『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物をゲストに迎え、プロデューサーと対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。 そのSeason2では、藤戸プロデューサーと『FFXI』中期~後期の開発スタッフとの対談により、各拡張データディスクや追加シナリオの制作エピソードをうかがっていく。
第4回のテーマは、拡張データディスク第3弾『アトルガンの秘宝』の物語。当時、おもにストーリーやイベントなどの制作を担当していた加藤美穂子さん、高橋久美子さん、石川仁寿さんに、開発時の現場を振り返っていただいた。
2006年4月20日にリリースされた『FFXI』の拡張データディスク第3弾。これまでの冒険から大きく舞台を移し、近東のエラジア大陸にあるアトルガン皇国周辺で物語が展開する。冒険者は傭兵派遣会社“サラヒム・センチネル”に入社して傭兵となり、社長であるナジャ・サラヒムのもとで活動していくことに。傭兵として活動していく中で出会うキャラクターとしては、ヒロインである宮廷傀儡師のアフマウや、そのお供として登場するオートマトン・アヴゼンとメネジン、ヤグードの剣士・ゲッショー、幽霊船の船長・ルザフなど、これまで以上に個性豊かなNPCが多数登場した。
新たな街・アトルガン白門(しろもん)は、競売所やギルドといった需要の高い施設が揃っていたほか、コンテンツへの参加受付、各地へのワープの機能も兼ね備え、ジュノ大公国から移り替わる形で冒険者の新拠点となった。ほかにも、新たな獣人のテリトリーであるマムーク、ハルブーン、アラパゴ暗礁域や、ワジャーム樹林、ゼオルム火山、カダーバの浮沼など、多様な新エリアが追加された。
新たなエキストラジョブとしては、青魔道士、コルセア、からくり士の3ジョブが実装。バトルコンテンツは、最大700人の冒険者が街を防衛するために戦う大規模バトルのビシージ、傭兵階級を上げるためにさまざまな作戦に従事するアサルト、装備がすべて外された状態でスタートするサルベージなどが実装された。バトル以外のコンテンツでも、チョコボを卵から育てるチョコボ育成、育成したチョコボをレースに出場させるチョコボレース、モンスターを捕らえて闘獣場のステージで闘わせるパンクラティオンなどが追加されている。
スクウェア・エニックス4期研修生として入社。『FFXI』チームに配属され、フェローシップクエストのシナリオなどを担当。『アトルガンの秘宝』ではメインライターとして、ミッションやクエストのストーリーを手掛ける。
5期研修生として『FFXI』チームに配属となった後『キングダム ハーツII』の開発に携わる。その後、『アトルガンの秘宝』で再び『FFXI』チームに合流し、クエストなどを担当。『アルタナの神兵』ではメインライターを務める。
3期研修生として『プロマシアの呪縛』から『FFXI』チームに配属となり、おもにシステム面を担当。『アトルガンの秘宝』ではミニゲームや各種システム、からくり士AFクエストなどを手掛ける。現在は『FFXIV』のバトルコンテンツデザイナーを務めている。
優秀な新人を発掘できた研修生制度
今回はおもに『アトルガンの秘宝』のストーリー制作についてうかがいますが、まずはその前に、皆さんが『FFXI』チームに配属された当初の話をお聞かせください。
- 加藤
私は研修生として『FFXI』チームなどで研修をしたのち、『アトルガンの秘宝』が企画として走り出したころに入社が決まり、『FFXI』チームに配属されました。
研修でいきなり『FFXI』チームに配属されたのですか?
- 加藤
はい。当時のスクウェア・エニックスには研修生制度というものがあって、3カ月のあいだにいろいろなプロジェクトを1カ月ごとに回るんです。そして、合格しないと2カ月目はない、という感じで……。
- 石川
脱落していくんですよね。
- 加藤
まるで“デスゲーム”みたいに……。
- 高橋
仲間たちが毎月いなくなる可能性がありましたからね(苦笑)。
その研修先のひとつが『FFXI』チームだったということですね。
- 石川
そうです。自分たちは3人とも、その研修生でした。
- 加藤
石川くんが3期研修生、私が4期、高橋さんが5期で、それぞれ半年くらいの違いで入社しています。
- 高橋
ほぼ同じ時期に入った同年代のメンバーみたいな感覚ですね。
当時の『FFXI』チームには、たくさんの研修生が入ってきていたのですか?
