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『FFXI』冒険者スペシャルインタビュー
水野良 <後編>

この“WE ARE VANA’DIEL”では、これまでおもに『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)のプロジェクトに携わった開発者や関係者にインタビューを行ってきたが、今回はひとりの冒険者として『FFXI』をプレイしてきた、他業種のクリエイターに注目。配信番組“ファイナルファンタジーXI A.M.A.N.とLIVE!(アマンとライブ!)”への出演をきっかけに、あわせてインタビュー取材を実施させていただいた。その第1弾として、作家である水野良さんへのインタビューをお届けする。

小説やテーブルトークRPG(以下、TRPG。※)のゲームデザインで数々のファンタジー世界を作り上げてきた水野さんの視点から見た『FFXI』とは、どのような作品だったのか。後編では水野さんのプレイスタイルや、『FFXI』から受けた影響、そして『FFXI』への想いについてうかがった。

※テーブルトークロールプレイングゲームの略。ルールブックに従い、会話によって進行するRPG。いわゆる和製英語で、英語圏ではコンピューターゲームと区別するためにTabletop RPG(テーブルトップRPG)と呼ばれたりもする。


水野良

作家・ゲームデザイナー。多数のファンタジー小説のほか、『ソード・ワールドRPG』などのTRPGのワールドデザインやリプレイ企画も手掛ける。おもな著作は『ロードス島戦記』(角川スニーカー文庫)、『魔法戦士リウイ』(富士見ファンタジア文庫)、『漂流伝説クリスタニア』(電撃文庫)、『グランクレスト戦記』(富士見ファンタジア文庫)など。

効率を求めるだけでは味わえない楽しさ

  • 後編では、水野先生がどのようなプレイスタイルで『FFXI』をプレイしていたかについて、さらにうかがっていきます。やはり、最初に誘ってくれた方々といっしょにプレイすることが多かったのでしょうか?

  • 水野

    いえ、彼らは僕を残して休止してしまったんですよ(苦笑)。

  • なんと……!?

  • 水野

    いきなり放り出されて孤独になったのですが、そのときにはすでに『FFXI』にどっぷりハマっていたので、ひとりでも問題なく遊び続けていました。遊ぶ時間が夜遅かったこともあって、レベル上げは海外のプレイヤーといっしょになることが多かったのを覚えています。そのおかげと言っていいのかわからないですが、いろいろな笑い話もありますし、すごく楽しかったですね。

  • とくに初期において日本のプレイヤーと海外のプレイヤーでは、プレイスタイルがだいぶ違いましたからね。

  • 水野

    日本のプレイヤーの場合、効率最優先でパーティを組むことが多いと思います。規律正しく、時間を決め、最適の狩り場に行き、最大効率でレベリングをし、時間が来たら「はい、解散」という感じで。海外プレイヤーの場合、いきなりパーティの誘いがきますし、パーティに入ってみるとジョブもレベルもバラバラ。おいしい狩り場ではなかったり、モンスターをリンクさせないコツも知らなかったりすることが多く、いろいろ鍛えられました(苦笑)。でも、途中からは「そういうプレイのほうが楽だな」と思うようになっていきましたね。

  • 自由なスタイルのパーティの場合、「もう時間だ」と言っていきなり抜ける人がいるかと思いきや「代わりの人を呼んでおいたよ」と補充のメンバーが来たり。でも、抜ける人と補充の人の役割が違ったりするんですよね(笑)。

  • 水野

    そうそう。「モンクは3人もいらない! 盾役をくれ!」みたいな(笑)。僕は基本的に後衛職ですから、そういったケースではすごく苦労しました。でも、結果的にはそれも楽しかったですし、いまとなってはいい思い出です。

  • 経験値効率的にはイマイチだとしても、気楽で楽しくはありましたね。

  • 水野

    いまでも覚えているのは、いつもと同じようにパーティメンバーが抜けたり入ったりしながらレベル上げをしているときの話で、どういう巡り合わせか、入れ替わりですごく強いプレイヤーが揃う瞬間があって、指数関数的に稼ぎがよくなっていったんです。そうした場面に出くわした海外のメンバーは、「ひゃっはー!」とか「パラダイス!」とか言っていて、そのハッピーな感じで僕もちょっと幸せな気分になれました。それがとても印象的でしたね。

家族にプレイを手伝わせるつもりが、立場が逆転!?

