松井プロデューサーが『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物と対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。第4回の対談相手は、カプコンのオンラインアクションRPG『ドラゴンズドグマ オンライン』(以下、『DDON』)のプロデューサーである松川美苗さん。ラストとなるパート4では、松川さんがゲームをプロデュースするうえで重要視するポイントなどを語っていただいた。
カプコン所属のプロデューサー。グランシス半島と呼ばれる広大な世界を舞台としたオープンワールドアクション『ドラゴンズドグマ』に高レベル向けの大規模追加コンテンツ“黒呪島”を収録した『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン』や、オンラインアクションRPG『ドラゴンズドグマ オンライン』のプロデュースを担当。
開発チームには包み隠さず、すべてをさらけ出す
松川さんがゲームをプロデュースするうえで、重視するポイントは何でしょうか? プレイヤーに対しての外向きの視点と、開発チームに対しての内向きの視点と、両軸でお聞かせください。
- 松川
内向きのほうからお話しすると、チームの人たちには自分のことを仕事も含めて全部見せます。ゲーマー的な趣味の話から、上の人に会議で怒られたことまで全部話しています。あの人は何をしている人なのかというのを知ってもらったうえで、こちら側から「協力してください! お願いします!」と伝えていくしかないなと思っています。最低限のことしか言わないと、チームの中にまではなかなか伝わっていかないですし、“ただ突拍子もないことを言いに来る人”みたいに思われてしまいます。話し合える環境作りのために日頃からコミュニケーションをしっかりと取り、どんな仕事をしているかをチームの全員と共有することは、プロデューサーの内向きの仕事として大事なことだと思います。
いまのゲーム業界は1本のゲームを作るのにだいたい3年から4年はかかります。ある人に言われたのですが、それは人生の十数分の一です。そして、その期間は下手をすると家族よりも多くの時間を開発チームのメンバーたちと過ごすことになりますので、コミュニケーションは大事だと思っています。自分も含めて、『DDON』チームでは各ユニットやセクション単位それぞれでコミュニケーションの状況はよかったと思っています。 - 松井
コミュニケーションを密に取れるという点では、縮小されたいまの『FFXI』開発チームも理想的な環境と言えるかもしれませんね。
松井さんと藤戸さんは、もう20年以上いっしょに働いていることになりますよね。
- 松井
スクウェア(当時)の入社から数えて30年になりますが、そのうちの20年は『FFXI』ですからね。
- 松川
それはすごいです! 偉業ですよ、偉業。銅像を建ててもいいと思います!
- 一同
(笑)。
では、プレイヤーに対する外向きの視点としてはいかがでしょうか?
- 松川
プロデューサーの外向きの仕事としては、開発チームがおもしろいと思って作ってくれたものを、媒体を使ってどれだけおもしろく見せられるか、伝えられるかということに集約されていくと思います。できる限りメディア向けのプレスリリースの草稿も書いているのですが、映像も絵コンテを切って、そのうえで全部をディレクターにチェックしてもらっています。「開発メンバーが作ってくれたものはとてもおもしろいもので、こんなふうに伝えたいのだけど、どうかな?」と主要メンバーに確認してもらいます。当然、ほかの方の意見も集約して、みんなでプロモーションを作り上げていきます。プロデューサーはプレイヤーと開発の中間に立つ仕事だと思うので、開発寄りにもなりすぎず、プレイヤー寄りにもなりすぎず、うまくバランスを取ることが重要だと思っています。
- 松井
松川さんは開発畑の出ではなく、最初からプロデューサーとしてチームに関わっていますが、ゲームの中身について開発側に提案するときはどういう形で伝えているのですか?
- 松川
企画書を見て、仕様書を読み込んで、とにかくゲームを遊びます。開発現場からROMをもらってきて、ひとりでコツコツとメモを取りながら遊ぶんです。それで気になったところを質問したり要望を伝えたりするのですが、それはできる限りディレクターだけに言うようにしています。個人的な意見よりも、こうしたほうが遊びやすいとか、そういう話が多いです。ディレクターにはディレクターとしてのこだわりがあるので反論されますし、最後はお互いの落としどころを見つけていくしかないですね。
- 松井
なるほど。そこはプレイヤーの目線に立つということなのですね。
- 松川
“いっしょにゲームを作っていく仲間なのだから話がしたい”と私は考えています。そして話す際は、「どう思う? ここ気になるんだけど、もう少しこうしたほうがよくない?」ということを丁寧に伝えているつもりです。そうでない瞬間があるとしたら、切羽詰まっている状態ですね。そんなときはメンバーに怒られたり、同情されたりしながら助けてもらっている感じです。
プロデューサーはプレイヤーと開発のあいだに立つ仕事とのことですが、プレイヤーの声はどのように開発チームに届けているのですか?