- 石川
「『FFXI』チームは研修先として優秀」と言われていたんですよ。と言うのも、『FFXI』はすでに走り出しているプロジェクトで、定期的にバージョンアップがある。つまり、短い期間で企画から制作、実装、そしてその反響を見るところまで体験できるので、新人の研修としては申し分なかったんです。
- 藤戸
この研修のおかげで『FFXI』チームに人が増えました。以前の河本さん(河本信昭氏。『プロマシアの呪縛』でディレクターを担当)のお話(Season2 第1回参照)でも、「ようやくチームに人が増やせる」と語っていましたが、どうやって増員するかにあたってのひとつの解決策が、この研修生制度でした。
優秀な新人がたくさん『FFXI』チームに入ってきたわけですね。
- 藤戸
そうです。新人が作ったものでもプロットさえ問題がなければ、河本さんや齋藤さん(齋藤富胤氏。『FFXI』プランナー。カットシーン演出などを担当)、佐藤さん(佐藤弥詠子氏。プランナーとしてウィンダスや『プロマシアの呪縛』のシナリオなどを担当)のサポートを受けながら作り込んで、どんどん実装していきました。
- 高橋
"企画を立ててシナリオを書き、それをスクリプト(※)にして、実機上で動かす"というところまでを1カ月で行う研修が『FFXI』にはありました。もちろん、その都度上司のチェックも入ります。そういった感じで、ゲーム作りのひと通りのことが経験できるいい研修でした。
※『FFXI』専用に開発された簡易的なプログラム言語のこと。 - 藤戸
実装されると、プレイヤーさんからすぐ反応が返ってくる点もいいですよね。
- 石川
『アトルガンの秘宝』で人気があったクエストの中には、研修生が1カ月で作ったものもありますよ。
- 加藤
“シャララト日和”とか“空知らぬ雨”はそうですね。
- 高橋
研修で作り上げたものはだいたい実装されていると思います。
皆さんはそのまま研修期間を経て、『FFXI』チームへ配属になったのですか?
- 加藤
はい。私は当時まだ学生だったので、最初の半年ほどは週に3日ぐらいの出勤でしたね。
- 高橋
私は『FFXI』の研修の後、『キングダム ハーツII』のチームに入りました。それがリリースされた後、『FFXI』チームに合流しました。確か、『アトルガンの秘宝』発売のちょっと前だったと思います。
なぜ『FFXI』チームに戻ることになったのでしょうか?
- 高橋
じつは、私は入社する前から『FFXI』をプレイしていたんです。『FFXI』は世界設定が重厚で、ジョブやバトルなどのシステム面もかなりの積み重ねがあります。ですから、プレイヤーとしてすでにその知識がある私は、『FFXI』チームにとってちょうどよかったのかもしれません。
『FFXI』をゼロから説明するのはたいへんでしょうし、最初から遊んでもらうにしても、時間がかかりますからね。
- 加藤
『アトルガンの秘宝』発売の少し前くらいと言えば、河本さんが各チームの研修生をどんどん集めていた時期でした。というのも、木越さん(木越祐介氏。『FFXI』のプランナー。クエスト演出などを担当)や佐藤さん、河本さんなど、たくさんの人がそのタイミングで『FFXI』チームから抜けることになっていたのです。ですから、齋藤さんに研修生の若者たちの面倒を見てもらいつつ、「研修生に教えることで齋藤さんも成長し、研修生は研修生で新しいプロジェクトの中で切磋琢磨して成長してほしい」といったような意図が、きっと河本さんにはあったのだと思います。
- 藤戸
河本さんの組織作りに対する手腕ですよね。
石川さんが『FFXI』チームに入ったのはいつごろですか?
