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プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’ DIEL-
Season2 第8回
『アドゥリンの魔境』松井聡彦&伊藤泉貴&谷口勝

『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物をゲストに迎え、プロデューサーと対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。 そのSeason2では、藤戸プロデューサーと『FFXI』中期~後期の開発スタッフとの対談により、各拡張データディスクや追加シナリオの制作エピソードをうかがっていく。

第8回のテーマは、拡張データディスク第5弾『アドゥリンの魔境』。2代目プロデューサーを務めた松井聡彦さんをはじめ、ディレクターとして数多くのコンテンツを生み出した伊藤泉貴さん、『アドゥリンの魔境』で新ジョブの設計などを担当した谷口勝さんに、開発当時のエピソードを語っていただいた。また冒頭では、2009年から2010年にかけて展開したアドオンコンテンツについても振り返っている。

『アドゥリンの魔境』とは

2013年3月27日にリリースされた『FFXI』の拡張データディスク第5弾。中の国(クォン大陸、ミンダルシア大陸周辺)から遥か西にあるアドゥリン諸島とウルブカ大陸を中心とした“神聖アドゥリン都市同盟”が物語の舞台となる。そこで冒険者は開拓者となり、禁忌とされていた東ウルブカ地方の開拓に従事。その開拓を通じて、かの地にひそむ謎を解き明かしていく。物語においてはヒロインのアシェラをはじめ、アドゥリン十二名家の当主たち、エクソシストのイングリッド、謎の男テオドールなど、数多くの人物が主要NPCとして登場した。

『アドゥリンの魔境』では、東アドゥリンと西アドゥリンの街が新たな拠点として機能。冒険のエリアとしては、初期はケイザック古戦場やモリマー台地などがあり、中期にはヨルシア森林やマリアミ渓谷、後期にはカミール山麓やラ・カザナル宮といったように、順次追加されていった。

新たなエキストラジョブとして風水士と魔導剣士も追加。バトルコンテンツでは、エリアの通行の障害を排除するためのコロナイズ・レイヴや、多くのプレイヤーと共闘して七支公と戦うワイルドキーパー・レイヴ、難易度や戦利品の量などを個々に調整して挑むスカームやアルビオン・スカーム、最大18人で挑む攻略型バトルのメナスインスペクターやベガリーインスペクター、インカージョンなど、さまざまなものが実装された。

ほかには、アドゥリンの街にある各ワークスで開拓業務を行うワークスコールや、日々さまざまなアイテムの収穫などができるモグガーデンなども追加されている。また、装備にはアイテムレベル制が導入され、アーティファクトなど一部の装備をアイテムレベル付きに強化できるようになった。さらにシステム面では、ホームポイント間でのワープや、自身で目標を定めて報酬を得るエミネンス・レコード、特定のNPCとともに戦うことができるフェイスなど、より冒険がしやすくなるための要素がつぎつぎと実装されていった。

松井聡彦

『FFXI』サービス開始時から開発に携わり、バトルプランナーとしてジョブ調整などを中心にバトルシステムを担当。2012年6月、初代プロデューサーである田中弘道氏の勇退後、2代目プロデューサーとして約11年間ヴァナ・ディールを支え続けた。現在は別タイトルに開発の主軸を移しつつ『FFXI』のプランナーとしても活躍している。

伊藤泉貴

『アトルガンの秘宝』や『アルタナの神兵』では、バトルプランナーとしてビシージやカンパニエバトルなどバトルコンテンツをメインに担当。その後2010年に、4代目ディレクターの松井聡彦から引き継ぐ形で『FFXI』の5代目ディレクターに就任し、『ヴァナ・ディールの星唄』までのディレクションを手掛ける。

谷口勝

『FF』シリーズのデバッグチームを経て『FFXI』開発チームに就任し、バトルコンテンツの開発に参加。追加シナリオ『シャントット帝国の陰謀』のバトルシステムや『アドゥリンの魔境』で追加された新ジョブの風水士、魔導剣士の開発などに携わる。

