『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物をゲストに迎え、プロデューサーと対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。Season2では、藤戸プロデューサーと『FFXI』中期~後期の開発スタッフとの対談により、各拡張データディスクや追加シナリオの制作エピソードをうかがっていく。
Season2の締めくくりとなる第12回のゲストは、アンバスケードやデュナミス~ダイバージェンス~などのバトルコンテンツを担当している谷口勝さんと、プログラム技術でヴァナ・ディールを支える渡邉伊織さん。おふたりには2015年の『ヴァナ・ディールの星唄』完結後から、2023年の『蝕世のエンブリオ』の完結にかけて実装された各種コンテンツについて、開発時のエピソードを語っていただいた。
『ヴァナ・ディールの星唄』後の新たな長編シナリオとして2020年8月6日にスタートし、2023年5月24日に完結。また、2023年7月10日には後日談が追加されている。シナリオの開始には、『ヴァナ・ディールの星唄』をコンプリートしている必要がある。
物語はあるガルカの子どもを捜すところからはじまり、その途中で冒険者は黒づくめのゴブリン族グルームファントム、“キトルルス”マンドラゴラ族のマッグビフ、ミーブル族のダッツボグの3人(匹)組に出会う。彼らは“ディスティニーデストロイヤー団”と名乗り、冒険者の行く先々で物語に関わっていくことに。そして彼らの探していた“蝕世の卵”を巡り、冒険者は徐々に世界の真実へと迫っていく……。このメインストーリーでは、ほかにもこれまで語られてきたエピソードの後日談や、NPCたちのバックストーリーなどが語られていく。
また上記のストーリーと並行して、新たなバトルコンテンツであるソーティが実装。そしてストーリー上でも重要な役割を果たすプライムウェポンが、第5の伝説武器群(※)として作成できるようになった。プライムウェポンは物語の進行中に作成することになり、物語の完結と同時に最終形へと強化ができるようになる。
『FF』シリーズのデバッグチームを経て『FFXI』開発チームに就任し、バトルコンテンツの開発に参加。追加シナリオ『シャントット帝国の陰謀』のバトルシステムや『アドゥリンの魔境』で追加された新ジョブの風水士、魔導剣士の開発などに携わる。『ヴァナ・ディールの星唄』以降も、現在にいたるまで多数のバトルコンテンツの開発を担当。
谷口氏と同期で、海外版『FFVIII』のデバッグチームや『FFXI』のテスターを経て、2009年ごろに『FFXI』開発チームに就任。『FFXI』のインストーラーやコンフィグアプリケーションの改良、アイテムストレージの拡張、ゲーム内部の集計プログラムなどの開発に携わる。現在は前プロデューサーの松井氏が行っていたバトル計算式やプログラムの管理も引き継いでいる。
一騎当千のメンバーによる少人数運営のスタート
今回は『蝕世のエンブリオ』関連のコンテンツだけではなく、『ヴァナ・ディールの星唄』完結以降のコンテンツ全般について、いろいろとうかがっていきます。まずは2015年11月に『ヴァナ・ディールの星唄』の最終章が実装され、その時点では“『FFXI』のメジャーアップデートは終了”という形になっていたと思いますが、当時の開発チームの様子はいかがでしたか?
- 藤戸
当時は一部の精鋭だけが残って、開発チームもサービスもかなり縮小していくイメージだったと思います。松井さん(松井聡彦氏。『FFXI』2代目プロデューサー)も、「毎月のアンバスケード(※)の更新を中心としてがんばっていく」と言っていましたし、それ以外のところには基本的に手を加えず、最低限の運営をしていこうという体制でした。
※2016年に実装されたバトルコンテンツ。毎月のバージョンアップごとに討伐対象のモンスターが変わっていく。 結果的には以降もさまざまなコンテンツが実装されていくわけですが、その“最低限の運営”という方針が打ち出されたときのチームの皆さんの心境はどのようなものだったのでしょうか?
- 藤戸
そのときチームを構成していたのは、少人数ではあるものの、バトルを作ったりアイテムを作ったりできる“一騎当千”のメンバーばかりでした。そして、それぞれが「このチームで何ができるのか?」を探り、「この人数でがんばろう」という決意を持っていたので、悲壮感みたいなものはまったくなかったと思います。ただしチームが縮小したことで、当時のプレイヤーさんからは「もう『FFXI』は終わるのかな……?」といった雰囲気に見えていたかもしれません。
このころの谷口さんと渡邉さんは、どのようなお仕事をされていたのでしょうか?
