Language

JP EN

プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’ DIEL-
Season2 第3回
『プロマシアの呪縛』佐藤弥詠子&齋藤富胤

『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物をゲストに迎え、プロデューサーと対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。 そのSeason2では、藤戸プロデューサーと『FFXI』中期~後期の開発スタッフとの対談により、各拡張データディスクや追加シナリオの制作エピソードをうかがっていく。

 第3回では、拡張データディスク第2弾『プロマシアの呪縛』の“物語”に焦点を当て、シナリオ担当の佐藤弥詠子さんと、カットシーンなどの演出を担当した齋藤富胤さんに、当時どのような形で物語が作られていったのかを振り返っていただいた。

『プロマシアの呪縛』とは

2004年9月16日にリリースされた、『FFXI』の拡張データディスク第2弾。タブナジア群島をおもな舞台として、新たな物語と多数のエリアが追加。その一方、ジョブの追加やレベルキャップの開放などは行われなかった。

物語は真龍の王バハムートの出現に始まり、冒険者は各地の異常現象の調査を進めていくうちに世界の真実の一端に触れ、やがて男神プロマシアをめぐる“世界の終わり”を懸けた戦いに巻き込まれていく。その物語の中では、ヒロインとして“忌むべき子”と呼ばれる少女・プリッシュが登場するほか、その親友であるウルミア、謎の少年セルテウス、“ひんがしの国”の使者テンゼンなど、新たなキャラクターたちが多数登場した。

冒険のフィールドとしては、かつてのタブナジア侯国の人々が築いた集落であるタブナジア地下壕をはじめ、既存リージョンにも多数のエリアが追加。なかでもアットワ地溝、ウルガラン山脈といった、これまでの探索とは異なるアクション要素も特徴的だった。またプロミヴォンやフォミュナ水道、リヴェーヌ岩塊群などのダンジョンにはレベル制限が設定され、それを超えたレベルのキャラクターは一律同じレベルで探索する形となっていた(その後2010年にレベル制限は撤廃)。

新たなバトルコンテンツとしてはENMクエストやリンバスなどが実装され、デュナミスにも新しいエリアが追加されている。

佐藤弥詠子

『FFXI』シナリオ&イベントプランナー。ウィンダスミッションをはじめ、『プロマシアの呪縛』、『ヴァナ・ディールの星唄』、『蝕世のエンブリオ』などのシナリオを担当。『プロマシアの呪縛』のエンディング曲『Distant Worlds』の日本語原詩、『アドゥリンの魔境』のエンディング曲『Forever Today』の作詞も担当している。

齋藤富胤

『FFXI』元シナリオ&イベントプランナー。『ジラートの幻影』~『ヴァナ・ディールの星唄』までのイベント、カットシーンなどの演出を担当している。

齋藤さんが手掛けた“闇の王”戦のカットシーン

  • まずはおふたりの『FFXI』制作初期の立場やご担当を教えてください。

  • 佐藤

    役職はどうでしたっけ?(笑) ふつうにプランナーでしたっけ?

  • 齋藤

    当時はシナリオプランナーとかそういう細かい肩書きはなくて、単に“プランナー”というくくりでしたよね。

  • 藤戸

    そのうえで、プランナーの中でもある程度役割が分かれていて、バトル班がモンスターやバトルフィールド、ジョブの調整などを担当し、それ以外のところは全部イベント班が担当していたという感じでした。作業をしていくうちに誰が何を得意としているかがわかってくるので、それに合わせて「ここをお願いします」とまかせていく流れになっていたかと思います。

  • 齋藤

    藤戸さんは当時の役割としてはシステムプランナーでしたっけ?

  • 藤戸

    システムプランナー専任ではなかったですね。当時は田中さん(田中弘道氏。『FFXI』の初代プロデューサー)が操作感の調整やUI(ユーザーインターフェース)をみずから率先して作られていて、システム的な部分は田中さんといっしょに作業していた感じでした。チャットシステムは当時のスクウェアのゲームで初めて実装する注目の機能でしたので、ぜひ携わりたいと思っていたんです。

  • 肩書きとしては、藤戸さんもプランナーだったということですか?