『FFXI』初となるダウンロードコンテンツへの挑戦

  • 今回は拡張ディスク第5弾『アドゥリンの魔境』を中心に制作エピソードをうかがっていきますが、まずはこの企画では初登場ということで、谷口さんが『FFXI』チームに入るまでの経緯からお聞かせください。

  • 谷口

    自分はスクウェア(当時)のころから会社にいまして、初期の業務はゲームをプレイしてバグを見つける、いわゆるデバッガーでした。最初は『FFVIII』の海外版のデバッグ作業をして、そこから何本かのタイトルを担当していたと思います。そのうちに、「俺もゲームを作ろう!」と思い立って企画職に応募し、『FFXII』に携わることになりました。そして『FFXII』の海外版の制作が終わってから、『FFXI』チームに入った形になります。そこからはずっと『FFXI』ですね。

  • 『FFXI』チームにはどういった経緯で入ったのですか?

  • 松井

    以前、『FFXI』の部内テスターに谷口くんがいたのを覚えていて、社内リクルート情報で谷口くんの名前を見かけたときに「この子を入れよう!」と思って声をかけました。

  • 伊藤

    『FFXI』経験者ということで話が早いですしね。

  • 谷口

    『FFXI』のテスターをしていた時期に松井さんとも面識がありました。その縁でチームに入り、今年で17年目になります。もうそんなになるのかと、自分でもびっくりしています(笑)。

  • さて、『アドゥリンの魔境』のお話の前に、2009年の追加シナリオ3部作や、『アビセア』シリーズの開発経緯についてお聞かせください。

  • 伊藤

    まず追加シナリオ3部作については、河本さん(河本信昭氏。『プロマシアの呪縛』でディレクターを担当)が主導する形で、みんなに作業を指示していました。

  • 藤戸

    確か「拡張データディスクに頼らずとも、何か新しい展開をしていけるようにしたい」という話を、その当時に聞いた覚えがあります。

  • 伊藤

    いわゆるダウンロードコンテンツ(DLC)という形でのチャレンジはそれが初だったんですよね。ですから「新たな拡張のしかたに挑戦し、成功させよう」という目標があったと思います。

  • 開発当時、皆さんはそれぞれどのような部分を担当されていたのでしょうか?

  • 松井

    バトル班はトリガーアイテムをモンスターに持たせたり、ボス戦を作ったりしていました。追加シナリオについては、いまにして思えば「クリア報酬の装備は最初に配ってしまえばよかったなあ」とも思っています。

  • 最初にですか?

  • 松井

    ええ。DLCを購入してくれたプレイヤーに、いきなりそこそこ使える性能の装備を渡しちゃうんです。それで、クリアのご褒美として自分の好きな能力をさらにオーグメントとして付けることができる、という形でもよかったかなと。

  • 長く『FFXI』をプレイしてきた人にしてみたら、「え? 最初にくれるの……?」と逆に戸惑ってしまいそうですが(笑)。

  • 松井

    プレイヤーがゲームに使える時間というのも、時代とともに変化しています。せっかくお金を出してDLCを買ったのに、報酬は何十時間もプレイした先にあるというのは、はたしてどうなのだろうと。

  • ゲーム体験への対価なのか、それともアイテムへの対価なのか、このあたりは価値観の変化でもありますよね。

  • 松井

    たとえば、最近のソーシャルゲームでは最初に配布されるものがあって、それをさらに強化したい場合はプレイをがんばる、というようなものも多いのです。ですから、そういうトライを『FFXI』でもしてみたかったですね。

  • 伊藤さんは当時どのような部分を担当されていましたか?