- 松川
『DDON』チームでは、お客様相談室に寄せられた意見はほぼオープンにしていました。でも、それはプレイヤーの声に従ってほしいということではなく、届いた意見についてみんなで考えてもらうほうがいいと思ったんです。寄せられた意見に対してどうするかはユニットリーダーに任せていました。
- 松井
松川さんが代表してこうしたほうがいいと言うのではなく、「こういう声があったよ」と伝えているのですね。
- 松川
そのうえで、つぎのバージョンアップでの対応リストを作ってくれるのですが、それを見て「これに対応するんだ、すごい! ありがとう!」と言ったり、「そこはもうちょっと調整したほうがいいんじゃない?」とくねくねしながらお願いしたりします(笑)。
- 松井
なんとなくわかります(笑)。
- 松川
風の噂ですが、松井さんはそういったことがとても得意で、「あんなにいろいろなことができて、心配りができる人はいないよ」とスクウェア・エニックスにいる友だちから聞いていますよ。
- 松井
それは褒めすぎですね(笑)。どちらかというと、まだ開発のひとりという気持ちなので、開発に寄り添いすぎている部分があるのだと思います。ですから、逆にもう少し広い視野で見ないといけないなと感じることもありますよ。いろいろなゲームとの差別化というのは、けっきょくのところ開発が何をしたいかということなのです。ですから、それが売り切りのゲームであったり、ローンチ直後のゲームであったりするなら、ときには我を通すことも大事でしょう。でも、『FFXI』はこれだけ長く続いているタイトルなので、お客様がいないと成り立たない状況になっています。いまいるプレイヤーに背を向けるようなことはできないし、してもしょうがない。そういうところがあって、以前とはかなり考えかたが変わっていますね。
『FFXI』の仲間がいなかったら、いまの自分は存在しない
『FFXI』は2022年で20周年を迎えますが、松川さんはこれほど長く続いた要因についてどうお考えになりますか?
- 松川
振り返ると、『FFXI』での体験は唯一無二のものばかりでした。6人で困難を乗り越えるということをここまで求められるゲームは少なくとも日本にはなかったし、そのハードルが高かったからこそ、ずっと覚えているんだと思います。自分たちが仲間といっしょに生きた世界で、かけがえのない経験がたくさん詰まっているのが『FFXI』の20年の歴史なんですよね。だから、ほかのゲームに行っても戻ってくるプレイヤーさんが多いのではないかなと。私のフレンドの中にも、大作のゲームが出たら3日ほどそれを遊び尽くして、4日目には戻ってくるといった人がいました。『FFXI』はそういう“ホーム感”を作ることができた、すごく特別なタイトルなんだろうなと思っています。
- 松井
その言葉、ありがたいですね。
- 松川
こちらこそ、『FFXI』を作っていただいてありがとうございます。
- 松井
皆さんがいるからこそです。つかず離れず遊んでいただけるとうれしいです。
- 松川
“星唄”をクリアしたら感想のメールをお送りさせてください! クリアする自信はあります! 問題は遊ぶ時間をなかなか作れないことなのですが、コツコツ楽しみます!!
- 松井
いまはそういう方にも遊んでいただけるようにチューニングしているので、ぜひ空いたお時間で楽しんでください。
- 松川
ありがとうございます。
改めて、松川さんにとって『FFXI』とは何でしょうか?
- 松川
“仲間”です。『FFXI』の仲間がいなかったら、いまの私という人間はいませんでした。ヴァナ・ディールでたくさん遊んでくれた仲間がいたからこそ、いまの私がこうやってここで生きているんだろうなと。ナイトのタルタルさん、暗黒騎士のエルヴァーンさん、戦士のタルタルさん、白魔道士のタルタルさん、黒魔道士のタルタルさん、そして私の6人でずっと遊んでいて、「本当にこの仲間と出会えてよかったな」といまでも思えることがすべてです。この対談を読んで「俺のことだ!」と思った人がいたら、ぜひメールをください。またいっしょに、ヴァナ・ディールで遊びましょう!!
それでは最後に、『FFXI』の20周年に向けて、松川さんからプレイヤーの皆さんにメッセージをお願いします。
- 松川
今回はこのような素敵な企画に参加させていただき、誠にありがとうございます。お話をいただいたときからすごく光栄に思っていて、上司に「この話、受けていいですか? いや、受けていいと言ってください!」と迫り、OKをいただきました。その日から対談のことをイメージしながらサントラを聴き、コントローラーを握ってヴァナ・ディールの各地を歩き回りながら日々を過ごし、今日を迎えさせていただきました。
私と同じくかつて冒険者だった皆さま、ヴァナ・ディールはいまも生きている世界です。松井さんを始めとした開発の皆さんが、私のような元冒険者が帰ってきやすいようにいろいろなところを遊びやすさ重視で調整してくださっています。私も当時は挑めなかったコンテンツにチャレンジしながら20周年を迎えたいと思います。
『FFXI』の20周年はきっと誰も見たことがないものになると期待しております。松井プロデューサーを始め、開発の方々がいろいろと仕込んでくださっていると思うので、冒険者の皆さんといっしょに全力で応援しながらそのときを待ちます。いち冒険者として、業界人として、歴史に立ち会える瞬間がやって来るので、いっしょに歴史の証言者になりましょう。少し早いですが、20周年おめでとうございます! - 松井
『FFXI』をたくさん遊んでくださっている方とお話しするとすごく熱くて、今回はたくさんの元気をいただけました。同じ業界なので、これからもいっしょにお仕事をする機会があるかもしれませんね。また、こういった企画があればよろしくお願いします。
- 松川
次回は“ヴァナ・ディールの星唄”のクリア後トークができるようにがんばります。状況が落ち着いたら、お酒でも飲みながら語らせてください!!
- 松井
それはぜひ!
- 松川
酔っ払うと「光栄です」しか言わなくなって、お酒を飲みながら泣いちゃうと思いますけど(笑)。