  • 藤戸

    はい、役職的にはシンプルにプランナーでした。最初にチームに入ったとき、イベント班のリーダーだった加藤さん(加藤正人氏。『ジラートの幻影』までのプロットを担当)に「何が得意ですか?」と聞かれて、「これまでアイテムを作ったり、UIを作ったり、いろいろやっていました」という話をしつつ、「システムまわりを担当したい」と伝えたんです。でもそのときは、「そういう区分けはないし、リーダーを担当する人もいないなあ」と言われました。

  • システムについては個々で手掛けていて、専門の班がなかったのですね。

  • 藤戸

    そうですね。それで、「イベントは作ったことがありますか?」とも聞かれたので、「ないです」と答えたのですが、お話そのものではなくシーン作りならできるかもしれないということで、最初はイベント班に配属されました。佐藤さんも自分と同じくらいのタイミングでチームに入りましたよね。齋藤さんが合流するのは、その少し後だったと思います。

  • 齋藤

    そのころはまだ『FFX』の作業をしていたので……。

  • 『FFX』にも関わられていたのですか?

  • 齋藤

    じつは、『FFXI』チームから抜ける形で『FFX』チームに異動になったのです。そして『FFX』の作業の終わりが見えて「つぎはどうしようかな」と考えていたら、加藤さんに呼ばれたんですよ。向かった先には田中さんもいて、「勝手に出て行かないで(笑)。早く『FFXI』チームに戻ってこい!」と叱られました(苦笑)。

  • (笑)。当時の齋藤さんの上司は加藤さんだったのですね。

  • 齋藤

    そうです。加藤さんがプランナーのリーダーという感じでした。自分がチームに戻ったときは、『ジラートの幻影』のストーリーが終わるあたりまでの大枠のプロットがすでにあって、「いまはここまでできていて、この後はこういう展開を考えている」みたいな話をされた記憶があります。ただ、当時のオンラインゲームにおいて“シナリオで魅せる”ゲームはほぼありませんでした。ですから、“どういったものが『FFXI』なのか”を一歩一歩踏みしめながら模索しつつ、みんなで作っていったという感じです。そのころには街の3Dモデルもほぼほぼできていて、ウィンダスを見たときは「広い……なんだこれは……」と衝撃を受けたのを覚えています。

  • 佐藤

    ウィンダスは広すぎて、初期の3つの国で唯一、街の中にワープ(転送サービス)がありましたからね。「瞬間移動はなかなかの力業だけど、魔法の国だからきっと許される!」といったノリで、街を作っている途中で機能を持たせた感じでした。

  • なんと、ワープは後付けだったとは(笑)。話は変わりますが、河本さん(河本信昭氏。『プロマシアの呪縛』でディレクターを担当)から、佐藤さんはウィンダスのシナリオのほかに、サンドリアのシナリオのヘルプもされたそうですね(Season2 第1回参照)。

  • 佐藤

    そのときは“名声”まわりの作業をしていて、クエストの数を3国で合わせる必要があったのですが、サンドリアだけちょっと足りなかったんです。それがきっかけですね。

  • 齋藤

    全員でクエストのネタを出して、「じゃあ、これは誰が作る?」みたい感じで手分けして作業していましたね。

  • 齋藤さんもそのころシナリオ制作に関わられていたのですか?

  • 佐藤

    齋藤さんはカットシーンを担当していましたよね?

  • 齋藤

    当時は3Dのカットシーン(イベントシーン)を作ったことがある人がとても少なく、「さて、どうしようか……」と困っていたんです。そんな中で、「シナリオの中盤にドラゴン戦があるので、それを作ってみて」と自分が言われて、ドラゴンのモーションやエフェクトなどを発注してカットシーンを作ってみました。そうしたら、「うん、わりといけるね」という感じの反応で、「じゃあ、つぎは闇の王との戦いの絵コンテを描いて」と言われたんです。

  • 試しにひとつ作ってみた後が“闇の王”戦ですか!(笑)

  • 齋藤

    そうなんですよ(笑)。それで、絵コンテを描いて加藤さんにチェックしてもらって、具体的にどうやって実装していくかを考えていきました。そんな流れがあったので、自分の最初の大きな仕事としては、ドラゴン戦(他国を回れ、バストゥークを離れて、三大強国)と闇の王戦でしょうか。

  • どちらも、めちゃくちゃ重要なシーンですね。

  • 佐藤

    あれは齋藤さんしかできなかったと思いますよ。加藤さんはアニメーター出身で、演出や構成にこだわりがある方でした。その加藤さんのお眼鏡にかなう絵コンテを描けるプランナーは、当時ほかにはほとんどいなかったのではないでしょうか。いまでこそ、そういう表現能力を武器にプランナーになる人はけっこういると思いますけどね。ですから、絵コンテが描ける齋藤さんはすごく珍しくて、加藤さんとしても同じ土俵で語れる人として認識していたのでしょう。さらに実作業を見て「齋藤には演出の才能がある」と認めて、大事なシーンをまかせていたのではないかと思います。

