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-WE GREW VANA’DIEL-
“『FFXI』20年の軌跡”インタビュー 第6回
望月一善 パート3

『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)の20周年を記念して2022年5月8日にYouTubeで配信された特別番組『WE ARE VANA'DIEL』。番組内では“WE GREW VANA’DIEL”と題し、『FFXI』の開発に携わった方や、他社クリエイターも含めた関係者のさまざまな証言が映像等で公開された。しかし、それらは取材内容のほんの一部にすぎない。ここでは、関係者それぞれが語る“『FFXI』20年の軌跡”を、改めてインタビュー形式でお届けしていこう。
 その第6回は、『FFXI』のコミュニティ創生・活性化というミッションを託された、コミュニティマネージャーの望月一善さん。開発とはまた別軸でゲームの運営を支えるコミュニティチームという存在。そこで望月さんは『FFXI』をどう盛り上げていったのか。最終回となるパート3では、大成功を収めた“A DECADE OF FINAL FANTASY XI VANA★FEST2012(以下、ヴァナ★フェス2012)”の経験談や、ファンフェスの企画・運営をするうえでの考えかたについてうかがった。

『ファイナルファンタジーXI 20 周年記念放送 WE ARE VANA'DIEL』

望月一善

『FFXI』サービス開始時からコミュニティチームに所属し、“ヴァナ★フェス”に代表される公式イベントの企画や運営などに参加。2013年11月から開始された公式放送『もぎたてヴァナ・ディール』では、司会進行役として出演している。現在は『FFXIV』のコミュニティマネージャーも兼務。開発チームやプレイヤーからは“もっちー”の愛称で親しまれている。

ファンフェスの理想の形とは

  • 2012年にパシフィコ横浜で行われた“ヴァナ★フェス2012”以降、イベントでは観客参加型のような要素がどんどん入ってきていますが、これには理由があるのでしょうか?

  • 望月

    “鑑賞できるもの”、“参加できるもの”、“交流できるもの”、その3つが揃っているファンフェスをいつか実現したいと考えていたのです。

    というのも、僕が人生で初めて参加したファンフェスは、ラスベガスで開催された『Ever Quest(エバークエスト)』(※)のイベントで、ホテル全体を使った非常に大きなものでした。あちこちでセッションやアクティビティが催され、その場で初めて会ったプレイヤーどうしが、あるいはプレイヤーと開発スタッフがいっしょにご飯を食べたり、カジノで遊んでいる。この空気感と高揚する気持ちを体験できるのがファンフェスだと確信してしまうほどの衝撃を受けました。

    そのとき、「いつかプレイヤーの皆さんに同じ気持ちを味わっていただけるイベントが作れないか……」と思いながらイベントを作り続け、ようやく叶ったのが2012年のヴァナ★フェスだったのです。

    ※『EverQuest(エバークエスト)』は、1999年に米国でサービスを開始した海外産のMMO(多人数同時参加型オンライン)RPG。

世界を知り、視野を広げる

  • ファンフェスの企画・運営はほかの業務では味わえないような経験がたくさんあると思いますが、その後の望月さんの仕事にどのような影響を与えましたか?

  • 望月

    とくに大きな部分では、物事を俯瞰することの大切さを再認識しました。ファンフェスは1年以上前から計画していきますし、予算も莫大です。ささいな行き違いが大きなミスを生み、取り返しがつかなくなるリスクがつねにあります。さまざまな部署のスタッフ、関係者が動くからこそ、その人たちのことを考えて動くのが重要だと学びました。

  • イベントに関わる人数も膨大ですし、視野の広さは必要に迫られる感じがしますね。

  • 望月

    もうひとつは、“グローバルに考える”ということです。E3やgamescom(※)などでも海外のプレイヤーと触れ合う機会はありますが、ファンフェスはとにかく別格です。あれだけの多くの人が集まって、喜びや驚きの感情を爆発させているところを目の当たりにすると、日本に帰ってきてもグローバルをつねに意識して考えられます。たとえば、「この言いかただと日本向けの説明にしかなっていない」とか、「グローバルに情報を出すうえで、この言い回しは適切ではない」といった会話ができるようになるんです。

    ※E3はエレクトロニック・エンターテインメント・エキスポの略で、アメリカ・ロサンゼルスで開催される、世界最大級のゲーム見本市。gamescom(ゲームスコム)はドイツ・ケルンで開催される、欧州最大級のゲーム見本市。
  • やはり、実際にその空気に触れることが重要であると。

  • 望月

    なるべく多くのスタッフに体験してほしいと思うほどに重要ですね。同じプロジェクトで働く海外スタッフと接する機会も多く、彼らの価値観を知るチャンスになっているという点においても、とても意味があります。

    自分とは異なる考えかたや価値観の人がいて、正解がひとつではないことを理解できれば、コミュニケーションはそのぶんだけうまく取れます。ファンフェスを通じて学ぶことは、いまだに多いです。

  • 2015年に“ヴァナ・ディール プロジェクト”が発表され、2016年の3月にはメジャーバージョンアップが終了、そこでプレイステーション2版とXbox 360版のサービスも終了となることが明らかになりましたが、そのときの心境をお聞かせいただけますか。

  • 望月

    じつはあまり覚えてないんです。なぜかというと、僕らはその発表の準備をするために、だいぶ前から聞かされていたからです。ですから、質問にお答えするなら、「ああ、やっと言えた」という気持ちでしょうか。

  • では、話を聞かされたときはどうでしたか?