  • リンクシェルにも所属されていたそうですが、どういった活動をされていましたか?

  • 水野

    リンクシェルは、デュナミスや“空NM”(トゥー・リア地方のNM群)などのコンテンツに合わせて活動することが多かったですね。何から何まで特定の仲間と活動、という感じではありませんでした。

  • コンテンツ攻略において、印象に残っていることはありますか?

  • 水野

    “空”での活動はNMとの戦いだけではなく、ライバルたちとのNMの取り合いがたいへんでしたね。NMが出現したときにライバルが慌てて釣るんですけど、メンバーが揃っていないと全滅することもあって。そこで占有状態が切れたNMを奪うと文句が飛んできたり(苦笑)。

  • デュナミスについてはいかがでしょうか?

  • 水野

    赤魔道士としてデュエルシャポーを取るまではやめられませんから(笑)、年単位で活動しましたよ。Dynamis Lordを倒すのはたいへんでしたが、デュナミス活動は楽しかったですね。

  • 赤魔道士でDynamis Lord戦に参加されたのであれば、スタン役もされていたのでしょうか?

  • 水野

    “連続魔スタン”ですね。やりました。あれはちょっとタイミングがズレると、Dynamis Lordの技が発動してたいへんなことになっちゃうんですよね。

  • チームは大所帯だったのですか?

  • 水野

    チームは人数が多く、入れ替わり立ち替わりでしたが、リーダーはすごく丁寧に組織運営されていました。拘束時間もそこまできびしくなかったですし、ロットインの権利なども公平で妥当だと思えるものでした。そのメンバーたちとはオフ会で何度かお会いしたこともあります。最近はちょっとお会いできていませんが。

  • そこで会ったみなさんは水野先生ご自身のことをご存じだったのでしょうか。

  • 水野

    知っている人は知っていますね。

  • デュナミスも“空”も、長い時間をいっしょに戦いますから、固定で遊んでいた人たちは絆が生まれることも多かったと思います。

  • 水野

    やっぱり絆はありますよ。いまでも連絡を取り合う人が何人かいます。

  • こうしてお話をうかがっていると、当時はデュナミスや空などのコンテンツ攻略がプレイの中心だったようですね。

  • 水野

    そうですね。僕はどちらかというと情報には疎いほうだったので、自分で主催したことはあまりないのですが、よいチーム運営をするところにがんばって潜り込み、“自分にできることをできる範囲でする”という感じでした。必要なジョブがあればレベルも上げましたね。学者もそのためにレベルを上げたのですが、ムチャクチャ役に立ちました。

  • 学者はいまでも各種コンテンツのキージョブになっていますね。

  • 水野

    サポートジョブのバリエーションもあったので、それもおもしろかったですね。そうやってさまざまなコンテンツに参加しながら、ふだんは家族でプレイしていました。妻とふたりで遊んだり、たまに娘も加わったりして。

  • ステキですね。家族間では、おもにどういう遊びかたをされていたのですか?

  • 水野

    最初は妻にシーフを育ててもらって、僕の欲しいアイテムを取る手伝いをしてもらおうと思っていたんです。ところが、妻のほうが僕以上に『FFXI』にハマってしまい、最終的には僕のほうが彼女のアイテム集めを手伝う形になっていました。

  • (笑)。

  • 水野

    妻は栽培もしていましたし、チョコボ堀りも極めていて、僕以上にヘビーユーザーだったと思います。彼女はシーフと吟遊詩人をメインジョブとしていて、マンダウとギャッラルホルンも作っていました。

  • そこまでとは(笑)。

  • 水野

    デュナミスの仕様変更後は、ふたりでデュナミスに籠って旧貨幣をたんまり集めましたね。メイジャンの試練での強化にも付き合わされました。妻は忍者もできたので、彼女が前衛で僕が後衛という形で遊ぶことが多かったです。

すべての要素に思い出が詰まっている

  • ここからは、お気に入りのエリアやNPCなどについてうかがっていきます。まず、もっとも印象に残っているエリアはどこでしょうか?