  • 伊藤

    最初の2作品である『石の見る夢』、『戦慄! モグ祭りの夜』については、だいたい自分が敵キャラクターを作って配置し、バランス取りをしていました。ただ3作目の『シャントット帝国の陰謀』には関わっていません。

  • 谷口

    『シャントット帝国の陰謀』のバトルは自分が作りました。ちなみに、最後のひとつ前のバトルでクローン・タルタル部隊と戦う際、“大樹の星屑”があると彼らを弱体化できるというギミックがありました。そして最後はシャントットとのバトルになるのですが、「シャントットには弱体アイテムは効かないだろう。だったら自分が強くなるしかない!」と思って、シャントットを思いっきり強くする代わりに、自分たちもそれに対抗するために“呪いの古代文字”を集めて強化する、というイメージで設計しましたね。

閉塞感を打破するために生まれた『アビセア』シリーズ

  • そして2010年にはバトルコンテンツである『アビセア』3部作(『禁断の地アビセア』、『アビセアの死闘』、『アビセアの覇者』)が発売されます。このDLCではレベル上限開放などの大きな変化がありましたが、それにいたった経緯などをお聞かせください。

  • 松井

    『アビセア』シリーズは伊藤くんが設計していました。レベル上限については、「レベルが上がり続けるのはきびしい」ということでレベル75上限の時代が長く続きましたが、このころは「これ以上強くならないことが不満」といった声も聞こえてきていて、プレイヤーが閉塞感を感じていた時期だったように思います。

  • 伊藤

    僕らの中では、その閉塞感は打破しないといけない課題でした。ですから、それを打ち破るためのダイナミックな企画として『アビセア』シリーズを設計しています。レベル上限の開放だけでなく、プレイヤーの強さのインフレもそのためですね。

  • 確かに、アートマで強化した後のウェポンスキルの威力はかなりインフレしていましたね。

  • 伊藤

    ただその一方で、アートマによる強化はアビセアエリアの中だけに留めています。“アビセアの外でも強くなるためには装備などを手に入れる必要があり、持ち帰れたぶんだけ強くなれる”というコンセプトでした。ちなみに、アビセアエリアの中で経験値がたくさん手に入ったり、通常よりダイナミックなバトルが味わえたりといった特徴は、自分の中で“パチンコ式”と思っていました。遊び続けているとフィーバータイムに突入して、(経験値やダメージが)ドンドンジャラジャラ出てくるみたいな感じです。

  • 藤戸

    なるほど(笑)。

  • 伊藤

    「それくらいベクトルの変わった遊びができるので、アビセアエリアの中では大いに盛り上がってください。そしてアビセアから持ち帰ったものを使って、これまで苦戦していたコンテンツに挑んでみてください」という感じですね。ですから、『FFXI』のすべてをインフレさせる気はまったくありませんでした。

  • 松井さんの言葉を借りれば、『FFXI』の運営はつねに“消費されてしまうことへの不安”があったと思うのですが、閉塞感を打ち破るためにアビセアの中だけは蛇口を思い切って開けたということでしょうか。

  • 伊藤

    「もらえる経験値、多すぎ!」とQA(品質管理)部から怒られましたけどね(苦笑)。

  • 時間あたりの経験値入手量は、それまでのレベル上げの比ではなかったですからね。

  • 伊藤

    DLCは有料ですし、そういうメリットがなかったら買ってもらえないなと思いました。「『アビセア』シリーズを買うと、そういう特典がある」と思ってもらったほうがDLCとしては成功だと思ったので、たとえ怒られたとしても「いえ。このまま行きましょう」と押し通しました。

  • なおレベル上限が開放されたことにより、全ジョブに新しいアビリティや魔法を追加していくのはたいへんな作業だったと思いますが、いかがでしたか?

  • 松井

    あのころは、まだ権ちゃん(権代光俊氏。『FFXI』元バトルプランナー)も『FFXI』チームにいて、河西くん(河西雄一郎氏。『FFXI』元バトルプランナー)もいました。“考える人”と“パワフルに実装する人”の両方がいたので、バトル班としてはいちばん盤石な時期だったような気がします。また、従来のジョブ調整では特定のジョブを強化しようと手を入れると、また別のジョブにも手を入れる必要が出てきて、もぐら叩きのようになっていくのですが、レベル上限開放の際は“レベルアップで追加される能力で調整する”ことができるため、新たなバランス取りのチャンスでもありました。ですから、たいへんというよりは「このレベル上限開放を有効に使おう!」という気持ちでしたね。

『アビセア』の元ネタは某名作SF映画だった!

