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プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-
第4回 松川 美苗 パート3

松井プロデューサーが『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物と対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。第4回の対談相手は、カプコンのオンラインアクションRPG『ドラゴンズドグマ オンライン』(以下、『DDON』)のプロデューサーである松川美苗さん。パート3では、2015年に『DDON』がサービスを開始した際のエピソードや、オンラインゲームにとってのコミュニティの大切さについてうかがっていく。

松川 美苗

カプコン所属のプロデューサー。グランシス半島と呼ばれる広大な世界を舞台としたオープンワールドアクション『ドラゴンズドグマ』に高レベル向けの大規模追加コンテンツ“黒呪島”を収録した『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン』や、オンラインアクションRPG『ドラゴンズドグマ オンライン』のプロデュースを担当。

『ドラゴンズドグマ オンライン』

オンラインゲームでもっとも大切なもの

  • 松川さんは『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン』のプロデューサーを経て、いよいよオンラインRPG『DDON』のプロデューサーに就かれましたが、オンラインゲームをプロデュースするうえで『FFXI』からヒントを得たことはあったのでしょうか?

  • 松川

    『FFXI』で得た経験から、長く遊んでもらうには“仲間が大事”だと思いました。『ドラゴンズドグマ』(以下、『DD』)にはポーンというAI(人工知能)の仲間がいて、そのポーンを使って遊べるということも大切なコンセプトでしたが、一方で「コミュニティはぜひ作ってほしい」とチームに伝えたのを覚えています。“仲間と何をするのか”というところはちゃんと考えていこうと当時のディレクターの木下(木下研人氏)ともたくさん話し合い、クラン(ギルドに類するもの)という仕組みを作るなど、さまざまな要素を考えました。“オンラインゲームになぜログインするのか?”という理由を考えたとき、やはりいちばんは“友だちがいるから”だと考えているんです。ゲームの中で友だちが自分を待っていてくれるし、自分も友だちを待っている。その世界の大切さは、何年も続く自分の体験からも確かなものでした。

  • オンラインゲームならではの体験として、コミュニティを重要視されていたのですね。

  • 松川

    じつはちょうどこの対談のお話をいただいたので、久しぶりに『FFXI』に復帰したんです。そして「ホームポイントワープはもっと早く欲しかったな。なんで私が遊んでいるときに実装してくれなかったのかな? 松井さん?」と対談で言ってもいいのかなとか考えながら、フェイスを集めたりホームポイントを開放したりして歩いていました。そしてふとフレンドリストを見てみると、当時のフレンドがいて、ちょうどログインしていたんです。そこで「久しぶり」と声をかけたら、「久しぶり!! 帰ってきたんだ!」と返してくれたのがすごくうれしくて。その後、すぐにリンクパールを渡しに来てくれて、改めて「こんなに時間が経っても冒険者仲間とのつながりが残っている。『FFXI』はなんて稀有なゲームなんだろう」と思いました。

  • 松井

    初期の『FFXI』は、できるだけほかの人と遊んでほしかったので、パーティを組んでもらうことを重視していました。たとえば、戦士は回復してもらえないとどうにもならないし、白魔道士は火力が出ないのでなかなか敵を倒せない。そんなパーティプレイが重視されていた時期に密度の濃い時間を過ごした人や、仲間と協力してハードなコンテンツをクリアしていた人たちにとっては、とくに『FFXI』は忘れられないゲームになっているのでしょうね。ただその一方で、パーティプレイのよさを感じてほしいという思いが強かったがゆえに、ひとりでの遊びやすさや冒険の快適さを見直すのが少し遅かったかもしれないな、とは感じています。のちに「多くの時間を取れない人でも少しの時間で遊べるようにしよう」と判断してからは、その障害となるようなものはなるべく取り除こうというコンセプトで調整しています。

  • 松川

    ありがとうございます!! すばらしいです!! ここにドンピシャなプレイヤーがいます。私は復帰してまだ間もないですが、ホームポイントを開放する旅をしながら、復帰プレイヤーとして松井さんが引いてくださったレールにぴょんと乗って、これから遊んでいくと思います。いまはログインするたびに、LS(リンクシェル)のみんなが「“ヴァナ・ディールの星唄”(以下、“星唄”)だけはクリアしろ」と言ってきますね。「ちょっと待ってよ。少しずつ進めているでしょ!」というやり取りをしながら、毎日みんなから“星唄”攻撃を食らっています(笑)。

  • 松井

    “星唄”はぜひクリアしてください(笑)。

  • 松川

    ここでも“星唄”攻撃が! 松井さんからも言われたら、絶対クリアするしかないですね。がんばります!

  • 松井

    よろしくお願いします(笑)。復帰者にもやさしい作りになっていますし、昔バリバリやっていた松川さんが徐々に慣らしていくにもちょうどいい難度だと思います。

  • 松川

    「レベル99なんて1日でいけますよ」と言われて、「何を言っているの? そんなわけないでしょ?」と返しつつも、実際にレベル上げをやってみたら「すげー!」と言っていると思います。

  • 松井

    さすがに1日はちょっと早すぎだと思いますけど(笑)。

『FFXI』はプレイヤーとキャラクターの感情がリンクしていた

  • コミュニティ以外の部分で『FFXI』を参考にされたことはありますか?