  • 水野

    聖地ジ・タですね。風景も音楽も含めて大好きです。心が疲れたときはここへ森林浴にきて、何を狩るでもなくBGMを流しながら仕事していました。ジ・タだけでなく『FFXI』はどのエリアの音楽もステキで、思い出に残っています。

  • 印象に残っているストーリーやNPCについてもお聞かせください。

  • 水野

    ストーリーについては、とくに初期の闇の王戦までのストーリーが好きですね。NPCについてはマウです! アフマウは圧倒的にかわいかった。どこかのシーンで、横にすっとにじり寄ってくるような動きがあったと思うのですが、その細かい演出がすごく凝っていてハートをつかまれました。

  • 『アトルガンの秘宝』以降のカットシーンは、モーションもすごく凝っているんですよね。

  • 水野

    もちろんインパクトの強さでは、シャントットも印象に残っています。彼女のセリフはすばらしかったですね。

  • 先ほどコンテンツの活動が中心というお話がありましたが、合成についてはいかがですか?

  • 水野

    合成もしていました。メインだったのは裁縫かな? あと、食事作りは必須なので調理スキルも上げましたし、鍛冶と彫金と木工も上げていたと思います。それらの合成スキルは妻と分担して上げていましたね。

  • 合成はそれなりの原資がないときびしかったと思いますが、金策はどうされていたのでしょうか?

  • 水野

    金策は時期によっても変わりましたが、妻はチョコボ堀りが好きで、オリハルコンや高価なアイテムをたくさん拾っていました。僕自身がいちばん覚えている金策は、やはり絹糸集めかな?

  • 安定の金策ですね。

  • 水野

    妻とふたりでクロウラーをひたすら狩りました。あとは獣人から金貨を盗んだり…

  • 裁縫を上げようと思ったのはご自身がおもに後衛職でプレイされていたからでしょうか?

  • 水野

    そうですね。やはり自分が着る装備を自身で作れるのは大きいです。さらにHQになればそれなりの値段で売れますから、それも金策にもなりました。合成でHQのエフェクトが出たときの快感はすごかったです。

  • バトルフィールドやNM狩りなどで一獲千金を狙うのではなく、かなり地道な金策をされていたのですね。

  • 水野

    NMの取り合いは疲れますから(苦笑)。NMの取り合いで思い出しましたが、ジュワユースを手に入れるのもたいへんでした。いざ使ってみると思っていたほど強くなかったのですが、二刀流でエン系魔法をかけて殴ると手数が多くて楽しかったですね。

  • 一撃の強さというよりは、ダメージを積み重ねていく感じですね。

  • 水野

    赤魔道士のサポ忍での持久力はすごかった。ソロでは時間がかかりましたが、強化魔法やエン系魔法をかけて、ポイズンやバイオなども入れながらじわじわとモンスターの体力を削り、最後にIII系やIV系の精霊魔法でトドメをさすといった戦法で戦っていました。

冒険者たちにリスペクトと応援を

  • ファンタジー小説やTRPGのワールドデザインを手掛けられている作家の視点から見て、ヴァナ・ディールという世界はどういったところが特徴的、魅力的だと感じましたか?

  • 水野

    ゲームデザイン的な視点ですと、アイテムやモンスター、NMの名前などは僕も知らないようなものがたくさんあって、その情報量にびっくりしました。インターネットの情報もいまほど充実してない時代でしたからね。

  • 神話など、いろいろなところから引用していますよね。

  • 水野

    僕も“コレクションシリーズ”(※)を作った人間のひとりとして、洋書などを買っていろいろ調べましたが、僕が調べたものとは情報量がぜんぜん違いました。人海戦術だったのか、すごい人材を抱えていたのかはわかりませんが、さすがスクウェア・エニックスさんだと思いましたね。

    ※富士見書房(現・KADOKAWA)から刊行された“ファンタジー・ファイル”シリーズのこと。RPGに登場するモンスターやアイテムがカテゴリーごとに解説されており、『モンスター・コレクション』、『アイテム・コレクション』、『スペル・コレクション』などがある。
  • 『アイテム・コレクション』などは、RPGに登場するいろいろな武器やアイテムを知るきっかけになりました。