- 石川
自分は『プロマシアの呪縛』の前です。『プロマシアの呪縛』の開発要員として入れられたような感じですね。自分も最初の研修先が『FFXI』チームでしたが、ふたりよりもシステム面での作業が多かったです。
『プロマシアの呪縛』では、具体的にどのような仕事をされていたのでしょうか?
- 石川
いちばん最初に担当した仕事は、マナクリッパーや、ギルド桟橋のバージのシステム作りでした。ほかには、夏祭りの肝試しなど、ミニゲームのようなものを作っていましたね。
- 加藤
その後、『プロマシアの呪縛』の発売直前くらいに私が研修で入って、その研修で作ったタブナジアのクエストが実装されたのを覚えています。タブナジア関連のクエストを作っている時期に高橋さんも研修で入って来て、マネキンのクエストを作っていました。
- 石川
加藤さんはフェローシップクエストのシナリオも書いていたよね。
- 加藤
そう! そしてフェローシップのシステム自体は石川くんが作っていました。
- 石川
性格ごとのフェローたちのセリフも自分で書きました。
- 藤戸
フェローは性格によって口調が違いますが、石川くんたちががんばってたくさんのバリエーションを書いてくれたんですよ。でもその後、レベル99への上限開放に対応するときに同じ数だけ新しいセリフを書かないといけなかったのはたいへんでした(苦笑)。
高橋さんがチームに合流したのは『アトルガンの秘宝』の発売前とのことですが、開発はどの程度進んでいたのですか?
- 高橋
企画はだいたい固まっていて、「発売日はこのあたり」というのも決まっていました。その時点で、発売までもう半年もないころだったと思いますが……シナリオはほとんどできていなかったんです。
え?
- 一同
(笑)。
- 高橋
マップなどのグラフィックはできていたのですが、話などの中身はこれからという感じだったんですよ。「オンラインゲームはこんなスケジュール感で作っているんだ!」とすごくびっくりしました。
スタンドアローンのゲームであれば、発売の半年前にはあらかた中身はできていて、テストプレイを始めている期間ですよね。
- 高橋
そうですね。その感覚でいたので、すごく驚いたことは覚えています。
メインストーリーは長編になる予定ではなかった
『アトルガンの秘宝』の開発時期に、『プロマシアの呪縛』のメインライターであった佐藤さんがプロジェクトから一時的に離脱しますが、ストーリー制作の面で不安などはありましたか?
- 加藤
佐藤さんが異動された後もブースはずっと残っていましたし、『プロマシアの呪縛』のバージョンアップはまだ続いていたので、その相談のために齋藤さんのブースに佐藤さんがよく来ていました。さらに、『アトルガンの秘宝』が始まってからは私も佐藤さんとやり取りすることが増えましたから、私としては「佐藤さんって、いなくなっていたっけ?」という感じではあります(笑)。
- 高橋
そういえば、私が合流したときに河本さんから「メンバーが大幅に入れ替わるけど、あなたたちの好きなことをしていいよ」と言われたのを覚えています。「『FFXI』はここまで続けてきた実績があるから作業しやすいし、新しいことも始めやすいと思うから、どんどん好きなことをしていい」と言って渡されたので、「じゃあ好きなことやろう!」と。だから、不安やプレッシャーはあまりなかったですね。
舞台設定については、マップ先行で“近東の地”と決まったようですが、シナリオ側からも何かリクエストはあったのでしょうか?
- 石川
いえ、そこは本当にマップ先行でしたね。
- 加藤
「マップはある。キャラクターは汎用ではない新規のものをふたりぶん発注してある。あとはよろしく。」という感じでした。
それがアフマウとルザフですか。
- 石川
アフマウとルザフは加藤さんの発案ではなかった?
