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プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’ DIEL-
Season2 第7回
『アドゥリンの魔境』佐藤弥詠子&齋藤富胤

『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物をゲストに迎え、プロデューサーと対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。 そのSeason2では、藤戸プロデューサーと『FFXI』中期~後期の開発スタッフとの対談により、各拡張データディスクや追加シナリオの制作エピソードをうかがっていく。

第7回のテーマは、拡張データディスク第5弾『アドゥリンの魔境』の物語。プロデューサーセッションSeason2 第3回(『プロマシアの呪縛』編)から引き続き、佐藤弥詠子さんと齋藤富胤さんに、ウルブカ大陸を舞台にしたストーリーが紡がれるに至った経緯を語っていただいた。

『アドゥリンの魔境』とは

2013年3月27日にリリースされた『FFXI』の拡張データディスク第5弾。中の国(クォン大陸、ミンダルシア大陸周辺)から遥か西にあるアドゥリン諸島とウルブカ大陸を中心とした“神聖アドゥリン都市同盟”が物語の舞台となる。そこで冒険者は開拓者となり、禁忌とされていた東ウルブカ地方の開拓に従事。その開拓を通じて、かの地にひそむ謎を解き明かしていく。物語においてはヒロインのアシェラをはじめ、アドゥリン十二名家の当主たち、エクソシストのイングリッド、謎の男テオドールなど、数多くの人物が主要NPCとして登場した。

『アドゥリンの魔境』では、東アドゥリンと西アドゥリンの街が新たな拠点として機能。冒険のエリアとしては、初期はケイザック古戦場やモリマー台地などがあり、中期にはヨルシア森林やマリアミ渓谷、後期にはカミール山麓やラ・カザナル宮といったように、順次追加されていった。

新たなエキストラジョブとして風水士と魔導剣士も追加。バトルコンテンツでは、エリアの通行の障害を排除するためのコロナイズ・レイヴや、多くのプレイヤーと共闘して七支公と戦うワイルドキーパー・レイヴ、難易度や戦利品の量などを個々に調整して挑むスカームやアルビオン・スカーム、最大18人で挑む攻略型バトルのメナスインスペクターやベガリーインスペクター、インカージョンなど、さまざまなものが実装された。

ほかには、アドゥリンの街にある各ワークスで開拓業務を行うワークスコールや、日々さまざまなアイテムの収穫などができるモグガーデンなども追加されている。また、装備にはアイテムレベル制が導入され、アーティファクトなど一部の装備をアイテムレベル付きに強化できるようになった。さらにシステム面では、ホームポイント間でのワープや、自身で目標を定めて報酬を得るエミネンス・レコード、特定のNPCとともに戦うことができるフェイスなど、より冒険がしやすくなるための要素がつぎつぎと実装されていった。

佐藤弥詠子

『FFXI』シナリオ&イベントプランナー。ウィンダスミッションをはじめ、『プロマシアの呪縛』、『ヴァナ・ディールの星唄』、『蝕世のエンブリオ』などのシナリオを担当。『プロマシアの呪縛』のエンディング曲『Distant Worlds』の日本語原詩、『アドゥリンの魔境』のエンディング曲『Forever Today』の作詞も担当している。

齋藤富胤

『FFXI』元シナリオ&イベントプランナー。『ジラートの幻影』、『プロマシアの呪縛』、『アトルガンの秘宝』のイベント、カットシーンなどの演出を担当。『アドゥリンの魔境』、『ヴァナ・ディールの星唄』ではストーリー全体の監修も手掛ける。

齋藤氏は『FFXI』の“語り部”的な存在だった

  • 『アドゥリンの魔境』のお話をうかがう前に、その少し前の動向についてもお聞かせください。佐藤さんにとって『プロマシアの呪縛』の完結以降のタイミングは、いったん『FFXI』チームを離れていた時期になりますよね。

  • 佐藤

    そうですね。その後『アドゥリンの魔境』の最後のほうで合流した形になります。

  • 一方で齋藤さんは『アトルガンの秘宝』以降、どのような業務を担当されていたのでしょうか?

  • 齋藤

    『プロマシアの呪縛』のときと同じで、基本的にはカットシーンを担当していました。ほかにも、ストーリーを作るうえでの全体の監修や、クオリティの担保といった部分も担当しています。これは『ヴァナ・ディールの星唄』までずっと同じでしたね。

  • もしや、『ヴァナ・ディールの星唄』までカットシーンの絵コンテも描かれていたのでしょうか?