  • 齋藤

    『FFX』で3Dの作業をしていたからできた、という面もあるかと思います。自分も『FFX』で初めて3Dの作業をしたのですが、カメラワークがたいへんで、よくダメ出しされていたのを覚えています。

  • 佐藤

    自分も『FFXI』の前に『デュープリズム』(※)で3Dの作業をしていたおかげで、『FFXI』でも3Dのカメラ演出ができましたね。

    ※1999年にスクウェア(当時)が発売したアクションRPG。3Dポリゴンで描かれたイベントシーンが特徴的だった。
  • 齋藤

    初めて3Dの演出をする人は“ダイナミックに”カメラを動かしがちなのですが、自分も『FFX』のときにそれに陥っていて、あとでほかの人が作ったものを見たときに気づきました。ついつい、グイングインとカメラを動かしたくなっちゃうんですよ(笑)。

オフラインゲームのボリュームを想定して作られたシナリオ

  • 『プロマシアの呪縛』では、初期プロットにはなかった設定や要素を新たに生み出すことが多かったかと思います。シナリオ作りの着想や制作の発端はどのよう感じだったのでしょうか?

  • 齋藤

    とっかかりとしては、それまでの『FFXI』を振り返ったうえで、「カットシーンでここまでできるなら、『FF』らしくシナリオにもっと力を入れよう」という想いが根本にありました。そこで、当時はウィンダスのシナリオがすごく人気だったのを受け、担当した佐藤さんに白羽の矢が立ち、「長編のシナリオを書いてみない?」というやり取りになったと記憶しています。

  • 『プロマシアの呪縛』の物語はかなりの長編でしたが、あのボリュームは想定通りなのでしょうか?

  • 佐藤

    「パッケージ版の『FF』ならこれくらいだろう」というイメージで、あのボリュームにしました。ですから、最初から章立ての構成で、“いろは歌”(※)の遊びを仕込んだりしています。

    ※47個のかな文字すべてを使用した手習い歌。『プロマシアの呪縛』の各ミッションの日本語名は、最初の“命の洗礼”から最後の“すべての終わりが閉ざされん”まで、ミッション名の最初の文字がこのいろは歌と同じ並びになっている。
  • 齋藤

    そうそう、聞こうと思っていたんだけど、“いろは歌”にすることは誰かに相談しました?

  • 佐藤

    いえ、誰にも相談していないです(笑)。

  • 一同

    (笑)

  • 佐藤

    当時はそういうことを独断でやってしまっても、笑って許される空気がありましたよね? いまだと「共有しろ!」とすごく怒られそうですが(苦笑)。

  • ということは、『プロマシアの呪縛』はプロットの段階から佐藤さんがすべて考えていたのでしょうか。

  • 齋藤

    『プロマシアの呪縛』は完全に佐藤さんですね。

  • 佐藤

    ちょうど加藤さんがチームから離脱されたころだったので、相談する相手には困りました。それまでは、シナリオを書いたら加藤さんにチェックしてもらっていたんですよ。もちろん、ディレクターだった河本さんにも相談するのですが、“大枠でOKかNGか”、“このマップを使っていいか”など、大きな部分の確認でしたね。ですから、細かい部分については齋藤さんにもいろいろ相談しました。

  • 齋藤

    「こんな演出がしたいけど、大丈夫そうですか?」といった相談をされた気がします。

  • 佐藤

    齋藤さんがいちばん忌憚(きたん)のない意見をくれるんですよ。同期ではないのですが、入社した時期も近かったので相談しやすかったのだと思います。おかげで『プロマシアの呪縛』はちゃんと完成しました。ありがとうございます。(笑)

  • 齋藤

    どういたしまして(笑)。

  • さて、『プロマシアの呪縛』では物語の冒頭からバハムートが登場しますが、これはどういった経緯で登場することになったのですか?

  • 佐藤

    「やはり『FF』シリーズですし、バハムートは出しておこう」と。ほかの召喚獣が登場した経緯もそうですね。

  • 藤戸

    そのときは、将来的に『FFXI』がどこまで続くかわからなかったですからね。

  • 出し惜しみしている場合ではないと。

  • 佐藤

    つねに「やりきっておこう」という気持ちがありました。

  • 男神プロマシアの話を主軸にするというのは、どのようにして決まったのでしょうか?