- 谷口
当時はアンバスケードを実装するための土台を作っていました。ほかには、まだ年間計画も立っていなかったころだと思いますので、“これからの『FFXI』に必要なもの”を洗い出している最中だったかと思います。
- 渡邉
自分の場合プランナーではあるのですが、作業としては当時からプログラムの比重が大きかったですね。まわりの人が「こういうことをやりたい」という話を持ってきたときに、自分が「どうしたら実装することができるか」を考える、という仕事をしてきました。これは現在でもそうですね。
- 谷口
ちなみに、アンバスケードには内部的にいろいろなデータを集計する仕組みがあるのですが、その仕組みは伊織くんに作ってもらいました。アンバスケード担当のNPC(Gorpa-Masorpa)が出題するクイズには、ここで集計されたデータを使ったものもあります。
それがヴァナ・バウト(※)の際にも活用されたのですね。
※すべてのワールドで協力して挑む公式イベント。2023年12に開催された第1回はアンバスケードを対象とした内容で、全ワールドのプレイヤーが協力して“プローディット”と呼ばれるポイントを集めることで、特別な報酬がもらえた。- 谷口
はい。参考資料として使っていました。
- 渡邉
あと、ランキングを公開しようとしたこともありましたよね。
- 谷口
そうそう。実装はしなかったものの、“そのワールドで誰がいちばんホールマークを稼いだか”といったランキングも検討していました。実際にそういったデータをワールドごとに集計できますし、“プレイヤーの皆さんがどの難易度を何回クリアしたか”といったデータもわかる仕組みになっています。
『星唄』後も毎年実装されていったコンテンツ
そのアンバスケードが2016年4月に実装され、以降はアンバスケードの更新のみになっていくかと思いきや、その翌月にはマスタートライアル、年末にはオーメンが実装されています。この短い期間でかなり大きなコンテンツが実装されていますが、これはどういった経緯で実装にいたったのでしょうか?
- 谷口
アンバスケードを作り終わった後、「現在の体制で制作可能な、やり込んでいる人たち向けのコンテンツを作ろう」という話が挙がったんです。そこで、まずはマスタートライアル(※)を作りました。これは、「すぐにはクリアできないかもしれないけれど、プレイヤーにとって高い目標になるように」と考えて用意したものです。
※メインジョブのレベルが99かつ、ジョブマスターになっているプレイヤーが参加できるハイレベルのバトルコンテンツ。2016年5月に実装された最初のマスタートライアルは、アレキサンダー&オーディン&9体のフォモルと戦う内容になっている。 アンバスケードを作り終わってすぐのタイミングですから、開発はたいへんだったのではないですか?
- 谷口
じつはマスタートライアルの1バトルでしたら、それほど時間をかけずに作ることができたのです。さらに敵の選定についても、マスタートライアルにふさわしい相手はそれほど選択肢が多くないので、そこまでたいへんではなかったですね。
マスタートライアルの当初の難度は相当高かったと思います。
- 谷口
まずは高めの難度に設定して、あまりにも難しいようだったら調整することを考えていました。ですからクリアしたときの報酬も、名誉(性能は低いが特別な見た目の武器、および称号)のみという方針です。
つぎに登場したオーメン(※)は、開発チームが縮小したとは思えないほどのスピードで実装され、アーティファクトの強化を含めた盛りだくさんの内容でした。これはどのような経緯で計画が立ち上がったのですか?
※“醴泉島-秘境”に追加されたバトルコンテンツで、『ヴァナ・ディールの星唄』の物語を最後までクリアすることで参加可能になる。- 藤戸
シンプルに「コンテンツがアンバスケードだけではもたない」と思ったんです。アンバスケードはバトルの内容は毎月変わるものの、舞台は変わりませんし、得られる報酬も毎月ほとんど同じです。そのため「もうちょっと違うコンテンツが欲しい」という要望も高まってきていて、空いているレイヤーエリアで何か作れないかチームに相談しました。2016年の春~夏くらいの時期でしょうか。そのときに、山崎くん(山崎康司氏。『FFXI』のフェイスのシステムなどを担当)が「企画させてほしい」と手を挙げたので、彼にまかせたという流れです。
- 谷口
大枠の企画やNMは山崎くんが考えて、入り口の仕組みなどは伊織くんが作り、モンスターの配置やワープなどは自分が作っています。
開発の際、アーティファクトの強化を絡めることは最初から決まっていたのでしょうか?