  • 齋藤

    はい。モーション班からも「コンテ描いてください!」と催促が来て、素直に「あ、はい」という感じでやっていました(笑)。

  • 藤戸

    「お話に関することは齋藤さんにおまかせすれば大丈夫」と、作る側も心強く思っていましたね。

  • 齋藤

    何かを聞かれればだいたいは答えられますが、まとめ上げる部分では佐藤さんにお願いすることも多かったですね。そのうえで佐藤さんから「このタイミングでこのキャラクターの動向はどうなっていますか?」と聞かれたら、「それはこうなっています」と答える、といった感じでした。

  • 佐藤

    『ヴァナ・ディールの星唄』のときは齋藤さんにたくさん質問しました。まさに『FFXI』の生き字引です。

  • 齋藤

    聞かれたら答える“AIアシスタント”みたいなものですね(笑)。

  • 藤戸

    「こういう設定で大丈夫ですか?」というような話は、まず齋藤さんに聞きに行った記憶があります。すると「あ、ここはこうですよ」とすぐ返ってくるので、とても頼りにしていましたね。

  • 本物の“語り部”だ!

  • 佐藤

    本当に助かっていました。

舞台が西の地であるアドゥリンに決まった理由

  • それでは『アドゥリンの魔境』開発時のお話を聞かせてください。まず、物語や舞台はどのようにして決まっていったのでしょうか?

  • 齋藤

    まずはみんなで話し合うところからスタートしましたね。「残りは北か西か南だけど、どこにしようか?」と。

  • 選択肢はけっこうあったのですね(笑)。

  • 齋藤

    その中で「プレイヤーの皆さんがワクワクできて、お話としても楽しめるのはどこだろう?」という話をして、最終的に西に行くことに決めました。ちなみに、それ以前の段階で“西には神聖都市同盟というものがある”という設定は、“ヴァナ・ディール トリビューン”などでも語られていました。そこで、西の地がどうなっているかという設定をさらに確認していくと、「飛空艇ではたどり着けないらしい」という話が出てきたんです。でも、たどり着けない理由までは語られていなかったので、その理由(※)から作らなければなりませんでした。

    ※ウルブカ大陸上空では、飛空艇の動力源であるクリスタル機関が何らかの原因で機能しない。

  • なるほど。

  • 齋藤

    それまでも拡張データディスクを出すたびに、「つぎがあるかはわからない」という意気込みで可能な限りの要素を詰め込んできましたが、それは『アドゥリンの魔境』でも同様です。ですから、「せっかくなので北の話も入れよう」、「ラゾア大陸のオークに滅ぼされた魔法帝国の話にも触れよう」といったことにも取り組み、それらを“世界樹”というキーワードでつなげて大枠を決めていきました。

  • そういう意味では、南のミスラの本国(ガ・ナボ大王国)も舞台としては気になりますね。

  • 齋藤

    ミスラの国だけは、物語を描く際にどうしても佐藤さんの力が必要だと思ったので断念しました。

  • 佐藤

    そんなことはないですよ。自分もけっこう忘れちゃっているので(笑)。でも、ミスラの国はけっこう閉鎖的なところがあるので、いきなりそこに行って楽しめるかどうか……という問題はあるかもしれません。もちろん、ミスラに囲まれたいと思っている冒険者もいるでしょうけれど、明るい冒険にはならなそうかな、と。

  • 齋藤

    排他的な人たちとどうやって交流するか……といったことを考える方向もありましたが、練り込むための時間がなかったんですよね。それならば、西のほうがゲーム的な遊びもいろいろと盛り込めるかもしれない、ということでウルブカ大陸に決まった記憶があります。

  • そんな『アドゥリンの魔境』の開発初期ですが、藤戸さんはどのような業務を担当されていた時期でしょうか?