  • 佐藤

    男神プロマシアについては、すでに加藤さんが残していたプロットがあって、プロマシアと各種族の関係などの設定はすべて決まっていました。ですから、「この設定に関しては、必ず日の目を見せないと」という想いが発端だったのですが、どういうキャラクターが出てきて、どう肉付けしていくかは決まっておらず、そこからのスタートという感じです。

  • 男神プロマシアのビジュアル作りも難儀したのではないでしょうか?

  • 齋藤

    男神プロマシアのデザインは担当デザイナーと相場さん(相場良祐氏。『FFXI』元アートディレクター)がすごく話し合いをしていました。「顔はないけれど、“宇宙”みたいな感じにしてほしい」というオーダーがあった覚えがあります。

  • 佐藤

    あとはアル・タユについても、古代ジラート人の昔の都の設定があったので、「そこは行きたいよね」という話が出て、作ることになりました。

ライオンがラスボスの世界線も存在した!?

  • 物語のプロットを作る過程の中で、とくに印象的だったことはありますか?

  • 齋藤

    『プロマシアの呪縛』制作時のことではないのですが、強烈に覚えているのは、『ジラートの幻影』でライオンを一時退場させたのですが、数年後にお仕事で再会したとき、加藤さんに「勝手に殺すな」と怒られたことですね。

  • 佐藤

    どうして退場させることになったんでしたっけ?

  • 齋藤

    じつは当初のプロットだと、ライオンがラスボスになる予定だったんです。でも、それだと『プロマシアの呪縛』に話をつなげるのが難しくなるため、『ジラートの幻影』の最後でライオンを一時退場させようという話になりました。ただ、退場後どうするか、どこでどういう成り行きで再登場させるかまでは考えていなかったので、いったん保留という形に……。

  • 佐藤

    行き当たりばったりだ(笑)。

  • 齋藤

    最終的には、クエスト“世界に在りて君は何を想うのか?”で再登場させました。そこでようやく救いの手が差し伸べられたのですが、その後のライオンは療養中のままだったため、「ちゃんと復活させよう」という話になり、『ヴァナ・ディールの星唄』で活躍させる形にしました。

  • そんな経緯があったのですね。

  • 齋藤

    加藤さんのプロットだと、“ライオンが真の力に目覚めてラスボスになる”という感じで、さらにその後の拡張版のタイトル案のようなものも2~3本あったんですよ。でも、その方向で続けるにはちょっと長すぎるため、違う方向に舵を取ろうという話になり、現在の『プロマシアの呪縛』ができたという形です。

  • その加藤さんのプロットも見てみたいですね。

  • 齋藤

    加藤さんのプロットには、いろいろなネタが散りばめられていました。さまざまな国の名前をはじめ、西にある未知の大陸、南にあるミスラの本国などは“ヴァナ・ディール トリビューン”などで語られていたり、アイテムにもネタになりそうな由来があったりと、これから先も世界を広げていけるようにしてくれていたのです。そういったものをひとつずつたぐりよせて組み替えていき、新たに形を作るというのは『プロマシアの呪縛』から始まって、そんな作業をずっと続けてきた感じですね。

  • 藤戸

    自分が覚えているのは、加藤さんのプロットの中に“虚ろ”というものがあったことです。細かい部分は忘れてしまいましたが、通常は見えない“虚ろ”という存在が世界の裏側にいるという設定があって、それを使ってなにかできそうだという話もありました。そこで、たとえば闇の王を倒した後に“虚ろ”が見えるようになって、その“虚ろ”を倒すハンターの話を作ろうというアイデアも出たんですよね。でも、オンラインゲームでどうやって再現するかが難しく、ボツになりました。

  • ちなみに小川さん(小川公一。『アトルガンの秘宝』ディレクター。『プロマシアの呪縛』まではマッププランナーを担当)たちがマップを作るにあたり、シナリオ班からのオーダーはあったのでしょうか?

  • 佐藤

    マップはすでにできていたので、「どう使おうか?」という感じでしたよね?