- 谷口
はい。「各種ジョブ専用装束をさらに強化する道筋を作る」という方針を設けて、まずアーティファクトの強化から着手した形です。“+2”はちょっと遊べば作れるくらいの難度にして、“+3”は少し高めのハードルを設定したうえで、それに見合った強さにしました。その他の戦利品の性能も自分が設定しています。
- 藤戸
アイテムのバランスに関しては谷口くんのほか、開発チームのメンバーに意見を聞いたり、品質管理部の人たちにもアンケートを取ったりしつつ、最終的なバランスを決めています。
そしてバトルコンテンツ以外では、2017年の2月にエスカッション(※)が実装されます。これを開発するにいたった経緯をお聞かせください。
※インベンター・ワークスと合成ギルドが共同開発した、合成職人用の盾の総称。最終段階になると該当合成スキル+2、合成速度+240、ハイクオリティー成功率+2などの性能が付与される。- 渡邉
当時の合成職人用装備としていちばん高性能なものは、モグボナンザの景品のクポシールド(※)でした。でも、これはクジの景品ですから、ものすごく運がないと手に入りません。ですから、努力すれば手に入る、レリックウェポンのような位置づけの合成職人用装備が欲しいと思ったんです。
※合成スキル+3の性能を持つ盾。
数ある『FFXI』のアイテムの中でも製作難度が非常に高いエスカッションですが、その性能は絶大で、唯一無二の装備になっていますね。
- 藤戸
モグボナンザの景品が合成職人用装備のトップにあるというのは職人さんたちのモチベーションにも響きますし、合成自体をもっと盛り上げたほうが今後の『FFXI』を幅広く遊んでもらえるようになると思ったので、完成までに時間はかかるものの、それに匹敵する装備にしました。
つぎに2017年11月には、デュナミス~ダイバージェンス~(※)が実装されています。
※通常のデュナミスとは異なるバトルコンテンツで、条件を満たすことでレリック装束の強化が可能になる。エリアはデュナミス-サンドリア〔D〕、デュナミス-バストゥーク〔D〕、デュナミス-ウィンダス〔D〕、デュナミス-ジュノ〔D〕の4エリア。- 谷口
デュナミス~ダイバージェンス~については、自分ひとりで作ったコンテンツになります。
こちらはどういった意図で企画したのですか?
- 谷口
先ほどお話ししたオーメンがアーティファクトを強化するコンテンツだったのに対し、こちらはレリック装束を強化するために企画したコンテンツになります。レリック装束ですし、やはり舞台はデュナミスがふさわしいでしょうと。さらに、初期のデュナミスの雰囲気を再現したいと考えました。“石像に感知されるとモンスターが出現する”という部分も以前のデュナミスを踏襲しており、さらに新要素として“石像の目の色によって出現するモンスターの耐性が変化する”というギミックを追加しています。
- 藤戸
そういったギミック関連で「以前と仕様が違うな」と思ったら、だいたい谷口くんの仕事ですね(笑)。
- 谷口
そうですね(笑)。最初にデュナミス-サンドリア〔D〕を実装したのですが、デュナミス~ダイバージェンス~は計4エリアあり、それぞれにWAVE3までフェーズが分かれていますので、すべてを作るのに1年くらいかかったと思います。
おひとりで作られたということですが、それに対してつらさはありましたか?
- 谷口
そうでもないんですよ。ひとりで黙々と作れますし、人に気を遣わなくていいので、むしろ楽かもしれません(笑)。誰かの作業を待ったり、逆に人を待たせたりすることもなく、100%自分のペースで進められましたから。
- 藤戸
さらにそのころは『FFXI』チームがコンパクトになっていたこともあり、谷口くんが後ろを振り向くと伊織くんの席があるという状況で、「こういう性能の装備は作れる?」といったことをすぐに確認できていましたね。
一方で、もし谷口さんが体調を崩したら制作が完全にストップしてしまう、というリスクもあったのではないでしょうか?