- 加藤
いえ、岩尾さん(岩尾賢一氏。『FFXI』の世界設定などを手掛けた元プランナー)がすでに発注していました。私がシナリオ担当になった後、キャラクターデザインについて相場さん(相場良祐氏。『FFXI』元アートディレクター)から最終確認依頼が来た覚えがあります。
では舞台とキャラクターはすでに用意してあって、その中でストーリーを考えてくださいというオーダーだったわけですね。
- 加藤
はい。ただ、河本さんは開発の初期段階から「『プロマシアの呪縛』のような長編を作れと言うつもりはないよ」とずっと言っていました。『アトルガンの秘宝』自体はコンテンツを主軸にした拡張として企画されていたので、ストーリーについては3国ミッションの導入部分程度のボリュームを想定していたようです。
それなのに、『アトルガンの秘宝』も長編になったのはなぜでしょうか?
- 高橋
やはり“いいもの”を作りたいんですよ。齋藤さんもそうですし、みんなイベントシーンの映像や演出にすごく凝りたいタイプなので。
そのこだわりは、プレイヤーにも伝わっていると思います。
- 高橋
具体的には、まず私たちが物語のプロットを書きます。それを岩尾さんがチェックして修正が入ります。それをまたバーっと直します。このようなやり取りを何往復かするのですが、その過程でどんどん物語が長くなっていくんです。そこから短くしようにも、やはり修正後の内容のほうがいいので、「じゃあ、これで実装しよう」となるわけです。
その積み重ねで現在のボリュームになったというわけですか。
- 加藤
そうですね。2~3カ月おきに試行錯誤しながら作り上げていった結果、いまの長さになりました。
- 石川
さらに、カットシーンも自分たちで作っていたんですよ。
- 藤戸
『FFXI』のシナリオ担当者はみんなそうですね。
- 高橋
その際、モーションとエフェクトの担当の方々からも「このシナリオなら、こういう演出はどう?」とアイデアが出てきて、どんどんリッチになっていきました。
そもそものストーリー全体の大まかな流れは、どのように決まっていったのでしょうか。
- 加藤
それまで私が長いお話を考えたことがなかったのもあり、最初に「アトルガン皇国の歴史を考えよう」というレクチャー会のようなものが実施されました。小川さん(小川公一氏。『アトルガンの秘宝』、『アルタナの神兵』でディレクターを担当)、齋藤さん、岩尾さん、私の4人がメンバーで、まずはアトルガン皇国の歴史を決めて、それを踏まえたうえで話を考えていきましょうと。
なるほど。イフラマド王国との対立、国家としての目論見など、国のディテールから固めていったわけですね。
- 加藤
“黒き神と白き神”を登場させることも決まっていました。ただ設定のみで、オーディンとアレキサンダーをどう絡めるかということは、その後で考えていきました。ですから、最初の時点では結末までは決まっていませんでしたね。
お姫様はいつも寂しさを抱えている
『アトルガンの秘宝』のストーリーではコミカルな展開がありつつも、皇国の内政、他国との外交、さまざまな人物との離別、魔笛を巡る蛮族との小競り合いなど、シリアスな内容が多く描かれていました。テーマやコンセプトはどのようなものだったのでしょうか?
