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プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-
第1回 田中弘道 パート4

松井プロデューサーが『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物と対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。第1回は『FFXI』初代プロデューサー・田中弘道さんとの対談をお届けしているが、そのラストとなるこのパート4では、田中さんのプロデュース論、そして『FF』シリーズの定義について語っていただいた。

田中弘道

元スクウェア・エニックス(旧スクウェア)のゲームプロデューサーであり、『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親のひとり。開発立ち上げから2012年まで『FFXI』のプロデューサーを務める。現在(2021年)はガンホー・オンライン・エンターテイメントの執行役員開発担当本部長として、ゲームの開発に携わっている。

“任せるけど責任は取る”というプロデューサー像

  • 田中さんが思い描く“プロデュース論”についてお聞かせください。田中さんがプロデューサーとして重要視していることは何ですか?

  • 田中

    あまり意識したことはないですね。昔はなんでも自分でやっていて、データの1ビットまで人に任せたくない、すべてのデータ構造とプログラムのロジック部分まで全部設計しないと気が済まないというところがありました。ですが、さすがに歳を取ると、もうこういう仕事のしかたはできない、人に任せないと無理だと感じたんです。そして任せると決めた以上は、任された人にも考えがあると思うので“任せきる”というスタイルに切り替えました。自分自身も、昔は他人にとやかく言われたくなかったので(笑)。

  • 松井

    何でもできる人ゆえの悩みという感じですね。

  • 田中

    たとえば、ストーリーは10人の書き手がいたら10通りの物語ができます。そのどれもが正解だと思うので、論理的に破綻していなければ、とやかく言うことはないです。

  • 松井

    その田中さんのスタンスは、作り手としてすごくありがたかったです。

  • 田中

    それぞれ独立したパートに分けて、個々がしっかりと作ってもらえればいいのかなと。その意味では自分も『FFXI』では表向きプロデューサーですが、現場ではUIまわりをひたすら作っている状態でした。枠組みは作るので、中身は君らで好きなように作ってくれというスタンスですね。また、リリースした後のインタビューでは、なるべくスタッフに前面に出てもらって、「自分の作品だ」と胸を張ってインタビューに答えてほしいと言っていました。

  • 松井

    スクウェア(当時)にとって初めてのMMO(多人数同時参加型オンライン)RPGということで、プロデューサーとしてはサービス開始前、後と、いろいろとあったと思うんです。Windows版のリリースや海外展開したときも、たくさん苦労されたのではないかと。

  • 田中

    あくまで代表として動いていただけで、そんなに苦労した記憶はないんだけどね。海外での取材にしても、僕や石井くん(石井浩一氏。『FFXI』初代ディレクター)くらいしか現地に行けなかったというだけで。

  • こうして聞いていると、プロデューサーとしての田中さんには温かく現場スタッフを見守る姿勢のようなものがあると思うのですが、松井さんにとって、直接何かを教えてもらったことなどはありますか?

  • 松井

    僕が会社に入ったのは『FFIV』のころなのですが、田中さんの作った資料が教材だったんです。

  • ゲーム作りにおける秘伝の資料があると?

  • 松井

    秘伝というか、『FFIII』や『サ・ガ2 秘宝伝説』のときの資料や仕様書ですね。

  • 田中

    じつは『FF』や『FFII』のころは、ろくに資料を作っていなかったんです。その場で作って「えいや!」とマスターにしていたので……。『FFIII』のあたりで、坂口さん(坂口博信氏。『FF』シリーズの生みの親のひとり)に「制作過程をドキュメント化していかないとまずいよね」と言われて。さらに当時、「『ドラゴンクエスト』を作るとき、こんなにたくさんの資料を作ります」という堀井雄二さん(『ドラゴンクエスト』シリーズの生みの親)の記事を見て、「これをやらないと俺たちも成長できないぞ」と(笑)。それから堀井さんの真似をして手描きのマップとかを作っていました。