- 藤戸
まさにそうです。ですからスタッフには「スケジュールは調整が利くので、無理な働きかたをして身体を壊さないように」といったことを毎年言っていました。少人数のチームでは、ひとりでも欠けたら立ち行かなくなってしまいますから。
“いま”だからこそ実現できたシステムの改良
そして翌2018年から2019年にかけても、A.M.A.N.トローブ(※)の実装や、アンバスケードの報酬に武器が追加されるなどの変化がありました。その中でも上位ミッションバトルフィールド“★翼もつ女神”の戦利品であるマリグナス装束は、破格の性能で実装時のインパクトが大きかったです。こちらの実装意図をお聞かせください。
※宝箱だらけの特殊なバトルフィールド。当たりの箱を開ければ貴重な戦利品を入手できるが、宝箱のひとつはミミックとなっている。- 谷口
まずは「冥護四衆が着ていた防具一式をコンテンツの報酬にしよう」というアイデアがありました。つぎにその性能をどうすべきか考えたのですが、「従来の上位ミッションバトルフィールドで得られるものと同程度では、あまり興味を持ってもらえないだろうなあ」と思いました。それで、より強い装備を報酬として用意する代わりに、ドロップ率は低めにするという調整をしました。当初は“ジョブ専用装束より少し強いくらい”にしたつもりだったのですが……。
- 藤戸
だいぶ強かったね(笑)。
- 谷口
防御面が強い代わりに、攻撃に寄与する能力はあまり上がらない装備として作っていたので、そこまで人気になるとは思っていなかったのです。でも結果的には、のちのオデシーの装備を作るときの指針にもなりましたので「このくらい強くしておいてよかったな」とも思いました。
- 藤戸
実装直後はだいぶ混雑してしまったので、急いでレイヤーエリアを二重化しましたね。
ちなみに、なぜセルビナに入り口を置いたのでしょうか?
- 谷口
まずアンバスケードを作る際に「あまり人がいない街がいいな」と思い、マウラかセルビナのどちらかにしようと考えてマウラにしました。そしてつぎはセルビナに、という感じですね。その後のオデシーについては、カザムが地形的にコンテンツを置きにくいこともあり、ラバオに実装しています。
2019年にはゲームの外側についても、インストーラーや“FINAL FANTASY XI Config”の改良などが行われています。このあたりは渡邉さんが手掛けられたのでしょうか?
- 渡邉
はい。当時はインストールの手順がとても煩雑でしたし、差分となるアップデートデータも膨大でした。そういった手順を一括でできるようにして、便利になればいいなと思って着手した形になります。
- 藤戸
新たに『FFXI』をプレイしようとする方や、ひさびさに復帰しようとする方が、長時間待たされたり設定がわからなかったりという部分でつまずいて、プレイをあきらめてしまうことが非常に多かったのです。ですから、そこはなるべくハードルを低くして、「これさえ押せばインストールできる、という状態が理想」と話をしていました。そこで“どういう形にしたいのか”を伊織くんが取りまとめてくれました。
FINAL FANTASY XI Configの改修はそれにとどまらず、2023年にはゲームパッドの設定がゲーム内でできるようになりました。こちらも渡邉さんからの提案でしょうか?
- 渡邉
はい。プレイ中にもゲームパッドの設定を変更できるといいなと思っていたので、エンジニアに相談してみたのです。すると、改修できそうということがわかり、実装に踏み切りました。
- 藤戸
こういった改修については「いまやるの?」と言われることもあるのですが、“いまだからこそできた”とも言えます。ちょっと前でしたら、「ほかにやるべきことがあるし、そちらにコストを割こう」と、利便性まわりは保留になることが多かったのです。『蝕世のエンブリオ』も完結し、これから『FFXI』は“安定した運営”に重きを置くフェーズに入っていきますから、いまこそ利便性に手を入れるタイミングだと。サーバーの仮想化(※)についてもその一環で行いました。
※物理的な1台のサーバーで、複数の仮想的なサーバーを運用すること。 - 渡邉
仮想化したことで、ハードの故障によるエリア落ちは劇的に少なくなりましたね。
- 藤戸
以前はサーバーの予備機を準備していて、サーバーが故障したら予備機に切り替えるという作業をしていました。いまは再起動するだけでプロセスが復旧するので、実質予備機が無限にあるようなものなのです。
ほかにもシステム面では、2022年に4つもモグワードローブが追加されたことに驚きました。以前のお話では「アイテムストレージの拡張はこれ以上難しい」とのことでしたが、どのようにして実現したのでしょうか?