- 加藤
もともとのイメージとしては、「新しい国なので、“ワクワクできて、ドキドキアドベンチャーで、金銀財宝ザクザクだぜ!”みたいな感じでいきたい」と小川さんが言っていました。マップも先行で作られていたので、それを魅力的に見せたり、ドキドキ、ワクワクな雰囲気を伝えるにはどうしたらいいかと考えていたらあのようになった、という感じでしょうか。
“争い”や“別れ”、“欲望”、“愛”のような、特定のテーマがあったわけではなかったのですね。
- 加藤
あとメインのストーリーでは、“アフマウがナシュメラとして生きていく覚悟をする話”を描きたかったんです。“お姫様が女王様になるには、何を持ち、何を捨てなければならないか”、“国を背負うということを、身をもって実感するとはどういうことか”、“ラズファードが言葉を尽くしても、過保護に育てられたアフマウには伝わらないものがある……”といったことを、シナリオ制作時に考えていた覚えがあります。
アフマウは3代目のヒロインとして、すごく魅力的に描かれていたと思います。
- 加藤
持論なのですが、古今東西、お姫様はいつも寂しさを抱えているものだと思っていて、その寂しさに対峙するものとして、アフマウのキャラクターでは天真爛漫さを強く出しました。寂しさは抱えたままで……ですね。それは、つねにオートマトンを2体連れていることでも表現したつもりです。
なるほど。
- 加藤
そしてアトルガン皇国は戦争中の危険な国なので、天真爛漫さが招く愚かさで、人が多く死んでしまいます。それらを完全ではなくともアフマウが理解できるようになり、最後はすべてを引き受ける覚悟をして、屹然と女王の座に戻る……そんな姿を目指して、プロットやセリフを書いていきました。それが、皆さんに伝わる形になっていたなら幸いです。
オートマトンのアヴゼンとメネジンもいいキャラクターでした。
- 加藤
最初は1体しかオートマトンを連れていなかったのですが、私が「2体にしたい」とリクエストしました。まだあのころは加減がわからなくて、「使えるものは全部出したい!」と思っちゃったんですよね。
- 石川
オートマトンがしゃべるという設定は?
- 加藤
とりあえずオートマトンを連れているということだけ決めて、制作を進めていくうちにしゃべりだした気がします。話を作っている途中で岩尾さんもノリノリになって、「オートマトン(アヴゼン)の顔の部分はモニターにしていいよ」と設定を付け加えていきました。
ほかにもキャラクターとしては、ナジャ社長をはじめとした破天荒な人物によるコミカルな展開も、『アトルガンの秘宝』の大きな特徴ですよね。
- 石川
真面目な設定はだいたい岩尾さんが書いていて、コミカルなものはだいたい自分たちの“しわざ”かなあ(笑)。
ナジャ社長のキャラクター設定はどうやって決まったのでしょう?
- 加藤
「傭兵会社の社長がいる」という設定は当初からあったのですが、ふと設定の別の場所を読むと「トリオンが傭兵になる」と書いてあったんですよ。王子様を傭兵にするほどの人物ですから、「社長には強引な人を置くしかないかな」という感じになりました。
- 高橋
そういえば、ナジャ社長にモーニングスターを持たせたのは齋藤さんだった気がします。
- 加藤
セリフを書いた後は、齋藤さんが絵コンテ切って、カメラ演出をつけて……という流れなのですが、そこで齋藤さんがおもしろい演出を付け足していくんですよね。「〇〇を持たせたらおもしろくない?」とか、「立ちかたはこうする?」とか。
さきほど、初期段階では結末が決まっていなかったという話がありましたが、主要キャラクターのひとりであるルザフの設定は、どこまで決まっていたのでしょうか。
- 加藤
“亡国の王子様で、アトルガン皇国に恨みを持っていて、死から生き返った存在”という設定はありました。でも、それ以外はほとんど決まっていませんでしたね。
五蛇将クエストは田中プロデューサーからのリクエストだった
ほかにも、五蛇将、ゲッショー、アブクーバなど、『アトルガンの秘宝』には個性的かつ印象深いNPCが多数登場しますが、これらの人物が生まれた経緯をお聞かせください。
- 加藤
アブクーバは、たしか齋藤さんがああいうキャラクターにした記憶があります。
- 石川
ゲッショーは誰が作ったっけ? けっこう初期から見た気がするけど。
- 加藤
ゲッショーは初期の設定からキャラクターリストにありましたね。設定では“隠密”のようなことが書いてあったと思いますが、私が“しゃべる動物”好きなこともあって、いっぱい登場させたくてあんな感じに(笑)。
- 藤戸
その話で思い出しましたが、じつはキキルン語を開発したのは加藤さんなんですよ。それで、『アドゥリンの魔境』でチャチャルンが登場することになったとき、加藤さんにセリフの相談をしました。
五蛇将についてはいかがですか?