  • 藤戸

    自分は開発全般のサポートに回っていましたね。そのころの自分はアソシエイトディレクターという肩書きになっていて、ディレクターだった伊藤さん(伊藤泉貴氏。『アドゥリンの魔境』、『ヴァナ・ディールの星唄』のディレクターを担当)をできるだけフォローする形でした。とくにシステムまわりの担当がほかにいなかったため、エンジニアさんとのやり取りやスタッフ間をつなぐ役割は自分が担当していました。

  • 特定のコンテンツ制作に専念していたわけではなかったのですね。

  • 藤戸

    そうですね。『アドゥリンの魔境』はマトリックスさん(※)と協業して作っていたため、先方から立ち上がってきた企画を自分が引き取って作り込んだりすることはありました。

    ※株式会社マトリックス。追加シナリオ『石の見る夢』、『戦慄!モグ祭りの夜』、『シャントット帝国の陰謀』に続いて、『アドゥリンの魔境』でも開発に協力。

『アルタナの神兵』発売から6年後の新たな決意

  • 『アドゥリンの魔境』は、2007年の『アルタナの神兵』から6年後の2013年に発売されました。すでに追加シナリオや『アビセア』3部作などはアドオン(ダウンロードコンテンツ)として発売されていただけに、拡張データディスクという形式、とくにPS2のパッケージ版の発売には議論はなかったのでしょうか?

  • 藤戸

    PS2版を出すことは当初から決まっていたので、プラットフォームに関する議論はなかったですね。ただ、拡張データディスク以外での提供方法、つまりアドオンのような、規模を小さくした拡張も検討はしていました。ですが、それだと装着率の面で若干の不安があったのも事実です。また、チーム内でも最初の段階から「がんばれるようなら、もう一度拡張データディスクにチャレンジしてみよう」という意気込みがありました。

  • そこはやはり“拡張データディスク”として出そうと。

  • 藤戸

    はい。ただ、西の大陸は設定的にもほとんど手付かずの世界でしたから、用語などもぜんぜん揃っていなかったのがたいへんでした……。「これはなんて呼ぼうか?」と確認しながらひとつひとつ命名していく必要があり、“どういう人たちが住んでいて、どんな街並みなのか”という設定も、開発と並行して構築しなくてはいけない。ですから「ぜんぜん手が足りない」という話になり、マトリックスさんといっしょに作っていくという流れになりました。

  • フィールドやコンテンツは具体的にどのような流れで作られていったのでしょうか?

  • 藤戸

    “開拓”というキーワードは初期からあったので、それを再現するようなイメージを描いてもらい、それを見たうえで「こういうフィールドを作りましょうか」と話し合って決めていきました。コンテンツのほうも“開拓”を再現するために、みんなでネタ出し会を行ったんですよ。「開拓に必要な物資をフロンティア・ビバックやステーションに持っていく」とか「途中に障害物があるから、それを排除する」とか、そういったアイデアをホワイトボードにペタペタと貼っていき、「じゃあ、具体的にタスクを積んでいこうか」という感じで進めていきました。

  • “開拓”というキーワードはコンテンツ側から生まれたものなのでしょうか? それともストーリーの初期プロットの中にすでにあったのでしょうか?

  • 藤戸

    どっちでしたかね?

  • 齋藤

    どちらも同じくらいではないですか? 「西の大陸はなぜ未知の世界なんだろう?」という話から、「未知なら切り拓いていけばいいんじゃない?」となり、ストーリーとコンテンツの両面が進んでいったような気がします。

  • 藤戸

    そういえば、西の大陸の手がかりとして実装されていた話がありましたよね。ハロウィンの“ピュラクモン”(※)でしたっけ。

    ※2008年10月に実装されたハロウィンイベント「知られざる伝説~邪眼の怪ピュラクモン~」
  • 齋藤

    そうそう。そのエクソシストの話から「都市同盟とはなんぞや?」というのを調べたら、“いくつもの国がまとまってできたもの”という設定があったんですよ。それで、「いくつの国(名家)があるのかな?」という話になり、ふんわりした感じで「12くらい?」とキリのいい数字を充てたんです。さらに“開拓”という遊びの要素も踏まえたうえでその数に最終決定し、でき上がったものが十二名家になります。

  • 藤戸

    そこから各ワークスやコンテンツを作って……という感じでしたね。ストーリーのほうの大きなプロットは伊藤さんが書かれていました。その際に「ほかの拡張データディスクに関連したエピソードも入れ込められるかな?」という観点から、ダスク・レイヴン(※)の話なども伊藤さんがプロットに書いていましたね。それをそばで見ながら「異なる話がこうつながるのか。なるほどなあ」と思っていました。

    ※『アルタナの神兵』のカンパニエバトルで参戦するスカウトNPC・Duskravenのこと。その正体は、現代では行方不明になっている十二名家筆頭アドゥリン家の前当主。

  • ストーリー作りについても、伊藤さんがかなり関わられていたのですね。

  • 齋藤

    『アドゥリンの魔境』の物語は、まさにみんなで考えていましたね。中でも大枠については伊藤さんが考えて、その細部をシナリオ班が考えていく感じでした。

  • 佐藤

    自分はあくまで後半になってから開発に合流した形でしたが、『アドゥリンの魔境』は伊藤さんの要望が形になった部分が多かったかもしれません。

  • 藤戸

    伊藤さんは積極的にいろいろなアイデアを出したり、みんなのアイデアをまとめる役割をされていて、それを各チームが「どう形にするか」考えていった形ですね。

  • そういった流れで開発していくうえで、これまでの拡張データディスクとは違った苦労もあったのでしょうか?