  • 『アビセア』シリーズの設定や物語は、どうやって決められたのですか?

  • 伊藤

    「アビセアはこういう世界で、こういうラスボスがいて……」といった基本設定は自分が考えました。従来のヴァナ・ディールとは世界線が違うため“何でもあり”ですから、みんな自由に作業できましたね。

  • 現在と地続きの過去を舞台にした『アルタナの神兵』より、並行世界である『アビセア』シリーズのほうが、自由に作業できたと。

  • 伊藤

    そうですね。ちなみに最初に作った設定は、“ジェイドがあると向こう側の世界を見ることができたり、向こう側へ行けたりする”というものでした。そのうえで、ヨアヒムを起点として“ヴァナ・ディールは平和になっているけれど、向こう側の世界はひどいことになっている”ということを、ジェイドを使って見せたかったんです。

  • 松井

    『アビセア』シリーズでは、まったく新しいマップを作れるわけではなかったので、“従来のエリアと同じ地形をうまく利用しつつ、何かが変わっているように見せなければならない”という縛りがありました。その制約の中で、あんな素敵でカッコいいストーリーができたのはすばらしいですね。「『アビセア』シリーズはストーリーが好き」と言ってくださる人もいっぱいいますから。

  • 伊藤

    じつは『アビセア』シリーズの物語を作るうえで発想の源泉となったのは、有名な某銀河SF映画の初期三部作なんですよ。

  • え? そうなんですか?

  • 伊藤

    最初にヴァナ・ディールが脅威にさらされ、苦戦し、そこから大逆襲をするというのが大枠です。まず、第1部の『禁断の地アビセア』で敵の脅威をすごく感じるわけです。人々も少なくなっていて、どんどん端に追いやられている。でも、第2部の『アビセアの死闘』では、戦地に向けていよいよ反逆を開始する。そして、第3部の『アビセアの覇者』で勝利を収めるというイメージでした。ですから、アートマは“フォース”のようなものですね(笑)。

  • 松井

    「アートマとともにあらんことを」みたいな(笑)。

“エリア番号の拡張”が新たな世界の広がりを生み出す

  • ではここからは、『アドゥリンの魔境』についてうかがっていきます。当時は『アビセア』シリーズがDLCだったこともあり、「もう拡張データディスクのような大きな展開はないだろう」という雰囲気もプレイヤーの中にはあったと思うのですが、“ヴァナ★フェス 2012”でいきなり『アドゥリンの魔境』が発表されて驚きました。どのような流れで拡張データディスクの開発にいたったのか、その流れをお聞きかせください。

  • 伊藤

    じつは自分がディレクターとしてアップデートを重ねていく中で、チーム内でも「大きなエリアの追加は『アビセア』シリーズが最後かなあ」という雰囲気がありました。というのも、マップを登録するためのエリア番号がもう尽きていたんです。エリア番号は255が上限値で、『FFXI』の初期設計時に「さすがに足りるだろう」と見積もられた数字でした。ところが、約10年運営していく中でそれを使い切ってしまったんですね。ですから、新たにマップを足そうにも空きのエリア番号がない。あとは通常のアップデートのみで続けていくしかないのかな、と思っていました。

  • 仕様の面でどうにもならなかったと。

  • 伊藤

    無理とはわかっていたのですが、ふとあるとき田中晋一さん(『FFXI』サーバープログラマー)に「エリア番号を拡張する方法って本当にないですかね?」という話をしたんです。そうしたら、「エリア番号にプラスする加算値というものを別枠で取っておいて、フラグを見て加算するかどうかを決めるという方法ならエリア番号を擬似的に増やせるかもしれないな」という答えが返ってきて。この方法なら512個までマップが作れると。