- 石川
五蛇将については、当初からビシージというコンテンツのために用意されたキャラクターという感じでした。
- 高橋
バトルコンテンツ用に作られたNPCでしたね。
- 藤戸
あとから五蛇将のクエストが追加されましたが、あれは田中さん(田中弘道氏。『FFXI』初代プロデューサー)のオーダーでした。
なんと、田中さんから!
- 高橋
“「五蛇将が人気だから彼らのクエストを作ってほしい」と田中さんが言っている”、と小川さん経由で聞きました(笑)。それで、「誰か手が空いている人いる?」と聞かれて、ちょうどコルセア関連クエストの作業が終わったばかりの自分が、「じゃあ、私がやります」と。
五蛇将の細かい設定はそこから高橋さんが考えたのですか?
- 高橋
もともとの設定は岩尾さんが作っていて、それをクエストのシナリオに起こす際に付け足していき、「こういうのでいいですか?」と岩尾さんにチェックしてもらって書いた気がします。クエストで明かされるミリ・アリアポーの過去なども、そのチェックの過程で付け足されていきました。
シャントット(カラババ)はどういった経緯で登場したのでしょうか? やはり、シャントット自体の人気が高かったからでしょうか。
- 加藤
新しいグラフィックのキャラクターを発注できる数は限られていたので、「いまあるものを駆使して、にぎやかな感じを出すにはどうしたらいいか」ということを考えた結果だったと思います。ちなみに、既存のNPCを登場させる場合は、担当していた方に監修してもらうというルールがあり、カラババ、トリオン(ライファル)、シドについても岩尾さんチェックを経て、佐藤さんや木越さん、河本さんに見てもらっていました。
- 高橋
そうしたリソース的な問題のほかには、“それまでの舞台から遠く離れた場所にある国の話”だけで完結してしまうと広がりがないので、“いままでの世界の延長線上の話である”ということや、“各国とどういう関係性なのか、どういう世界情勢なのか”などを見せて世界に厚みを出す、という目的もあったように思います。
ほかにも『アトルガンの秘宝』で担当された仕事の中で、印象に残っていることはありますか?
- 石川
自分はからくり士のAFクエストでしょうか。当初はガッサドを中心にした話だったのですが、制作過程で自分が作り直すことになり、いまの形になった経緯があります。また、からくり士などのレリック装束は当初デュナミスではなく、クエストで入手するという案もありました。そのため「(AFクエスト完結後も)つぎのクエストにつながるように話を作っておいて」というオーダーを受けていました。
そのとき考えられていたのはどのような話だったのでしょう?
- 石川
からくり士のAFクエストにはオートマトンが好きなミスラの少女(Kuh Polevhia)が出てきますが、その子がのちのち服=レリック装束を作るという構想がありました。そして、“その少女がアルザビに戻ってきて、すべてのギルドマスターを倒す”みたいな設定も考えていました(笑)。
ちなみに、コルセアは高橋さんが担当されていたとのことですが、青魔道士はどなたが担当されたのですか?
