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プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-
第3回 川又 豊 パート3

松井プロデューサーが『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物と対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。第3回の対談相手は、『信長の野望 Online』(以下、『信On』)のプロデューサーである川又 豊氏。パート3では川又氏がプロデューサーとして重要視するポイントや、『信On』18年間の運営の中で思い出に残る出来事などをうかがっていく。

川又 豊

『信長の野望』(※)シリーズの世界観をベースにしたMMO(多人数同時参加型オンライン)RPG『信長の野望 Online』の開発者。2019年6月にディレクターと兼任する形でプロデューサーに就任した。

※1983年3月に1作目が発売された、戦国時代をテーマとした歴史シミュレーションゲーム。その後も進化を続け、シリーズ16作目となる最新作『信長の野望・新生』が今冬発売予定。
『信長の野望 Online』

好評サービス中の“戦国の世に生きる”をテーマとしたオンラインRPG。織田・上杉・武田・伊達など好きな大名家に仕え、最大千人規模のプレイヤーが集う合戦に勝利し、天下統一を目指す。

プロデューサーだからこそできること

  • 川又さんは2019年にディレクターと兼任する形でプロデューサーに就任されましたが、その経緯をお聞かせください。

  • 川又

    ディレクターとプロデューサーではもちろん立場も違いますが、ディレクターだったときは、けっこう現場寄りというか、コンテンツ寄りの考えでした。いまとなっては、ディレクターの立場のほうがワガママを言えることも多かったなと思います。一方で、プロデューサーは『信On』というプロジェクト全体のプロデュースが仕事で、プレイヤーにいろいろお知らせしたりするだけでなく、“『信On』の世界をプレイヤーといっしょに作っていく”という立場でもある。よって、ディレクターとプロデューサーのふたつをいっしょにやったほうが決めやすいことが多いと思い、会社に「私が両方兼任してもいいですか」と提案したら、理解をいただけました。そういった経緯で、『天楼の章』という拡張パックを機にふたつの役職を兼任することになったんです。

  • 松井

    より柔軟に開発できるように、兼任するという形を選んだのですね。

  • 川又

    ですから、松井さんが『FFXI』のプロデューサーになられたときにいろいろと改善を加えたという話を聞いて、すごく共感できました。開発の現場だと、やりたいことがあってもプロデューサーの方針と違う場合はできない、といった部分がけっこうあると思っていたのです。さらに、既存のシステムの改善自体はあまり売上に貢献しないというか、アピールポイントにならないというか……。ちょっとしたところに手を入れても、「ここを改修しました!」と大々的にアピールできるようなものでもありませんし、プレイヤーから改善要望をいただいていても、現場の判断だけではなかなか手が付けられないことが多い。たとえるなら“ゴミ箱の位置を少し変えただけで生活が快適になる”といったことも大事だと思っていて、そのちょっとの部分が“ちょっとなら直す必要がない”なのか“ちょっとでも直したほうがプレイヤーに喜んでもらえる”なのか、といった判断をプロデューサーとして自分なりにできるようになったのは大きいと思います。とはいえ、改善しますと言ったのはいいものの、現場との調整がうまくできなくてなかなか実行に移せないものも出てきてしまうのですが……。

  • 松井

    より全体を見ることができるようになったという変化は僕にもありましたね。開発の現場では、どちらかというと改善よりは新しいコンテンツを作りたいという話になりがちです。全体を見て、新しいコンテンツを入れても遊んでくれるプレイヤーが減ったら意味がないといった視点や、たとえちょっとの部分でも快適になるのならそこは直そうといった視点は、プロデューサーにならないと持てないのかもしれません。いや、その視点が持てないというよりは、現場だとそういった細々とした改善をしたいとは思っても、新しいコンテンツ開発などの優先度のほうが高くなってしまう、というのが正しいですね。ですので、そういった改善も大事だよとプロデューサーとして言えるようになったのは、よかったと思います。あと、しばらく『FFXI』の現場を離れていてすぐに自分用の開発環境が揃わなかったのと、揃っても思い出すのに時間がかかっていたので、ちょっと引いたところから改善案をいろいろと出していたという事情もあったりします。

  • いまの『FFXI』の快適さに大きく貢献しているフェイスやホームポイント間のワープは、松井さんがプロデューサーになってから手を入れた部分ですよね。

  • 松井

    長く続いているものなので、現場の開発者の立場では、それまで当たり前だと思っていることをひっくり返すような提案はなかなか言えません。上の立場からそれを言ってあげたり、現場の人間がやりたいと言ったときに「いいよ」と言ってあげられるポジションに就けたのは大きいと思います。