  • 松井

    僕が興味を持ったのは、まさに田中さんが作られたその資料でした。そこからゲーム作りのイロハを学んだようなものです。そういう意味では田中門下生なので、僕のドキュメントを見られたら、どれくらい手を抜いているか、どれくらいちゃんとやっているかなど、すべて見透かされてしまうんですよ。田中さんは僕にとって大先輩であり、先生でもあるんです。

  • 田中

    松井くんの場合、ちょっと見ただけではわからないところまで踏み込んでいて、プログラムとか書き始めちゃうんだよね。データを担当していたはずなのに、いつのまにかプログラマーになっていて(笑)。

  • 松井

    僕はコミュニケーションが苦手なので、人に「やって」とあまり言えないし、自分でやったほうが早いからという感じでつい(笑)。田中さんのプロデュース論でいちばんありがたいのは、“任せるけど責任は取る”というスタンスで、「最悪、何かあっても田中さんがいるし」という安心感はすごくあります。もちろん失敗したら投げっぱなしにしようというわけではないですけど。

“『ファイナルファンタジー』とは何か?”という問いへの答え

  • 今後、この対談企画でさまざまな方にうかがう質問になると思いますが、松井さんと田中さんにとって『FFXI』はどんな作品と言えますか?

  • 松井

    僕は『FF』シリーズでこの業界のイロハを叩き込んでもらいましたが、その中でも『FFXI』は僕が行き詰まったときに目の前に現れた広大なフロンティアだったので、新しい冒険すべき土地、挑戦すべき広い荒野のような感じでしたね。

  • 田中

    昔から「『FF』とは何か?」という質問をよく受けるのですが、以前は答えられませんでした。毎回、まったく新しい作品だと思って作っているので、『FF』は『FF』だし、『FFII』は『FFII』だなと。だけど、最近ようやく答えが見えてきました。

  • ぜひお聞かせください。

  • 田中

    『FF』の世界とは“物理法則”のことなんです。ファイアやケアルなどの魔法と、バトルの計算式などに基づく物理法則、それが世界の理(ことわり)であって、それこそが『FF』だろうと。たとえば、魔法がラリホーだったら、お話がなんであろうが、世界がなんであろうが、それは『ドラゴンクエスト』の世界だし、それが『ドラゴンクエスト』として定義されている物理法則なんだなと。

  • その世界の理に基づいた作品を作ることが『FF』を作ること、というわけですね。

  • 田中

    一部の作品は高度な文明が発達している世界ですが、ファイアはファイアだし、ケアルはケアル。それが『FF』たるゆえんなんだろうなと思いました。

  • 松井

    そう考えるようになったのは最近ですか?

  • 田中

    そうだね。『FFXI』と『FFXV』を並べて、「これは同じシリーズです」と言っても初めて見る人には信じられないけど、どちらも『FF』なんです。そして、そんなシリーズの中で『FFXI』を作るときに目指したのは、コミュニケーションツールとして設計すること。それまでプレイした『Ultima Online(ウルティマ オンライン)』や『EverQuest(エバークエスト)』において、ギルドのメンバーは顔や素性もわからない人なのに人間らしい温かみを感じたんです。その人たちに対してやさしくしようと思うようになったり、自分自身の映し鏡としてゲームが存在していることが衝撃的でした。MMORPGというのは“自分がどういう性格なのかが見える鏡”ではないかと思ったので、それを徹底的に設計してやろうというコンセプトで作ったのが『FFXI』であり、根底はそこにあります。

  • 松井

    田中さん、今回はありがとうございました。それでは最後に、『FFXI』の20周年に向けて、ぜひメッセージをお願いします。

  • 田中

    遊んでくれるプレイヤーの皆さんがいないと、この世界は続かないと思います。ですので、ここまで長いあいだお付き合いいただき、皆さんの帰る場所、帰るべき場所としてヴァナ・ディールが残っているのは非常にありがたいですね。これからも末永く、温かい目でお付き合いください。

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