  • 齋藤

    大まかなシチュエーションとして、「北国がある」とか「シナリオでこういうものが出てくる」という話はある程度伝えていましたが、シナリオ作りとマップ作りは並行して走っていた気がします。でも、バハムートがいるエリアは、佐藤さんからオーダーしていましたよね。

  • 佐藤

    リヴェーヌ岩塊群や、その中の帝龍の飛泉ですよね。そこは「不思議な風景になっていてほしい」と言ったくらいかな? あと、アル・タユも「高次元の、見たことがない不思議な世界でよろしく」と言ったら、背景班が海っぽくしてくれました。

  • すごいオーダーですね(笑)。

  • 佐藤

    でも、ちゃんと応えてくれたからすごいですよね。さすがです。

  • 「海っぽく」というオーダーはしていなかったのですか?

  • 佐藤

    それは自分ではなかったと思います。

  • 齋藤

    それは、もしかしたら伊藤さん(伊藤泉貴氏。プランナーを経て2010年にディレクターに就任)かな? 水棲生物のようなルミニアンのイメージがすでにあって、「こんなモンスターを出したい」という伊藤さんの話を汲んで、マップが作られたのかもしれません。シナリオ側からはオーダーしていなかった気がします。

  • 足もとに地上のマップが見えている『プロマシアの呪縛』最後のバトルフィールド“天象の鎖”も印象的でした。

  • 佐藤

    あれは自分も含め、みんなで相談して決めました。「このバトルフィールドは高次元にあって、下の世界に向かって落ちていく」というのをわかりやすくしようという話をしていく中で、誰かがアイデアを出してあの形になったと思います。

  • 齋藤

    『アビセア』シリーズの最後でも使わせていただきました。こちらは『プロマシアの呪縛』のときとは違って月側に落ちているので、足もとの風景が月面になっています。

  • 佐藤

    「きれいなマップにしてほしい。でも、このバトルフィールドとはかぶらない感じに」というオーダーをすることはいまでもありますね。

『プロマシアの呪縛』に登場するメインキャラクターの誕生秘話

  • 過去のインタビューで、『プロマシアの呪縛』の企画始動のころはスタッフの人数が少なかったとうかがいましたが、おふたりから見てどうでしたか?

  • 佐藤

    『プロマシアの呪縛』のときは石井さん(石井浩一氏。『FFXI』初代ディレクター)もいなかったし、加藤さんもいなくなっちゃったでしょ? その影響は大きいですよね。

  • 齋藤

    企画担当者もべつのプロジェクトに異動になって……。残っているスタッフでよく作れましたよね。

  • 佐藤

    でも、現場の我々は「とりあえず作るか」という感じでしたね。

  • 齋藤

    マップのモデラーもいたからね。

  • 藤戸

    グラフィック担当の方々とのやり取りはけっこうしていましたよね。

  • 佐藤

    でも、プリッシュについてはチーム内でギャップがあった思い出があります。じつはプリッシュは、シナリオでは少年マンガのような男の子っぽいキャラクターのつもりで書いていたのですが、デザイン担当のほうからはかわいい女の子のキャラクターが上がってきたんです。

  • 結果的にプリッシュは個性的でとてもいいヒロインだったと思います。彼女のドロップキックを覚えている人も多いでしょう。

  • 齋藤

    そのシーンのモーションは自分が発注したのですが、絵コンテでは飛び蹴りの形で描いていたんですよ。でも、出来上がったモーションではドロップキックになっていました。まあ、それはそれでおもしろかったからOKにしたんですが(笑)。

  • ほかのキャラクターについてもお聞かせください。

  • 佐藤

    テンゼンについては、“ひんがしの国から来た侍”ということは初期から決まっていました。NPC専用の新しい顔は工数的に作れる数が限られていたので、フェイスタイプはプレイヤーと同じものになっています。

  • 齋藤

    ただ、鎧まで既存のものだと寂しいので「なんとかできませんか?」とお願いして、オリジナルの鎧にしてもらったんですよね。ほかにも、刀を鞘付きにしたり、モーションも固有のものを作ったりして、なんとかオリジナル性を出せたかなと思います。

  • 佐藤

    セルテウスは“ずっとアル・タユにいた特殊な人”という設定でした。それを伝えると、肌が青白くて人間っぽくない感じでデザインが上がってきたので、「これでOKです」という感じですんなり決まった覚えがあります。そういえば、翼が生えているバージョンはどのように決まったんでしたっけ?

  • 齋藤

    当時のメモに「セルテウスはアル・タユに戻ると真の姿になる」という記述がありましたが、その時点ではまだ“真の姿”のデザインは決まっていませんでした。それで、アル・タユのモデルを作り始めたころに「セルテウスの大人バージョンをください」という発注をしまして、「翼の片方はフェニックスの翼にしてください」という要望も伝えました。その結果、翼の生えた青年バージョンのラフが上がってきたので、「これで作りましょう」となった感じですね。

  • 全般的に、キャラクターデザインはすんなりと決まっていった感じだったのでしょうか?