  • 一気に倍ですか(笑)。

  • 伊藤

    これはもうやるしかないと、即座に田中さん(田中弘道氏。『FFXI』初代プロデューサー)のところに行って「すぐにマップ班を編成しましょう」と相談しました。

  • 即、行動したと。

  • 伊藤

    はい。それからは、『FFXIV』のマップ班から人を借りてリーダーを立てて、それだけではまだ人手が足りないので、マトリックスさん(※)にもお手伝いを頼むことになりました。そしてアップデートの裏で『アドゥリンの魔境』のマップを先行して作り始めたわけです。

    ※株式会社マトリックス。追加シナリオ『石の見る夢』、『戦慄! モグ祭りの夜』、『シャントット帝国の陰謀』に続いて、『アドゥリンの魔境』でも開発に協力。
  • 世界設定やストーリーはそれから考えられたのでしょうか。

  • 伊藤

    はい。世界設定やシナリオのプロットとなるものは、発表するまでのあいだに自分のほうでほとんど書きました。当時イベント担当だった齋藤さん(齋藤富胤氏。『FFXI』元プランナー。カットシーン演出などを担当)と相談して、登場人物や七支公、十二名家といった設定を作っていった感じです。その後、ビジュアルもなんとか揃ってきたので、10周年を記念するリアルイベントである“ヴァナ★フェス 2012”で発表することができました。かなりのスピード感で作業したので、サプライズ的な発表になったと思います。

  • それまで、おもに岩尾さん(岩尾賢一氏。『FFXI』の世界設定などを手掛けた元プランナー)が担当していた設定の部分を、伊藤さんがディレクターとして担当していたのですね。

  • 伊藤

    たぶん岩尾さんの場合は、細かいところまで全部ひとりで設定していたと思いますが、自分はそこまで手が回らないので、企画の骨子だけ作って「みんながおもしろいと思ったものを拾って掘り下げて!」というスタンスにしました。

  • シナリオの細かい部分についてリクエストすることもあったのでしょうか。

  • 伊藤

    ヒロインであるアシェラについては、ちょっとだけリクエストしましたね。アシェラは“魔女姫”とも呼ばれているのですが、より魔女としての肉付けをするために、古の契約に従って七支公を召喚することのできる“オーダーサイン”という短剣を持たせています。ちなみに初期の設定では、オーダーサインの中に初代王オーグストの小指が入っていました。

  • なんと。

  • 伊藤

    設定としては“初代王がハデスと戦って敗れそうになったとき、小指を食いちぎって従者に持たせて帰還させ、その小指が剣に入っていることで古の契約を果たせる”といったものでした。「これでようやく魔女らしくなったかな」と思っていたのですが、この設定は海外の倫理的にNGになってしまったので、いまは爪か何かが入っている設定に変わっていると思います。

  • 藤戸

    魔女といえば、過去のハロウィンイベントには『アドゥリンの魔境』以前からエクソシストや魔女(※)が出てくるのですが、あれは西アドゥリンのほうから流れ着いた人たちの話なんですよ。それが『アドゥリンの魔境』のお話の種になっているところがあります。さらに「ほかにも西方のネタがないか?」ということで、みんなからネタを集める会を開催して、そこから設定を組み上げていったりしました。

    ※公式サイトの読み物“闇百合の魔女”(2006年10月)と、“知られざる伝説~邪眼の怪ピュラクモン~”(2008年10月)を参照。

アイテムレベル実装の経緯

  • 『アドゥリンの魔境』のストーリーでは、固有グラフィックのNPCもたくさん登場しましたね。

  • 伊藤

    あれはもう、デザイナー陣の熱意ですね。新規アートも描きたいし、たくさんキャラクターを作りたかったみたいです。

  • 藤戸

    相場さん(相場良祐氏。『FFXI』元アートディレクター)が『FFXIV』に異動した後、いわゆるアートディレクター的な中心人物はいなかったのですが、キャラモデルのリーダーやテクスチャーのリーダーなどが、みんなで協力して作り上げていきました。