  • 水野

    『アイテム・コレクション』や『モンスター・コレクション』は、安田均さん(※)から仕事を受けて僕が大枠の企画をしたのですが、読み物を挿入するなど工夫を凝らした結果、かなりよい評価をいただけて、僕の自信にもなりました。

    ※TRPGやトレーディングカードゲームの制作や翻訳を手掛けるクリエイター集団・グループSNEの代表。グループSNEについては水野良氏もその設立に参加している(その後1997年に独立)。
  • 執筆の際は『ドラゴンクエスト』や『FF』などのコンピュータRPGも参考にしたのですか?

  • 水野

    基本はさまざまなTRPGがベースですが、『ドラゴンクエスト』や『FF』は一世を風靡したRPGでしたから、「モンスターやアイテムがそれらの作品ではどういう扱いをされているのだろう」という点は調べました。もちろん、『ウィザードリィ』なども参考にしています。

  • ズバリ、『FFXI』が水野先生の作品や執筆活動に与えた影響はありますか?

  • 水野

    ファンタジーに関しては、やはりTRPGや『指輪物語』(※)の影響のほうが大きいです。とはいえ『FFXI』は年単位で遊んでいますから、影響を受けているのは間違いないでしょう。意識してオマージュしたことはないものの、心の中に刻み込まれているものは間違いなくあるので、無意識的な影響はあるかもしれません。

    ※中つ国を舞台にしたJ・R・R・トールキンによる長編小説。世界中で翻訳され、さまざまなファンタジー作品に影響を与えた。
  • もし、ご自身が新しいRPGを手掛けるとしたらどのような作品を作りたいですか?

  • 水野

    僕自身は『ロードス島戦記』(※)を通じてゲームの世界にたずさわり、その後もゲームの監修や原作などを手掛けてきましたが、基本的には「プレイヤーにストーリーを押し付けたくない」という想いが自分の中にあります。それぞれのプレイヤーが好きなように楽しめるものを作りたいんです。

    ※1986年に『D&D』の誌上リプレイとしてスタートし、独自の世界観やキャラクターが人気となった企画。その後水野良氏によって小説となり、以降アニメ化、ゲーム化も含めて大ヒット作となった。
  • “世界”の中で自由に遊べるゲーム、といった感じでしょうか。

  • 水野

    “世界”と“システム”で遊べるようにしたいですね。そう考えると、いまの時代だとアクション系がいいのでしょうか。とはいえアクションゲームは苦手なので、“世界”だけ創らせてもらって、ゲームシステムやその他のことはほかの方にまかせる、という感じになっちゃうかもしれませんね(笑)。世界観が欲しければいくらでも作れますので、興味のある方はぜひお声がけください!

  • 小説を書かれるときも、やはり物語より先に、緻密な世界観を設定してから書かれるのですか?

  • 水野

    僕はそうしないと書けないのです。世界観を完全に作らないと書き始められないので、コストパフォーマンスはムチャクチャ悪いです(苦笑)。もちろん、キャラクターもストーリーも大事ですし、ほかの人からは「キャラクターから作りなさい。そのほうが得だし、売れるものができるよ」と言われることもあります。でも、僕は“世界”から創りたいし、“圧倒的におもろい世界”を創りたいと思っちゃいますね。

  • それでは最後に、もうすぐ23周年を迎えようとする『FFXI』に対して、メッセージをお願いします。

  • 水野

    『FFXI』の歴史の中で10年ほどしかプレイしていない自分がこういったメッセージを贈るのはおこがましいことだとは思いますが……「よくぞ生き残った勇者たち」と言いたいですね。『FFXI』は僕の人生の中でも最高のゲームのひとつで、とても愛していた世界ですから、いまでも愛着がありますし、思い出としても大きいものがあります。ですから、いまでもヴァナ・ディールの世界を楽しんでいる皆さんには今後もずっと楽しんでいただきたいですし、そんな皆さんにリスペクトと応援の念をお送りします。

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