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プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-
第6回 河津秋敏 パート3

松井プロデューサーが『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物と対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。第6回の対談相手は、『サガ』シリーズの総合ディレクターであり、旧スクウェア時代から開発の第一線で活躍し続けている河津秋敏さん。パート3では、『FFXI』をはじめとするMMO(多人数同時参加型オンライン)RPGに必要なもの、そして河津さんが手掛けたタイトルについて語っていただいた。

河津秋敏

スクウェア・エニックス 『サガ』シリーズ総合ディレクター。『魔界塔士サ・ガ』や『ロマンシング サ・ガ』を筆頭に、同シリーズのシナリオ、ディレクション、プロデュースなどを担当。『FF』シリーズのナンバリングタイトルについては、1作目と『FFII』のゲームデザイン、『FFXII』のエグゼクティブプロデューサーを務めている。松井プロデューサーにとっては、東京工業大学に在籍していたときの先輩でもある。

『FFXI』にシンボルキャラクターがいないのはもったいない

  • 河津さんから見て、『FFXI』の優れているところや「自分だったらこうしたい」と思うところがあれば教えてください。

  • 河津

    多くのプレイヤーがこれだけ長いあいだ楽しんでいるのだから、いいところばかりなのだと思います。

  • 松井

    本当にそう思っていますか?(笑)

  • 河津

    いや、本当に。ただ『FF』の名を冠しているので、『FF』という枠から出ないように要素をまとめないといけなくて、そこが制約になっているのではないかという気はします。でも、「自分だったらこうしたい」というものもないですね。

  • 松井

    前回のプロデューサーセッションで北瀬さん(北瀬佳範氏。『FF』シリーズのブランドマネージャー)と話したときに、「『FF』だからという制約は意外と少なくて、もっと自由に作るべき」といったことが話題になりましたね。

  • 河津

    『FFXI』のサービスが始まってすぐのころ、「まずはお客さんがいっぱい来てくれてよかったね」という話を坂口さん(坂口博信氏。『FF』シリーズの生みの親のひとり)としたことがあったのだけれど、そのときに「オンラインでのマルチプレイはうまくできたね。つぎはストーリーをうまく展開していきたいけれど、どうやってRPG的なストーリーを盛り込んで、プレイヤーに体験してもらうかが課題だよね」という話もしました。『FFXIV』も含め、『FFXI』はオンラインゲームとしての楽しさとストーリーの楽しさをセットにして遊んでもらっている形だと思いますが、スタンドアローンのゲームのストーリーとは見せかたが違うよね。MMORPGなので同じものにする必要はまったくないのだけれど、クラウド(『FFVII』の主人公)のような大きい存在感を持つキャラクターが出てきていないのはもったいないな、という気がずっとしています。

  • MMORPGは、外から見たときのアイコン的なキャラクターが作りにくいと。

  • 河津

    “『FFXI』といえばこのキャラクター”みたいなものがないよね。もちろん、プレイしている人たちから見れば「あのキャラクターがいるじゃないか!」となるのだろうけど、『FFXI』をプレイしていない自分から見ると、際立ったキャラクターがいないと思うんですよ。そう考えると、MMORPGがこれから達成できることがありそうな気はします。存在感のあるキャラクターがいれば、まだプレイしていない人も「あのキャラクターがいる世界を見てみたいな」となりますよね。坂口さんが「ストーリーをうまく展開したい」と言っていたのは、そういうことだったのかなと。

  • “『FFVII』を遊んだことがなくても、クラウドは知っている”みたいな感じですか。

  • 河津

    先日、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』にソラ(『キングダム ハーツ』シリーズの主人公)が参戦することで世界が沸いていましたが、そんな感じでみんなを熱狂させられるキャラクターが欲しいよね。

  • 松井

    『FFXI』も『FFXIV』もプレイヤーが操作するのはアバター(自分の分身)ですからね。ほかの『FF』シリーズのようにずっと主人公を操作するわけではないので、そこはどうしても弱くなってしまいます。

  • 河津

    プレイヤーが操作するキャラクターと仲のいいキャラクターもいるので、クラウドのような強烈な存在を作り出せれば、もう一段階、進化できるのではないでしょうか。

  • 松井

    ところで、『サガ』シリーズはMMORPGに向いていると思うんですけど、作ろうとは思わなかったのですか?