  • 望月

    皆さんと変わらない気持ちでした。まずは「マジかよ!?」が第一声で、プレイヤーとしては「プレイステーション2やXbox 360で遊んでいる人たちは来なくなっちゃうのかな、さみしいな」という気持ちがあり、スタッフとしては「あれはどうするんだろう? これはどうするんだろう?」という疑問がたくさん湧いてきて、何ひとつプラスには考えられなかったですね。

  • どうしても、終わりへと向かう印象が強かったですよね。

  • 望月

    そうですね。ただ、「どうやったらその気持ちを切り替えてもらえるようになるのかな」とも考えました。ゲームをやめるという決断をしたとしても、『FFXI』を嫌いになったり、怒りの感情を持ったままでやめてほしくなかったので、自分たちに何ができるかを模索するのに必死でした。

  • 結果的に、『FFXI』は2016年3月以降も毎月バージョンアップを実施するという方針を打ち出し、進化を続ける道を選択します。しかし、開発規模も縮小していく中で、プレイヤーの期待に応えていくのはたいへんだったのではないでしょうか?

  • 望月

    開発チームが尽力してコンテンツを実装していきましたが、それでも拡張データディスクのような大きくプラスになるような話はどうしてもできない。皆さんも「ああ、もうずっとこんな感じなんだろうな」という印象を抱かれていたかと思います。その閉塞感のようなものをなんともできない無力さはありました。

    そんな中でも、世界に手を入れ続けよう、できる限りのことをやっていこうという決意で、1年、また1年と進んでいく感じでした。

20周年への決意

  • 現在は『FFXI』に加えて『FFXIV』の業務も兼任されている状況だと思いますが、望月さんの業務範囲はどういった感じなのでしょうか?

  • 望月

    いまは日本のコミュニティマネージャーという立場で、運営チームのスタッフの育成や、そのフォローアップなどを行っています。

  • いわゆる現場仕事は減っているのでしょうか?

  • 望月

    徐々に後進にバトンタッチしていますが、現場仕事はまだまだあります。この部分に関しては、チームのみんなが「この先も続けていいよ」と言ってくれるのであれば、続けさせてもらいたいですね。

  • 20年のキャリアで変わらない部分もあると。

  • 望月

    これまでの経験をひとりだけのものにしておくのはもったいないと考えているのと、それを渡せるタイミングは、現場仕事をいっしょにさせてもらうときが適していると考えているためです。20年の中で得てきた失敗や反省は山ほどありますから……(苦笑)。

    失敗するパターンはある程度決まっているので、誰かの経験を共有することに価値があります。でも、認めていない相手の話には耳を傾けてくれないですよね。だからこそ、チームのスタッフに認めてもらえる自分であり続けるために、現場仕事を重宝しています。

『FFXI』とともに歩んだ20年の“軌跡”と“奇跡”

  • 望月さんのこれまでのキャリアにおいて、『FFXI』での20年というのはどういう時間だと言えますか?

  • 望月

    どんな時間、ですか……難しいですね。ひと言で言うなら“軌跡”ですかね。

  • それは“奇跡”もかかっているのですか?

  • 望月

    “軌跡”と“奇跡”。それでいきましょう!(笑) これまでのすべてが、本当に“たまたまうまくいった”ということの連続で、それもけっこう低い確率のものが積み重なって、この20年になっていますから。

  • 最後に、20周年を迎える『FFXI』に対してと、現在のヴァナ・ディールで冒険を楽しんでいる冒険者に対して、メッセージをいただけますか。

  • 望月

    メッセージを送る相手としては気恥ずかしいですね……。親のようでもあるけれど、お兄さんやお姉さんのような側面もあり、かわいい妹や弟、もしかしたら息子や娘のような存在でもあったり。いろいろな体験をさせてもらったことに対して「20年間、本当にありがとうございます」と感謝を伝えたいのと同時に、「まだもうひとつ、ふたつ、別の一面を隠している気がするので、早いうちにその顔を見せてください」ともメッセージを送りたいですね。

    そして、いま遊んでくださっているプレイヤーの皆さんには、さらに大きな感謝を伝えさせていただきたいです。いまはゲーム以外にもさまざまな娯楽がある中で、それでもまだ『FFXI』で遊んでやろうとか、『FFXI』を愛し続けてやろうという皆さんがいてくださるからこそ、『FFXI』が存在し続けられます。本当に感謝しかないです。ありがとうございます。

    また、いまはプレイをされていない方もご覧になるかもしれないので、同じように感謝の気持ちを伝えさせてください。皆さんがいてくださったからこそ、いまがあります。いつでもヴァナ・ディールで待っていますから、よければまた遊びに来てください。

    現役プレイヤーの方々は、帰郷してくれたプレイヤーを見かけたら、田舎のおじいちゃんやおばあちゃんのように「やー、よう来た、よう来た。君がいたころとはだいぶ変わってな……」という話でもして、温かく迎えていただけるとうれしいです。差し出がましいかもしれませんが、そんなお願いで締めさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

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