータを受け渡すようになっているんです。「エリア境界から街に入るまでの距離がだいたいこれくらいだから、獣人たちがエリアチェンジで消えてからこのくらいの間隔で街に出現させよう」というのを考えて設定していました。
結果的に進軍は演出になってしまいましたが、仕組みとしてはそこまで細かく作られていたのですね。
- 伊藤
この“エリア間でデータをやり取りする”という仕組みは、のちに『アルタナの神兵』のカンパニエバトルで活用されています。ビシージをもっと広い仕組みで作ったのがカンパニエバトル、とも言えますね。
つぎつぎと実装されていったバトルコンテンツ
『アトルガンの秘宝』が発売された段階でも、デュナミスやリンバスなどの現役のコンテンツが多数ありました。そんな中で、新たに実装するコンテンツの数はどうやって決めたのでしょうか?
- 小川
初期段階では、アサルトとビシージの2本柱くらいの予定でしたね。
- 林
その後、サルベージを企画する際は、「装備を全部外した状態でスタートして、そこから少しずつ開放していくシステムでやろう」と伊藤さんが言っていたのを覚えています。
- 伊藤
プレイヤーの装備が強くなってきた時期でもあり、“ちょっと特別感のある体験をしてほしい”という気持ちはあった気がします。確か、『アトルガンの秘宝』全体のロードマップとしては、だいたい2年半くらい更新が続くという予定でした。ですから、数カ月に1回は目玉となる新コンテンツが欲しいだろうと思いましたし、足りなければ新しいものをまた考えるという感じでした。
一風変わったコンテンツとして、捕獲した魔獣を戦わせるパンクラティオンもありましたね。
- 伊藤
パンクラティオンはロードマップに組み込まれていたものの、最後の最後でなんとか入れたという感じでしたね。そのころには『アルタナの神兵』でカンパニエバトルという大規模なコンテンツが来ることがわかっていたので、そこまでの期間に“ゆるく、ワイワイ遊べる”コンテンツが欲しかったんです。
実装時期としては『アルタナの神兵』発売後になりますが、花鳥風月のPandemonium Warden(通称パンデモニウム)も強烈でした。
- 伊藤
開発経緯としては、トゥー・リアと同様のツリー型のNM群が欲しかったんです。
- 林
パンデモニウムと花鳥風月はまさにそうですね。
- 伊藤
花鳥風月はサルベージの遺構のひとつを担当してもらったプランナーが「Kirinが四神を召喚するギミックはインパクトがあったので、それに負けないものを作りたいです」という情熱で作ったものです。『アトルガンの秘宝』全盛りという感じでした。
『アトルガンの秘宝』後期のエンドコンテンツとしてはエインヘリヤルもありますが、こちらはどういう経緯で実装されたのでしょうか?
- 伊藤
エインヘリヤルは、「『アトルガンの秘宝』の最後のハードコンテンツにしよう」と考えていたものです。
- 小川
マップもそのためにオリジナルのものを用意しました。
- 伊藤
ちなみに最終ボスであるOdin(オーディン)は、プレイヤーが即座に戦闘不能になる斬鉄剣を使うので、最初は攻撃力が少しゆるめでした。でも、ヒーリングをすることで回避できるようにした結果、「回避すれば戦闘不能にならないんだから、もっと強くしよう」となり、最終的に強くなった経緯があります。
お話を聞いていると、改めて『アトルガンの秘宝』のコンテンツのボリューム感に驚かされます。なぜ、このようにたくさんのコンテンツを実装したのでしょうか?
- 小川
当時はコンテンツの消費スピードが速かった印象があるので、それに対応しようとしていた感じでしょうか。
- 伊藤
『プロマシアの呪縛』のときはコンテンツよりもストーリー寄りの拡張ディスクでしたので、その反動もあったのかもしれません。
- 小川
あと、“さくっと遊べるもの”が求められていた時代だったのも大きいですね。アサルトはそれに応えたコンテンツでした。
10年経っても忘れられないアイテム作りの悩み
林さんと言えば、ぜひ聞いてみたいことが……。かつて“スクウェア・エニックスパーティ2007”で、「強く作りすぎたので能力を直したい装備」として紹介されたアイテムがありますよね。具体的には林さんがエラント装束、デスサイズ、ワラーラターバンを挙げ、河西さん(河西雄一郎氏。『FFXI』元バトルプランナー)が破軍を挙げていましたが、改めてその制作経緯をうかがいたいです。
- 林
『FFXI』チームから離れてもう10数年経つのですが、この件について忘れたことは一度もないです(苦笑)。あと、自分で“デスサイズ林”と名乗ったことも一度もないんですよ。あれは誰かが悪ふざけで言ったのが、定着しちゃった感じでしょうか……?
- 一同
(笑)
- 林
イベントでのコメント(※能力を直したいという趣旨)について、当時不快に思ったプレイヤーの皆さまには深くお詫びを申し上げます。ここで、あのコメントの意図を補足しておきます。まず、デスサイズは名前と見た目がかっこよくて、それに釣り合うD値や、HP吸収の追加効果という、いかにも暗黒騎士らしい性能が付与されているのですが、それに対して合成のレシピが簡単すぎたのです。そのため、性能に対して非常に安価で出回ることになりました。結果、その後に登場した両手鎌はデスサイズと比較してしまうと、どうしても入手難度に対してのパフォーマンスが悪く、皆さんにあまり手に取ってもらえませんでした……。そんな経緯があり、“デスサイズは入手難度と性能のバランスが悪かった”ということを伝えたかったのです。
結果、プレイヤーの装備選択の幅を狭めてしまったと。
- 林
当時は装備の性能について、“ここまで強くしていい”という上限があって、そこを超えてはダメというルールがありました。デスサイズも含めて、いま挙げられた4つの装備は、その上限か、上限に近い装備だったんです。その後も、そのルールの範囲内で手を変え、品を変え、それ以外の性能の両手鎌を作って実装していたのですが、なかなかデスサイズから離れてもらえませんでした。防具ではエラントウプランドも、合成で作れるわりに、INT+10、MND+10、CHR+10、ヒーリングMP+5といった、後衛にほしいステータスを数多く盛ってしまって……。
プレイヤーとしては、安価で強い装備が手に入るのでありがたかったです。ただ、開発側としてはその後のアイテム作りに苦労することになったということですね。
- 林
まさにそうです。
ワラーラターバンも林さんが担当されたのですか?
- 林
はい。『アトルガンの秘宝』発売前の時期は、ある程度冒険が進んでいる前衛のプレイヤーなら、そのほとんどがオプチカルハットをかぶっているような状況でした。オプチカルハットを実装した時期は、命中のステータスがすごく注目されていた時代で、“高い命中や回避(命中+10 飛命+10 回避+10)が付いているけれど、見た目はイマイチ”という装備があれば、好みが分かれるかなと思ったんです。ところが、思った以上に多くのプレイヤーがオプチカルハットをかぶった状態になってしまったんです。
プレイヤーにとっては、見た目よりも能力が最優先だったということですね。
- 林
そこで、オプチカルハットを脱いでもらうためにヘイスト+5%を付けたワラーラターバンを用意したのですが、今度はみんながワラーラターバンをかぶるようになってしまいました。もう少し好みがバラけてくれればと思ったのですが……。アイテムの設定は難しいなあと思いましたね。