  • 齋藤

    細かい注文をして発注することはなかったですね。佐藤さんのほうで「こんなキャラクターです」と大まかにプロフィールをまとめて、上がってきたものはほぼOKという流れでした。

  • 佐藤

    石井さんや加藤さんがいらっしゃったときは、もっと細かいやり取りがあったかもしれませんが、私たちの場合だと「おまかせいたします。いい感じでお願いします」というノリでしたね。

  • 藤戸

    相場さんたちから提案されたものがイメージとぜんぜん違うということはまずないので、上がってきたものをうまい具合に使うという流れでした。楽曲も同様で、水田さん(水田直志氏。『FFXI』のほとんどの楽曲制作を担当)に発注するときも、最初に設定を伝えてお願いするのですが、上がってきたものにリテイクを出すことはほぼほぼないです。その作りかたでずっとやってきた感じですね。

『Distant Worlds』は世界への感謝を込めて作られた

  • 齋藤さんは『プロマシアの呪縛』でもカットシーンをメインに手掛けられていたのでしょうか。

  • 齋藤

    はい。佐藤さんが上げてきたシナリオに合わせて絵コンテを描いてカットシーンを作ったり、カットシーンの監修をしたり、クエストを書いたりもしました。プランナーがやる範疇の中で、バトル以外の全部をやっていたような感じです。

  • 佐藤

    齋藤さんがいないと回らなかったですよね。

  • カットシーンでは飛空艇の大艦隊のシーンが印象的でした。

  • 齋藤

    大艦隊が迫ってきて、その後オメガやアルテマと戦うところですよね? あのシーンは木越さん(木越祐介氏。『FFXI』のプランナー。クエスト演出などを担当)が「やりたい!」と言っていたので、木越さんが連戦のバトルフィールドの仕様も含めて全部担当されています。

  • シーンによっては“やりたい人がやる”という流れもあったのですね。

  • 齋藤

    “海獅子の巣窟”のボス部屋のシステムを作ったのが木越さんで、システム設定も含めて木越さんが一貫して作るのが早そう、という事情もありました。

  • 齋藤さんが手掛けられたカットシーンについて、とくに印象に残っているものはありますか?

  • 齋藤

    いろいろなシーンが印象に残っていますが、やはりエンディングでしょうか……。深夜に佐藤さんといっしょに作業していたことを覚えています。でき上がったものを佐藤さんに見せて「こんな感じなんですけど、どうですか?」と尋ねると、「この歌詞のときに、スカリーZが手を見るシーンになるようにタイミングを合わせてほしい」といった感じで、細かいやり取りを続けていました。

  • 佐藤

    当時は映像をビデオテープに録ってチェックしていたんですよ。

  • 齋藤

    そうそう。当時はハードディスクでの録画ではなく、ビデオでチェックしていました。“ヴァナ・ディールの秘蔵展”で展示されていた開発ブースと同じような環境です。

  • 佐藤

    歌と映像を合わせるのはどのプロジェクトでもたいへんではありますが、あれもよく合わせましたよね。

  • 齋藤

    データの読み込みのタイミングなどをプログラムのほうでもがんばってもらって、なんとかできました。

  • 『プロマシアの呪縛』のエンディング曲である『Distant Worlds』の日本語原詩は佐藤さんが書かれていましたが、最後にその制作エピソードをお聞かせください。

  • 佐藤

    「とにかくプレイヤーの方に向けて感謝を伝えよう」というコンセプトだったのは覚えています。『プロマシアの呪縛』が長いストーリーだったこともそうですし、最初から遊んでくれている方にとってはサービス開始から数年経過したタイミングですから、「こんなに長く付き合ってくれてありがとうございます」という感謝の気持ちで書きました。あと、テーマとしてはやっぱり“World”がありますね。手前味噌ですけれど、あの広大なヴァナ・ディールという世界は、スタッフたちががんばって作り上げ、あそこまで広げてくれたものです。いまは当時よりもさらに広がっていますが、当時でも「ヴァナ・ディールは広くてすごいな」と思っていました。さらに、そこに皆さんがいるからこそ世界として成り立っているわけで、「この疑似現実――もうひとつの世界をともに作り上げ、この世界で遊んでくれて、皆さん本当にありがとう」という感謝の気持ちを込めています。

この記事をシェアする