  • 齋藤

    新たに世界を作っていくうえで、先人が残した多数のアイデアから拾い上げるのはそれまでといっしょなのですが、“拾い上げたものの続きが正しいかどうか”をひとりの人間が決定するのではなく、みんなで決めていったのが大きな違いでした。ですから「これをヴァナ・ディールの正しい歴史として出したとき、プレイヤーの皆さんに納得してもらえるか?」という点に最後まで悩んだのが『アドゥリンの魔境』でしたね。

  • 藤戸

    物語の後半になるほど、その“答え合わせ”が多かったですね。その後の『ヴァナ・ディールの星唄』もまさにそうでした。

  • 齋藤

    『ヴァナ・ディールの星唄』は、佐藤さんに本当によくまとめていただきました。

幻の第6章と幻のエリア“魔獄”

  • 『アドゥリンの魔境』のミッションは第5章で終わりますが、以前に「幻の第6章があった」という裏話が明かされていました。

  • 齋藤

    第6章で行く予定だった場所のイメージイラストもありましたが、階層がたくさんあるマップだったため、実装するには規模が大きすぎました。一部エリアの試作も行ったものの、「これをどうやってゲームに落とし込もうか?」という議論で活路が見出せず、ちょっと無理そうだね、と……。物語としては、ラ・カザナル宮天守での戦いの後、そこに入り口ができて、もうひとつの世界に行くという流れでした。そこでは“ハデスがなぜハデスたるものになったのか”という真相が判明し、最終的にハデスを消滅させるという展開になる予定だったんです。一連のエピソードの中には、“七支公の真なる姿”などの話もありましたね。

  • それはまさにソーティ(※)ではないですか!?

    ※2022年8月に実装された、ラ・カザナル宮外郭〔U〕を舞台としたバトルコンテンツ。

  • 藤戸

    確かにソーティには七支公やハデスの色違いの個体がいますが、お話自体は関係がないですね。ちなみに、お蔵入りになった場所には“魔獄”という仮称が付けられていました。

  • なるほど。似て非なるもの、と。話を少し戻しまして、佐藤さんが開発に再合流したのは『アドゥリンの魔境』の後半とのことですが、具体的にどのような部分を担当されたのでしょうか?

  • 佐藤

    合流したのは本当に最後のほうで、いくつかカットシーンを手伝ったくらいですね。

  • 齋藤

    あとはエンディングの歌を作るにあたり、その歌詞を佐藤さんにお願いしました。

  • 佐藤

    それがあった(笑)!

  • 齋藤

    「戻ってきて早々にすごい仕事を振るなあ……」と思いましたよ(笑)。

  • いきなり「エンディングの歌詞をお願いします」と依頼されたのですか?

  • 齋藤

    「だいたいこんな話です」ということを伝えてお願いしました。

  • 佐藤

    伊藤さんにも「今回の歌はどんなスタンスにしますか?」と聞きました。それに対して「素直な、わかりやすい、アシェラちゃんの心情を歌ったもの」というオーダーがありましたので、「わかりにくくせずに、直球でいこう」という気持ちで書きましたね。

  • そうやって生まれた曲『Forever Today』ですが、歌詞が先に完成したのでしょうか。それとも曲が先でしょうか?

  • 佐藤

    楽曲が先でした。水田さん(水田直志氏。『FFXI』のほとんどの楽曲制作を担当)から楽譜が送られてきて、そこから歌詞を付けた形になります。

  • 曲を踏まえて歌詞を書くのと、先に歌詞を書くのとでは、かなり違いますでしょうか?

  • 佐藤

    ぜんぜん違いますね。曲が先の時は、完成までに何回も自分で歌っています。『ヴァナ・ディールの星唄』の最後の歌(『ヴァナ・ディールの星唄 -Rhapsodies of Vana'diel』)も曲が先でしたから、何回も歌いながら作りました。一方で、歌詞を付けた後に曲のほうで調整することもありますね。

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