- 藤戸
記憶領域やUIの問題が喫緊の課題ではありましたが、いちばんの問題は単純にアイテムストレージを拡張しただけでは、エリアチェンジ後のアイテムの読み込み時間がさらに長くなり、それはもはやプレイヤーの許容範囲を超えていることだと思いました。アイテムの所持数が増えても、それが原因で大きなストレスを生むのであれば、元も子もないですよね。そうした問題が解決できない限り、拡張はしないほうがいいという判断をしていました。とはいえ、ストレージが足らないという問題はずっと指摘されていたので、「プレイヤーの皆さんの判断で拡張するかしないかを決めてもらう」という形で、実現に向けて検討を進めました。
このストレージの拡張と同時に、ストレージ間で直接アイテムの移動ができるようになっているんですよね。
- 藤戸
そうです。もともとの『FFXI』の仕様としては、モグ金庫やモグサッチェルなどの各ストレージからアイテムを移動させる際、必ずマイバッグを経由する必要がありました。これを、ストレージどうしでアイテムの移動ができるような設計にしてほしいと、伊織くんに依頼しました。
- 渡邉
自分はこの設計をしましたが、実装はエンジニアが行っています。ストレージまわりはデュープ(※)などの不正行為ができないようにかなり堅牢に作られていて、専門外の人間が気軽に手を出していい領域ではないんです。
※正規の方法以外でアイテムを複製すること。 それにしても、かなり思いきって増やしましたよね。
- 藤戸
アイテムが増えるたびに「ストレージを増やしてほしい」という意見をいただくので、「この際だから限界まで攻めよう」と一気に増やしました。UIの面からも現状が本当に限界という判断です。装備セットも同じですね。こちらも伊織くんに設計してもらいました。
技術的な相談があったら、まずは渡邉さんに相談して設計してもらう、という流れなのですね。
- 藤戸
いまは伊織くんに頼りきりですね(笑)。何をするにしても、まず伊織くんに確認してお願いするという感じです。
再び“レベルが上がって強くなる”という楽しみを
コンテンツの話に戻りますが、2020年3月にはオデシー(※)が実装され、8月にはいよいよ『蝕世のエンブリオ』がスタートします。
※ウォークオブエコーズを舞台とした探索型バトルコンテンツ。- 谷口
オデシーはもともと、エンピリアン装束を強化するためのソーティ(※)と並列関係にあるコンテンツとして考えていました。ただ、エンピリアン装束の強化を先に実装すると、どうしてもそちらに目が向いてしまうと思ったので、先にオデシーを実装したわけです。ちなみに、オデシーの装備品は実装当初はRank 15まで強化できる形になっていましたが、データ自体はRank 30まで初めから作ってあり、あとは順次開放していくだけの状態にしていました。そして、その裏ではエンピリアン装束のデータやほかのコンテンツの企画、そして『蝕世のエンブリオ』のバトルの開発などを進めていました。
※ラ・カザナル宮外郭〔U〕を舞台にした探索型バトルコンテンツ。『アドゥリンの魔境』のミッションと『ヴァナ・ディールの星唄』をクリア後に突入可能になる。 - 藤戸
『蝕世のエンブリオ』では“道中にどんな話を散りばめて、どう組み立てるか”ということに苦労しましたが、バトルについては比較的自由に作ってもらいました。そのバトルで描くべきものがきちんと表現されていれば、好きに作ってもらって問題ない、という感じでしたね。一方で、物語に必要なアイテムや報酬のアイテムについては、これまでにないくらいイベント班と話し合って決めていきました。
- 谷口
プライムウェポン(※)についても、当初から物語の中で使うことが決まっていたので、「どういうふうに作りましょうか?」という相談をしましたね。そこで「2段階目まではシナリオで必要となる形にして、それ以降の強化はプレイヤーの自由に」という方向性に決まりました。
※『蝕世のエンブリオ』の物語の過程で作成することになる武器群。強化することでレリックウェポン、ミシックウェポン、エンピリアンウェポンといった、ほかの伝説武器群に匹敵する性能になる。
エンピリアン装束の強化やプライムウェポンに限らず、新しい装備品の性能を決めるときに気をつけていることや、性能付けの指針のようなものはありますか?
