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プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-
第3回 川又 豊 パート4

松井プロデューサーが『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物と対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。第3回の対談相手は、『信長の野望 Online』(以下、『信On』)のプロデューサーである川又 豊氏。ラストとなるパート4では、『信On』のプラットフォームが移り変わっていった経緯や、MMO(多人数同時参加型オンライン)RPGならではのコミュニケーションのおもしろさなどを語っていただいた。

川又 豊

『信長の野望』(※)シリーズの世界観をベースにしたMMORPG『信長の野望 Online』の開発者。2019年6月にディレクターと兼任する形でプロデューサーに就任した。

※1983年3月に1作目が発売された、戦国時代をテーマとした歴史シミュレーションゲーム。その後も進化を続け、シリーズ16作目となる最新作『信長の野望・新生』が今冬発売予定。
『信長の野望 Online』

好評サービス中の“戦国の世に生きる”をテーマとしたオンラインRPG。織田・上杉・武田・伊達など好きな大名家に仕え、最大千人規模のプレイヤーが集う合戦に勝利し、天下統一を目指す。

『信On』と『FFXI』、それぞれのプラットフォームの変遷

  • 『信On』はプレイステーション2(以下、PS2)でリリースされた後、Windows版、プレイステーション3(以下、PS3)版、プレイステーション4(以下、PS4)版と新しいプラットフォームに対応しながら、ゲームを進化させています。こうした判断はどのようにして下されたのでしょうか?

  • 川又

    PS2で大きく成功したということが、その後のマルチプラットフォーム展開につながったのだと思います。PS2にはかなりお世話になっていたので、その後継となるPS3版を出しましたが、「PS4版も出したい」と考えたときに、「この世代に合ったグラフィックを用意しないといけない」という話になったので、PS4版を作るとともにWindows用のHD版も作りました。おそらく「ゲームはゲーム機で遊びたい」というプレイヤーは一定数いらっしゃって、そういう人たちがPS2からゲームハードを乗り換えながら遊んでくれているのかなと考えています。

  • 松井

    『信On』のPS4版はプレイステーション5でも遊べますし、4世代のプラットフォームにわたって遊べるのは本当にすごいですよね。

  • プラットフォームの進化が著しい場合、それに合わせてグラフィックも進化させる必要がありますよね。とはいえ、それまでのリソース量を考えるとかなりの作業量でしょうし、単純にコストもかかるでしょうから、会社としても大きな判断だと思います。そのあたりについて、社内ではすんなり理解が得られたのですか?

  • 川又

    すんなりではないですが、これまで続けてきた実績と、これからも続けていくうえで必要であるということを踏まえて判断されたのだと思います。

  • 『FFXI』の場合、プラットフォームの切り替えに関する議論はどうだったのですか?

  • 松井

    『FFXI』の場合、『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)という後継作品が出ることが決まったので、『FFXI』のPS3版を作るという判断にはいたりませんでした。移植をするといっても、グラフィックなどを強化しようとすると新作を1本作るのと同じくらいコストがかかるし、中途半端に作り直すくらいならきちんと作り直したい。しかし、当時その役目は『FFXIV』が担っていました。ですから、新しいことや時代をキャッチアップしていく役目は『FFXIV』に任せ、僕らはいまも『FFXI』を遊んでくれているプレイヤーに向けて、なるべく長くサービスを続けていく方針で運営を続けています。

  • 『FFXI』が20年続くとは、開発メンバー自身も予想がつかないような状況でしたしね。

  • 松井

    先日、“長く続いているプロジェクトに、長く続いている理由を聞く”という趣旨のインタビューを受けたのですが、「最初から20年も続けるつもりはなく、3年が最低限、5年もてばよしという感じだった」という話をしました。具体的には「『ジラートの幻影』をきっちり終わらせるところまでは最低限運営し、『プロマシアの呪縛』が終わるまで続けばいいよね」という温度感だったのが、どんどん続いていつのまにか20周年も間近となったわけです。『信On』にも通じるところがあると思いますが、会社が“収益が減ってきたから、サービスを終わらせよう”というスタンスではなく、“支えてくれるプレイヤーがいるのなら長く続けていこう”と後押ししてくれているところが大きいですね。

  • 『信On』では当初「ここまでは続けよう」という目標はあったのですか?

  • 川又

    以前は上の立場ではなかったので「目の前のものに突っ込んでいって何年でもやってやるぜ」という勢いで開発していました。会社としては、赤字になっても続けることではないというビジネスの考えかたが基本でしょうから、それについてはきっちりとした収益の基準があったと思います。それとは別に、プレイヤーの皆さんに遊んでいただいている世界を大事にしていこうという考えかたももちろんあったのではないかと。

  • 『FFXI』も『信On』も、その世界を愛しているプレイヤーのことを大切に考えてくださっているのですね。

  • 川又

    これは私の考えなのですが、20年というのは生まれた子どもが成人するまでの時間と同じで、それだけの時間をプレイしていただくというのは本当にすごいことです。それだけ長いあいだプレイされている方は、そのゲームが生活の一部であり、リアルと同じくらい大事な世界ができていると思うのです。最近、「親がプレイしていたので、私も始めました」と言っていた方の話を聞いて、親がプレイしていたゲームを子どももプレイするというのはステキな世界だなと感じました。