  • 松井

    それこそ、“十二名家”みたいな感じでしたね。

  • 藤戸

    当時は「いまいるメンバーで、できることをとにかくやる」みたいな感じで動いていた印象があります。

  • 伊藤

    追加シナリオ3部作や『アビセア』シリーズでは、グラフィックは過去のものの流用が多かったので、デザイナー陣としてはかなりうっぷんがたまっていて、それが爆発したと言えるかもしれません(笑)。

  • 確かに『アドゥリンの魔境』では、新規グラフィックのモンスターがたくさんいましたね。

  • 伊藤

    竹ノ内さん(竹ノ内佳和氏)という元アート担当の方に、モンスターやキャラクターをたくさん描いてもらいました。それを、先ほどお話ししたリーダー陣が実際のゲームに落とし込んでいった形です。

  • 魔導剣士と風水士のアーティファクト(AF)のデザインが萩原一至さん(※)だったことも印象深いです。

    ※漫画家。代表作は『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』など。

イラスト:萩原一至

  • 伊藤

    それについては装備を描いてもらうというよりも、ほとんどキャラクターとして描いてもらいました。萩原さんのデザインは開発チームのモチベーションにもつながりましたね。

  • つぎに、『アドゥリンの魔境』でアイテムレベル制を導入した意図をお聞かせください。

  • 松井

    ちょうど自分が『FFXIV』チームから『FFXI』チームに戻ったとき、アイテムの担当者がすごく困っていたんですよ。「せっかく新しい拡張データディスクを出すのに、これまでの装備品と比べてそこまで大きく差がないものしか手に入らないというのは、モチベーション的にどうなんだろう?」と。そこで「これまでの装備をいったん超えちゃおう」と考えました。それを実現するためのアイテムレベルについては、パラメータがどれくらいのレベル相当でつけられているか、わかりやすくという意図で設定しています。実際はペットのレベルに影響するなど、ただの強さの指針という範疇を越えてしまいましたが。

  • ずいぶん思い切った決断でしたね。

  • 松井

    当時は賛否が分かれる結果になりました。また、伝説武器群(※)をどうするかについては、いくつかアイデアがあったものの、最終的には打ち直し(アイテムレベル付きへの強化)ができるようにしました。

    ※レリックウェポン、ミシックウェポン、エンピリアンウェポンといった、いわゆる最強クラスの武器群の総称。
  • 谷口

    当時は打ち直すほかに、もうひとつアイデアがありました。キャラクターの外見を固定できる機能を実装するという話を小耳に挟んでいたので、「どんな武器を使っていても見た目を変えられるのなら、伝説武器群が持つ固有の能力は冒険者自身の力としてキャラクターに内包させちゃおう」と考えたんです。そうすれば、見た目は好きなものを使ってもらって、D値等の武器性能はアイテムレベルの更新に合わせて新しい武器を使ってもらえると思いました。

  • 伝説武器群の力を取り込むイメージでしょうか。それはおもしろそうですね。

  • 谷口

    おもしろいとは思ったのですが、もしその方法にしていたら、固有の能力の組み合わせも考慮しなければならず、いまよりもバランスを取るのがたいへんだったでしょうね。また「伝説武器群はそのまま使いたい」というプレイヤーの要望も多かったので、最終的には打ち直す方法を選択しました。

  • ちなみにアイテムレベルの数値を一気に上げた理由は?

  • 谷口

    『FFXI』にはレベル差補正という仕様がありますが、『アドゥリンの魔境』以降に実装されたエリアでは撤廃されています。そうなると、ちょっとだけパラメータが上がっても強さがあまり変わらないので、強くなったことをある程度実感してもらうためにあのペースで上げました。

  • 松井

    まだ上げようと思えば上げられる?