- 谷口
強い装備を作るときは、“攻撃と防御は高いが命中は低い”といったように、どこかに穴があるようにして、“その装備さえあればいい”という状況にならないように気をつけています。オールマイティに強い装備を作るのは簡単なのですが、それ一択になってしまってはいけないなと。
プライムウェポンについては、性能付けに悩まれたりしましたか?
- 谷口
プライムウェポンは伝説武器群であり最強の武器の一角という位置づけですから、武器種ごとに順当に強くすればよく、さほど困りませんでした。いちばん悩んだのは、オデシーのシェオル ジェールで手に入る装備でしたね。ジョブ専用装束なら、そのジョブ固有の性能を付ければいいのでわかりやすいのですが、複数のジョブが装備できるものになると、“このジョブにとってはよい性能だが、別のジョブだと物足りない”といったことがどうしても出てきてしまいます。そこはかなり気を配りました。
『蝕世のエンブリオ』の展開中には、2021年11月にマスターレベル(※)も実装されています。もう成長要素は入らないと思っていたので驚きましたが、導入の経緯を教えてください。
※ジョブマスターになったジョブをさらに成長させる要素。マスターレベルを上げることで、各種ステータスやサポートジョブのレベル上限がアップする。- 谷口
このまま運営を続けていくには、ジョブポイントだけでは成長要素が足りないのではないか、と思ったのが発端です。また、ジョブポイントによる強化ではSTRやDEXなどのステータスが上がらなかったので、「従来のレベルアップのような形でステータスを伸ばそう」と思って進めていきました。なお、そのステータスアップですが、効果はそれなりにあるものの、印象としては地味なこともあり、「成長した!」と明らかに感じられる要素がほかに必要でした。そこで松井さんとも相談して、サポートジョブのレベル上限も上げることにしました。
サポートジョブのみのレベル上限開放とはいえ、使えるジョブアビリティや魔法が増えるのは『アビセア』以来になりますから、大きな変化です。
- 谷口
ただ、“ハートオブソラス”や“ハートオブミゼリ”、“コンポージャー”といったジョブアビリティは、そのメインジョブならではの個性として、サポートジョブに設定しても使えないように制限させてもらいました。
そうした制限はありますが、最大の50までマスターレベルを上げると、全ステータスが+50ですから、かなりの強化になりますね。
- 谷口
ステータスが上がっていくとダメージや命中、防御力など、すべての強化に直結します。さらに、戦闘スキルと魔法スキルの上限も上がりますし。自分は昔のレベル上げが好きだったので、あのころの「レベルが上がって強くなる」という感覚が欲しかったんです。あとは、コンテンツで目的の戦利品が入手できなかった場合、ほかに何も得られないという状況を打破したかったのもあります。コンテンツをプレイするとエクゼンプラーポイント(※)がもらえて、何かしらプラスになっているというようにしたいなと。
※マスターレベルを上昇させるために必要なポイント。
経験値といえば、2023年11月に実装された新バトルフィールド“桃色輪舞曲”(※)でも、大量のジョブポイントやエクゼンプラーポイントを入手できます。これはどういうきっかけで企画されたのですか?