MMORPGの世界はプレイヤーの皆さんが作り上げたもの

  • 川又さんがゲームを制作(プロデュース)するうえで、重視するポイントは何でしょうか? プレイヤーに対する外向きの視点と、開発チームに対する内向きの視点と、両軸でお聞かせください。

  • 川又

    私は自分が何を遊びたいのかという部分や、プレイヤーにどんな体験をしてほしいのかという部分がすごく大事だと考えていて、その考えかたは『信On』のβテストのときに得た経験から来ています。これはβテスト最終日の話なのですが、最後だからと、ひとつの街をモンスターだらけにして、それをみんなで倒そうという大規模なイベントを行いました。そこで、せっかくだからスタッフも姿を現してプレイヤーといっしょに遊んでみたんです。そのとき、プレイヤーの皆さんにたくさん声を掛けていただいて、自分が体験してほしいと思ったことがどう評価されたかを直接聞くことができ、改めてMMORPGはすばらしいなと思いました。

  • 確かに、プレイヤーの生の声を聞く機会というのは、それまであまりなかったかもしれませんね。

  • 川又

    “俺はこれを作りたいんだ”と押しつけたところで受け入れられないし、自分が遊びたいものをどのように体験してもらえるかという考えかたが、非常に大事だなと実感できました。オンラインゲームは作った後に直せるというのも好きなところのひとつで、失敗することは多々ありますが、しっかり反省して直す、プレイヤーの声を聞いてフィードバックしながら直していける、プレイヤーといっしょに世界を作っていく、といったことが大事だと思っています。

  • そういった考えかたに至ったのは、ディレクターの経験も大きいのでしょうか?

  • 川又

    ディレクター経験がなければ、もっとビジネスサイドに考えかたが寄っていたかもしれませんね。遊んでいる方にどれだけ還元できるか、喜んでいただくためにお金をどう使うかみたいな考えかたをできるのがプロデューサーですけれど、そのときにディレクターとしての経験でどういう配分にするのかという指標を作れたのはよかったです。

  • そんなディレクター、プロデューサーとしての経験の中で、思い出に残っているプレイヤーの動向などはありますか?

  • 川又

    『信On』には対人戦の要素があるのですが、敵国で悪さをしてお尋ね者になると、自分の名前が赤くなってほかのプレイヤーから攻撃されるようになります。もちろん、悪さをしなければ、勝手にお尋ね者になることはありません。ところがある日、メンテナンスが明けると、敵も味方も全員名前が赤いんですよ……。いわば『バトル・ロワイアル(※)』の「今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」みたいな状況です。私たちも混乱しましたが、プレイヤーの皆さんも大混乱で。たとえば、商売している人をターゲットしてアクション起こすと本来なら売買ができるのですが、取り引きしようとしても攻撃になってしまい、戦闘に突入してしまう状態でした。

    ※高見広春氏による小説、およびそれを原作とした映画作品。「今日は皆さんに~」のセリフは、映画でビートたけし氏演じる教師、キタノのセリフとして有名。

  • 松井

    それは、またずいぶんとたいへんな状況でしたね……

  • 川又

    その状況をおもしろがっている人は楽しんで戦っていたりするのですが、初心者たちは「何が起こっているの!?」とパニックになっていました。そのとき、上級者のプレイヤーたちが「初心者の人はこっちに集まれ!」と言って、保護しながら安全区域に連れて行くといったことが行われていることに感動しました。プレイヤーの方からすれば、「感動してないでさっさと直せ!」という話なのですけど(苦笑)。

  • 『信On』のコミュニティは熱いですね……。

  • 川又

    MMORPGにおいて開発側の力は本当に小さく、その世界はプレイヤーの皆さんが作り上げたものだと考えています。ですので、プレイヤーから要望をいただいて作るものが正解なことが多くあると思っているんです。もちろん、中には「作ってみたけど違ったかな?」というものもありますが。『信On』は、スタッフより何倍も多いプレイヤーが考え、生活し、作ってきた世界です。プレイヤーの皆さんがいたからこそ、こんなにも長く続いているという感謝もあるし、本当にありがとうと言いたいですね。その反面、すべてのプレイヤーの要望を聞くことはできないですから、プロデューサーとしては嫌われるような仕事も多いです(苦笑)。その嫌われ役もしっかりとやらせてもらっているつもりです。

  • 今後の『信On』の展開について、何かお話しいただけることはありますか?

  • 川又

    『信On』も20周年に向けていろいろやりたいですし、何か大きなことをしようと計画している最中です。ですが、まずは『FFXI』の動向を注視し、『FFXI』がどういう20周年を迎えるのかを見守らせていただきたいと思っています。

  • 松井

    お先に20周年を迎えさせていただきます!

※第3回 川又 豊 パート4へ

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