  • 松井

    『FFXI』でもそういった話はありますね。夫婦でプレイしている方の話も聞きますし、親子でプレイしている話も聞きます。そもそも僕の家がそうですからね(笑)。

  • 川又

    十数年ぶりに帰ってきたという方もいらっしゃいますね。戻ってきた理由にはコロナ禍での生活様式の変化もあると思いますが、ほかにも子育てがいったん落ち着いて、アラフォー、アラフィフくらいになって逆にプレイする時間ができたという方もいるのではないかと。

  • 松井

    ひさびさに復帰した方がそのままプレイを続けているという話も聞きますね。

  • 川又

    生活様式も変わりましたが、オンラインでの遊びが見直されてきたというのもあるかもしれません。eスポーツやオンラインチャット、オンライン会議などの話をよく聞くようになりました。

  • 松井

    急速に広がって、世間的にも“オンライン”というものが身近になりましたよね。

再評価されるMMORPGの魅力

  • 一時期は、オンラインゲームも、よりカジュアルなほうがいいのではないかと言われていましたが、最近はMMORPGのよさが見直されてきた印象があります。

  • 川又

    感触としてはあります。旅行には行けないし、人と話したいけど、飲みにも行けない。人との付き合いがしづらくなっていて、そこをMMORPGはサポートできるんですよね。以前からそういう準備をしてきたわけではなく、たまたまそういう土台があったというだけなのですが、いままでメンテナンスを続けてきたからこそ追い風を受けることができたのだと思います。単にMMORPGを運営していたというだけでは、いまの流れが追い風になるようなことはなかったでしょう。

  • 松井

    そうですね。ただ人と関わりたいだけならMMORPGである必要はないですし、プレイヤーの皆さんにとって居心地のいい場所を守ってきたからこそ、この時代に再評価されたという面もあるのでしょう。

  • 川又

    みんながここ最近体験したリモートワークは急になくなるようなものではなく、コロナ禍が去ったらすべてがそれ以前の状態に戻るとは思えません。時代が変わる中、MMORPGというのはそういう状況に適した魅力が備わったエンターテインメントだという認識が広がってくれるといいなと考えています。

  • この20年の中でも、コロナ禍というのは世の中がすごく大きく変わったきっかけのひとつですよね。

  • 松井

    コロナ禍のほかに、僕がもうひとつ要因と考えているものはソーシャルゲームです。ソーシャルゲームもネットワークでたくさんの人とつながっていますが、手間やトラブルを避けるという一面もあって、人と人との関わりがすごく限定されているものが多いですよね。その手軽さがいいなと思うこともありますが、もう少し密なコミュニケーションが取れてもいいんじゃない? と感じる場面もあるでしょう。それに対して、MMORPGは密なコミュニケーションが必要なので、川又さんがおっしゃったように、人との関わりが恋しかった人にマッチしたという面があるのかもしれません。あと、月額制なところが逆に“ガチャ”と比べてお値打ち感があり、ちょっと追い風になったのかなとも思っています。

  • ここまで長く運営が続いた理由としては、ほかには何が考えられるでしょうか?

  • 川又

    MMORPGにはいろいろなジャンルのものがあって、一時期タケノコのようにポコポコと出てきたこともありましたが、その競争の中で『信On』がいまも続いており、プレイヤーが遊んでくれているのは、“和”という世界観とその構築がうまくいったからというのもあるのでしょうね。アンケートで「『信On』のどこが好きですか?」と聞くと、世界観と答えるプレイヤーはやはり多いので、今後も力を入れないといけないところなのだと改めて感じます。

  • 世界観がしっかりしているからこそ、ロールプレイが盛り上がるのでしょうね。

  • 松井

    コミュニティを守りたいという気持ちがプレイヤーの中にあり、それが強いというのがすごいですよね。今回おうかがいした『信On』のコミュニティの話はすごくおもしろかったです。この対談を読んだ人の中にも「そんなに熱いコミュニティがあるなら、ちょっと『信On』もプレイしてみようかな?」という人も出てくるのではないでしょうか?

  • 川又

    そうだとありがたいですね(笑)。オンラインゲームで楽しいのは人といっしょに遊ぶときで、出会いもあって、別れもあって、それが思い出になっていきます。やはり、人と遊ぶのが楽しいということがMMORPGのいちばん大事な部分だと思います。

  • 松井

    人と遊んで楽しかった思い出があるからこそ、長いあいだ離れていても世界を懐かしく思い、戻ってこられる方がいるのでしょうね。

  • 川又

    MMORPGはひとつの世界にこだわらず、浮気してほかのゲームで遊んでもいい世界だと思います。どこか別の世界に行っても、うまくなじめなかったり、ちょっと違うなと感じたら、また別の世界に行ってもいいし、もとの世界に戻ってもいい。そういったことはいくらでも起こると思うし、それでいいと考えています。そんな中で、長く遊んでいただけるというのは本当にありがたいです。

  • 最後に、記念すべき20周年に向けて、川又さんから『FFXI』プレイヤーの皆さんにメッセージをお願いいたします。

  • 川又

    『FFXI』のプレイヤーの皆さんへ。日本を代表するMMORPGのひとつである『FFXI』がもうすぐ20周年を迎えること、少し早いですが心よりお祝い申し上げます。先ほども申し上げましたが、MMORPGの世界は、開発者だけではなくプレイヤーの皆さんが作り上げた世界でもあると思います。その世界が20年という長い月日を経て、さらに発展していくことに対し、MMORPGに関わるもののひとりとして、心からの祝福をお贈りいたします。ぜひ、これからもMMORPGの世界を楽しんでいただければうれしいです。それがひいては、MMORPG全体の発展と永続につながっていくと思います。そして、気が向いたら『信On』の世界にも遊びに来てください。歓迎いたします。

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