※アシュタリフ号を舞台としたバトルフィールド。3~6人のプレイヤーが参加可能で、プレイヤーの数に応じて敵の数も変化する。- 谷口
ソーティをすべて作り終えて手が空いたときに、伊織くんと話をする中で企画がまとまって、藤戸さんに相談してみた、という流れですね。
- 藤戸
最初に相談されたときは、このバトルフィールドを実装する必然性というか、なぜこのタイミングなのかという納得感も含めて考えてほしくて、いったん差し戻しているんです。
- 谷口
そこで改めて計画を立てて、「『XI』の月である11月に、ハロウィンも兼ねてどうでしょう?」という感じで再提案したんですよね。
- 藤戸
それで「ハロウィンだったら企画としてもアリだろう」となり、ハロウィンのお楽しみ要素でありつつ、恒久的なコンテンツとして残る形で実装することになりました。
- 谷口
ちなみに元ネタは『FFIV』で登場したレアモンスターのプリンプリンセス(※)で、そのイメージを『FFXI』に置き換えて作っています。ですから『FFIV』の“アラーム”に相当するアイテムが“インプの霧笛”になっています。あと、『FFIV』における“バーサク”をどうやって再現しようか悩んでいたのですが、伊織くんから「魅了の枠を使えばいいんじゃない?」とアイデアをもらい、“アニメーター”という技名にして、あのエリア専用の特殊な挙動として作ってもらいました。
※『FFIV』のラストダンジョンで特定の部屋にのみ登場するモンスター。非常に出現確率が低いが、アイテムの“アラーム”を使用すると確実に出現する。倒すと低確率で落とす“ピンクのしっぽ”は、高性能な防具であるアダマンアーマーと交換できる。 アダマンアーマーも戦利品として魅力的ですが、エクゼンプラーポイントが大量に入手できるのがうれしいです。
- 谷口
“アダマンアーマーを取って終わり”だともったいないので、通い続けられるようにしたいと思いました。ただ、アシュタリフ号はかなり昔に作られたエリアのため、混雑に対する融通が利かず、1日1回という制限を設けたうえで、トリガーアイテムの入手確率も低めに設定しています。
『FFXI』の“実家感”を大切にしていきたい
ここまで『ヴァナ・ディールの星唄』の完結後から現在にいたるまでのコンテンツについてうかがってきましたが、アンバスケードの実装から数えても、もう約8年になります。改めて、ここまでを振り返っての感想をお聞かせください。
- 谷口
“そのとき作れるものを作ってきた”という感じですが、振り返ってみると「意外といろいろなものを作ったなあ」と(笑)。
- 渡邉
個人的な感覚ですと、この8年間は“いつも通り”という感じでしたね。それよりも『アドゥリンの魔境』がとにかくたいへんでした。松井さんをはじめ、それまで主力だった開発メンバーがほとんど抜けた状況で、新エリア、新ストーリー、新ジョブ、新装備、それはもう、ものすごい物量と向き合わなければいけませんでしたから……。あと、印象深いのはマウントの開発です。マウントの企画自体は別のスタッフによるものですが、前任者からそれを引き継いで、なんとかいまの数を用意することができました。
- 藤戸
ここ数年については、あまりたいへんだとは思っていなかったんだ(笑)。
- 渡邉
『アドゥリンの魔境』のころと比べると、ですよ(笑)。
いまも、たいへんはたいへんですよね(笑)。藤戸さんから見れば、渡邉さんは『FFXI』の命をつないできた立役者のひとりでしょう。
- 藤戸
この8年間において “年に1回は大きなコンテンツを入れる”ということを継続できたのは、まさに伊織くんや谷口くんたちのおかげです。彼らに作り続けてもらうことができて、本当によかったと思います。
最後にプレイヤーの皆さんに向けて、今後の『FFXI』に関するメッセージをお願いします。
- 谷口
以前に藤戸さんも言っていたと思いますが、『FFXI』にとって重要なのは“実家感”かなと思います。もうすぐ22周年を迎えようとしていますが、現役の方だけでなく、以前遊んでいた方にも「まだ続いているんだ、いつでも戻れるんだ」という、この“実家感”を味わってほしいと思います。
- 渡邉
いまのプレイヤーさんは昔から遊ばれている方も多いと思うので、もし新しい人が入って来たらできる限りフォローしていただいて、リンクシェルなどにもガンガン参加させてあげてほしいですね。
- 藤戸
谷口くんも言っていましたが、“実家感”というキーワードは今後の運営において中心に据えておこうと思っています。いまはゲームサーバーのリプレースを進行中ですが、これは言い換えれば“あと数年は続くことが確定している”ということです。ですから、あとはプレイヤーの皆さんがより楽しめるようにどう運営していくか、ですね。今後の『FFXI』は最低限のアップデートとなり、できることはいままで以上に限られてはきますが、プレイヤーの皆さんが「ここはこうなってほしい」と感じるところは、これからも改善していきます。ゲームの外側も含めてまだまだ盛り上げていきたいと思っているので、プレイヤーの皆さんもぜひ、いっしょに盛り上げていただけたらうれしいです。