  • 谷口

    はい。ひとまず「『アドゥリンの魔境』のラスボスはコンテンツレベル119」という設定にしたので、アイテムレベルも119が上限になっていますが、その後もコンテンツが実装されることを見据えて、上限としては150くらいまで設計していました。

  • もしアイテムレベルの上限がアップした場合、アクセサリ類を除くすべての部位を基本的には更新する必要が出てきますので、それはさすがに途方に暮れますね……(苦笑)。

  • 松井

    僕もそう思います。それに、アイテムレベルの上限を上げるとなると、合わせて実装しなければいけないものが膨大にあるんです。伝説武器群やAFの打ち直しなどですね。それらを全部フォローしようとすると、その作業だけでいっぱいいっぱいになると思ったので、119で止めることにしました。

プレイヤーの“赤盾”戦術が魔導剣士のヒントとなった

  • 『アドゥリンの魔境』では新ジョブとして風水士と魔導剣士が実装されましたが、この2ジョブの開発経緯もお聞かせください。

  • 谷口

    魔導剣士と風水士は、『アドゥリンの魔境』の開発に入ってから「ジョブ担当をやってほしい」と言われて、自分が担当しました。当時は松井さんも権代さんもチームにはおらず、相談する人がいなかったのがたいへんでしたね。

  • おふたりとも『FFXIV』チームに行かれていましたからね。新しいジョブの数についてオーダーはあったのでしょうか?

  • 谷口

    それはなかったですね。ひとつ前の拡張データディスク『アルタナの神兵』で2ジョブが追加されていたので、「じゃあ、今回も2ジョブかな」という感じでまず数を決めました。つぎに、「ひとつは歴代の『FF』シリーズのジョブから持ってきて、もうひとつは『FFXI』ならではのジョブにしよう」と考え、ひとつ目の風水士はすぐ決まりました。そして「もうひとつは何にしようかな?」とチーム内で雑談していたとき、プレイヤー間で赤魔道士が盾役をする戦術が流行っていたことが話題になり、「それをジョブにすれば?」という話になったんです。

  • プレイヤーが生み出した戦術が新ジョブの案につながったのですね。

  • 谷口

    “魔法に対する防御に長けた盾役”というポジションのジョブがいなかったので、それを軸にアイデアを練っていきました。そこから「役割は決まったけどジョブ名はどうしようか」という話になり、歴代の『FF』シリーズを見ていたらルーンナイトというジョブが『ファイナルファンタジータクティクス』の敵側にあったんです。「じゃあ、ルーンナイト=魔導剣士でいこう」という流れでしたね。

  • 実装にいたるまでの苦労もたくさんあったと思いますが、いかがでしたか?

  • 谷口

    まずレベル99までの魔法やジョブアビリティを全部考えなくてはいけないことがたいへんでした。また、『FFIII』や『FFV』の風水士は“ちけい”を使いますが、『FFXI』には地形のデータがありませんし、かといってあの膨大なエリアに新しく地形のデータを用意するのは現実的ではないと。

  • 確かに……。

  • 谷口

    そこで実際の風水について調べていった結果、“龍脈”という要素に目をつけたんです。それをもとに“地面に流れている龍脈から力を吸い出して具現化し、強化エリアを作る”というアイデアを思いつきました。さらに、もうひとつの強化を自身につけるという方法でバランスを取っていこうと考え、設計し始めた感じです。

  • 風水士も魔導剣士も、『FFXI』にとっての新しい概念が盛り込まれていて新鮮でした。

  • 谷口

    たぶん作った人間のクセのようなものが出ているのだと思います。

  • 松井

    あとは伊織くん(渡邉伊織氏。『FFXI』プランナー)の力も大きかったよね。自分だったらそこまで面倒な仕組みは作らないな、という部分もカスタムメイドで作ってくれました。方角によって効果が異なる風水士のジョブ特性(カーディナルチャント)などがそうですね。

物語とコンテンツの両方で貫かれた“開拓”というコンセプト

  • 『アドゥリンの魔境』には“開拓”という要素がありますが、そのコンセプトはどのように生まれたのでしょうか?