  • 松川

    オンラインRPGの場合、シナリオやイベントの作りかたが、ひとり用のRPGとは異なりますよね。ひとり用のRPGだと、カットシーンで主人公をかっこよく見せるのは当たり前です。でも、MMO(多人数同時参加型オンライン)RPGだと、自分の操作するキャラクターの感情はプレイヤーに任されている部分があります。ですから、カットシーンに対して生まれる感情が無であってもダメだし、続きの展開で違和感を覚えるような感情が生まれてもダメだしと、ちょうどいい感情を作るというのがすごく難しいのです。実際に『DDON』でイベントを作ったときもたいへんでした。あるシーンでプレイヤーキャラクターがうなずくのがいいのか、首を横に振るのがいいのか、どちらが正解なのかはプレイヤー次第です。だからこそ、主観的にもなりすぎず、動かしすぎず、コントローラーを持つ人が自然に共感できるようにしないといけないというのは、オンラインゲームのイベントならではの難しさだと感じました。その点において、『FFXI』はすごかったと改めて感じます。ウィンダスミッションのあるカットシーンで、自分のキャラクターが歩いていくだけなのにちょっと涙が出そうになったり、切なくなったり。自分を投影しているキャラクターに「自分もこの後に戦わなきゃいけない」と決意させたりするやりかたは、すごいお手本になるなと思って見ていました。

  • 確かに、『FFXI』の冒険者は言葉を発さないですよね。そのうえで、いかにプレイヤーの感情とキャラクターの感情をリンクさせて物語を紡いでいくかという点で『FFXI』はすごく印象的でした。

  • 松井

    当時の僕は、バトル班としてイベント作りを隣で見ていて、「カットシーンはもっと量産すればいいのに」と思うこともありましたが、簡単に量産できないくらい丁寧に作っているんですよね。たとえば、タルタルとガルカではカメラ位置が違うので、どの種族でもおかしくならないようにちゃんと調整していますし。それに、作ったカットシーンが3分あったら、チェックするときも必ず3分かかるんですよ。それが種族の数だけあって、調整したらもう一度チェックし直さないといけない。

  • 松川

    わかります。『DDON』にも体型変化がある中で、高いカメラにするか低いカメラにするかとか、どのように俯瞰で見せるかとか、いろいろと試行錯誤や工夫をしていました。『FFXI』は20年も前のタイトルなのにカットシーンがすごく丁寧に作られていて、これはもしかしてパターンの組み合わせではなく、ひとつひとつを物量(膨大な手間隙)で作っているんじゃないかな、だとしたらたいへんなことだな、と感じていました。

  • 松井

    物量というよりは、作り手の努力で達成されているという感じでしょうか。

  • 松川

    そういう細やかな調整もあって、ミッションやクエストのカットシーンで自分のキャラクターに感情移入ができるのですね。

  • 松井

    ただ、カットシーンを作っているスタッフは物語も全部自分で作っていますから、そういった調整も一連の流れで行っているため、それが当然だと思っていて、あまりたいへんだとは感じていなかったかもしれません。

  • 松川

    皆さん、職人ですね。種族で思い出したのですが、以前、倉庫(アイテムを持たせるために作成したキャラクターの俗称)のヒュームでプレイしてみたとき「なんか違う」と感じたんです。最初に選んだ種族の視点に慣れてしまうと、別の種族でプレイしたときにヴァナ・ディールの景色がぜんぜん違って見えるんですよね。メインキャラクターのタルタルに戻って、カメラの位置が低いということを改めてすごいと思いながら、ル・ルデの庭を走り回っていました。

  • 視点が低いと、移動速度が早く感じるんですよね。

  • 松井

    実際の移動速度は全種族同じですよ(笑)。

  • 松川

    でも、ガルカだとモーションの関係もあって遅く感じちゃう。そういったカメラワークなども含めて、『FFXI』には勉強させていただきました。

『DDON』で想定外の出来事が……?

  • さて、松井さんは『DDON』をどのように見られていましたか?

  • 松井

    オンラインのほうはプレイしてないのですが、もともと『DD』シリーズはシステム的にも世界観的にも、オンライン化への親和性が高い作品だと思っていました。実際には開発時にどういうところで苦労されたのでしょうか?

  • 松川

    いちばんの苦労は、アクションゲームだったことです。インターネットが発達し、環境が整ってきたとはいえ、アクションゲームのオンライン化はやはりハードルが高くて、できるだけ遅延が少なく、気持ちよく遊べるようにするところにもっとも開発のパワーがかけられています。さらに、『DDON』のパーティは4人がメインだったのですが、そのパーティプレイの手触りを気持ちいいバランスにすることに、かなり苦労したように思います。

    あとは松井さんも言われていましたが、どんな強敵を出してもすぐに倒されてしまうんですよね。『DDON』では、サービス開始から1カ月後くらいに強い敵を実装したんです。ちなみに私と木下は、ふだんは大阪の研究開発ビルにいますが、その強い敵の実装日には東京支店にいました。そこで「3日くらいは倒されないでいてくれるかな?」と思っていたら、メンテナンスが終わって、サーバーがオープンした25分後に「1体目が倒されました」という報告が……。木下も私も一気に顔が暗くなってしまい、その日の帰りの新幹線の中、ふたりでうつむいてお弁当を食べていました。

  • 松井

    とくにアクションだとバランスを取るのが非常に難しそうですね。すごく上手な人と、全体の平均値とではDPS(※)がぜんぜん違いそうですし。

    ※Damage Per Secondの略。1秒あたりのダメージ量を意味し、ひいては単純に火力を表す言葉としても使われる。
  • 松川

    どういった人を基準にDPSを見るかですよね。アクションが上手にできる人をベースに考えるコンテンツと、そうではないコンテンツを分けるのか、もしくはほかの方法がいいのかという問題は、よく議論しました。ただ、苦労しながらも、根底には“アクションをベースにしたオンラインゲームを作りたい”という変わらぬ思いがあったので、楽しかったですし、開発メンバーが妥協なく作ってくれてよかったと思っています。

※第4回 松川 美苗 パート4へ

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