- 高橋
齋藤さんです。
- 加藤
青魔道士クエストの“意識を取り戻して視界が見えるようになる演出”をエフェクトの人に相談しに行って、「できるってー!」とうれしそうにしていた齋藤さんを覚えています。
演出と言えば、『アトルガンの秘宝』のクライマックスのイベントも印象深いです。
- 加藤
とくに記憶に残っているのが、ラズファードとのお別れのシーンですね。本当はあのシーン専用の空間を作りたかったのですが、コスト的に難しかったのです。それで、「どうしよう……」と悩んでいたときに、「波多江さん(波多江由布子氏。キャラクターまわりや背景のエフェクトデザインを担当)がエフェクトでなんとかしてくれるって!」と聞かされて。そして、でき上がったシーンを実際に見たときに「すごっ!」と驚きました。
- 高橋
困ったときは、だいたい波多江さんがどうにかしてくれる(笑)。
- 藤戸
いまでも波多江さんがどうにかしてくれています(笑)。『蝕世のエンブリオ』でもお世話になりました。
あのシーンでは、ラズファードの声がアフマウに届かないのが切ないですよね。
- 加藤
じつは初期段階では岩尾さんの希望もあって、終始「………」というセリフで、プレイヤーにも届いていませんでした(笑)。さすがに「岩尾さん、これではわからないです! もうちょっとしゃべらせていいですか?」と相談して、書き足しました。
そして物語は大団円を迎えますが、ストーリーの結末はどのようにして決まったのでしょうか。
- 加藤
みんなで話し合った結果ですね。ちゃんと物語が完結できてよかったです。
柔軟性の高かった『FFXI』のスクリプトシステム
『アトルガンの秘宝』と言えば、傭兵階級を上げるクエスト(昇進試験)にユニークな仕掛けがいっぱいあったのが印象的でした。あれはどなたが作られたのですか?
- 高橋
みんなで順番に作った気がします。私もいくつか作りました。
- 石川
全部ではないのですが、腕立て伏せ(“昇進試験~曹長”で登場)などのミニゲーム要素はわりと自分が作っていました。
ミニゲームはかなり難しいものもありましたね。
- 高橋
社内のQA(品質管理)部から「ぜんぜん成功しません!」と言われていたのを見た気がします(苦笑)。
- 石川
ゆるめにしたつもりだったんですけどね……。
- 藤戸
あの一連のミニゲームについては、「『FFXI』のスクリプトシステムで、よくああいうものを作ったなあ」と毎回感心していました。
それまでの『FFXI』とはちょっと違うアプローチのものがいっぱい入っていましたよね。
- 藤戸
『FFXI』では本来、“イベントシーンでリアルタイムに何かをすること”は基本的に無理だったんですよ。
- 石川
イベント中はセリフ送りしかできないですからね。
- 藤戸
ですから、ああいったミニゲームを作れるシステムはなかったのですが、疑似的にでも実現したところがすごいと思っていました。
- 石川
うまいことスクリプトが組めてしまうと、実装したくなってしまうんですよ。
- 藤戸
そういったことは、ボス部屋や印章バトルフィールドの仕組みを木越さんが作ったのがきっかけですね。『FFXI』ではそのようにスクリプトでいろいろできてしまうため、 “プランナーがプログラマーに相談せずとも、やりたいことを実現する土壌”が生まれていったんです。最終的には、レイヤーシステムまでプランナーが管理することになって、仕事量がたいへんなことになるのですが(苦笑)。
- 石川
そうなんです。アサルトやサルベージへの入場の仕組みは、全部自分が組みました。
最後に、『アトルガンの秘宝』が皆さんにとってどういう作品だったかお聞かせください。
- 加藤
長いお話を作る仕事は『アトルガンの秘宝』が初めてでしたが、小川さんや岩尾さん、齋藤さんといった多くの方に面倒を見ていただきながら、高橋さんや石川くんなど同年代の人たち全員とともに、“チームで仕事をする”ということを経験できました。それまでは少人数でちょこちょこと作業していたのが、一気にたくさんの人とやり取りをするようになり、ものすごく経験値が増えた仕事でした。
- 高橋
近東というあまり扱ったことがない世界設定がおもしろかったのもありますし、オンラインゲームのチームに初めて入ったことで、2~3カ月ごとにバージョンアップがあるというスピード感も印象深かったです。あと、プレイヤーの皆さんがその都度リアクションをくださるという点はスタンドアローンのゲームとぜんぜん違っていて、すごく励みになり、すごく勉強になりました。それはとてもラッキーな環境だったと思います。
- 石川
『アトルガンの秘宝』ではメインどころでがんばれたと自負していて、とにかくしゃかりきに働いた時期だったという印象もあり、思い出深いです。プレイヤーの反響も大きく、自分の仕事でいちばん手応えを感じたのは『アトルガンの秘宝』と言っていいかもしれません。