  • 伊藤

    せっかく新しい世界に旅立つのに、既知のものが多いと感動が少ないだろうということで、“プレイヤーの皆さんにみずから開拓してもらう”ことを軸にしようと思いました。そのコンセプトはシナリオでも貫かれていて、開拓していくと強敵が出てきて、もっと進むと七支公というさらに強いモンスターと遭遇します。そしてさらに開拓していくと迷宮が現れ、そこを封印しているのが七支公だった、という事実が判明していく。最後にはハデスが登場し、それはアドゥリンの初代王の歴史にもつながっていくという形で、気持ちよくシナリオの軸が作れました。

  • ストーリーとゲーム性を一致させたわけですね。

  • 伊藤

    一方でコンテンツについては、ちょっと“開拓”と違う内容になったとしても、大枠で“開拓”になっていれば細かいところは気にしないという感じにしました。プレイヤーの要望を受けて、途中からは開拓率が下がらないようにもしましたね。

  • 『アドゥリンの魔境』には、各種レイヴやスカーム、メナスインスペクターをはじめ、コンテンツが豊富だった印象があります。

  • 伊藤

    これまでずっとコンテンツデザインをやってきた自分がディレクターとして携わる拡張データディスクですから、たくさんのコンテンツがあるものにしたかったんです。これまでの拡張データディスクに負けないようにしたいという意気込みの表れでもありました。

  • 『アドゥリンの魔境』ではバトルコンテンツ以外にモグガーデンなども実装されましたが、こちらはどのように生まれた企画ですか?

  • 藤戸

    『アドゥリンの魔境』では企画の段階からマトリックスさんに協力してもらっていたのですが、その中にモグガーデンの草案がありました。それをもとに自分が作り込んでいった形ですね。すでにその当時のソーシャルゲームでも、毎日のログインを促すためにちょっとしたプレイで報酬を得られるような仕組みが当たり前のようにあったので、そうした要素を『FFXI』に組み込んだらどういう形になるだろうと考えていきました。

  • いわゆるデイリーコンテンツですね。

  • 藤戸

    そこで各種素材に注目したとき、「採集の手間やモンスターからのドロップ率が原因でBot行為(※)を誘発しているのなら、モグガーデンで入手できるようにしてもいいんじゃないか」と思って、毎日取れるようにしたわけです。ただし、なんの変化もないと飽きてしまうので、採集すればするほどランクが上がる仕組みや、モンスター飼育ができるようになる展開を用意して、遊ぶ意味や楽しさを盛り込んでいきました。

    ※プレイヤーが操作せず、自動で特定の行動をくり返すプログラムツールを使って採集などを行う行為のこと。
  • なるほど。

  • 藤戸

    ちなみに開発中には「飼育したモンスターを獣使いで呼び出せるようにしよう」といった案もありました。ですが、それが獣使いにとって必須になるとモグガーデンが義務になってしまうので、「それは絶対ダメ」と反発した覚えがあります。

  • 伊藤

    モグガーデンと言えば、キキルンの子どもであるチャチャルンを初めて見たときに「これは成功する」と思いました。チャチャルンは『FFXI』の中でもかなり秀逸なデザインですよね。

  • かわいいキャラクターですよね。

  • 伊藤

    もともと、キキルンは『FFXIV』でボツになったデザインを相場さんからもらったものなんですよ。そのキキルンが『アトルガンの秘宝』で活躍して、『アドゥリンの魔境』ではもっとかわいい子どものキキルンが誕生しました。のちにゲーム内でチャチャルンのイラストが描かれたTシャツ(ジュビリーシャツ)も作りましたね。グッズでチャチャルンのぬいぐるみとか作ればいいのに。

  • 藤戸

    検討させていただきます(笑)。

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