  • 河津

    それはいろいろな人に言われますね。自分はやりたくないけれど、誰かが作ってくれるぶんにはいいかなと思っています(笑)。

  • やはり、河津さんご自身はオンラインゲームとは完全に距離を置きますか。

  • 河津

    何年かかるかわからないものと付き合うのは覚悟がいることです。それに、“自分が作りたい世界にできるのか”というところでもすごく難しい気がしています。自分にはTRPG(※)的な感覚や遊びが根底にあるので、そういうものを表現する方法が思いつけばいいんですけどね。そして、それをMMORPGという形の中で構築し、MMORPGとしてのおもしろさと両立しなければいけないので、それがうまくいくのかなと。

    ※テーブルトークロールプレイングゲームの略。ルールブックに従い、会話によって進行するRPG。いわゆる和製英語で、英語圏ではコンピューターゲームと区別するためにTabletop RPG(テーブルトップRPG)と呼ばれたりもする。

  • 松井

    ひとつのシナリオラインを作るというよりは、大きいキャンペーン(ストーリーモード)を作っていく感じになるのでしょうか。

  • 河津

    なのかなぁ……? プレイヤー全員が登場人物になれるといいのだけれど、自分のやりたい役割ができなかったらおもしろくないですよね。TRPG的に、主役をやりたい人もいれば、脇役が好きという人もいて、自分もどちらかといえば傍観者的な立場のほうが好きだったりします。「オレはそんな目立つ仕事はやらない。お前がドラゴンにトドメを刺してくれ。失敗すれば世界は滅亡するかもしれないけどな。オレは横で応援歌でも歌っているよ」といった感じですね。そういったロールプレイがうまくできればいいのだけれど、いいシステムがぜんぜん思いつかないんだよね。

  • 松井

    AI(人工知能)のゲームマスターを使えばいいのかな? でも、ちょっと違うかな……。

  • TRPGは他者と遊ぶRPGであり、そこにはMMORPGと通じるものがあると思うのですが、いかがですか?

  • 河津

    TRPGは人が集まらないとできないので、他者といっしょに遊ぶのは一種の“ルール”なんですよ。それは、麻雀が4人集まらないとできないのと同じことです。でも、オンラインゲームの場合、“コンピューターを使って遊んでいるのに、なぜほかの人間と関わらなくてはいけないのか”となる。自分はいまこのゲームで遊びたいのに、なぜほかの人の都合と合わせなくてはいけないのかと。

  • 松井

    いまの『FFXI』はひとりでも遊びやすいようになっていますけど、狩り場がかち合ってしまった、みたいなところで他者と関わることもありますからね。

  • 河津

    ゴブリンを倒すのに6人必要なら必要でいいのだけれど、その6人はすぐ集まってほしいんだよね。『フォートナイト』(※)とかはロビーですぐにチームが組めて、1ゲームも短い。そこで勝っても負けても一喜一憂してすぐ忘れられるけれど、MMORPGのように数時間かけてボスを倒すところまでいっしょにやるというのは、僕にはちょっときびしい。

    ※エピックゲームスが2017年にリリースしたオンラインゲーム。最大100人のプレイヤーが巨大な島に降り立ち、最後の生き残りとなるべく戦うバトルロイヤルゲーム。
  • 松井

    『FFXI』も、かつてはレベル上げのパーティを組むだけで何時間もかけていた時代がありましたからね(苦笑)。

  • 河津

    オートマッチングでサッと集まって10分程度でゲームが終わるというのは、すばらしい発明だよ。プレイ内容がどうであれ、後腐れがないのがいいよね。

河津氏が生み出した名作タイトルの制作秘話

  • 松井さんから見て、河津さんが手掛けたタイトルで印象に残っているものはありますか?

  • 松井

    ワンダースワン(※)の話で名前を挙げましたが『ワイルドカード』(※)はよかったですね。自分にとってワンダースワンは『ワイルドカード』専用機になっていましたよ。プレイステーション2の『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』もおもしろかったです。遊んだのは何年前くらいでしょうね? すごく懐かしい気もするし、つい最近な気もするし……。

    ※1999年にバンダイ(当時)が発売した携帯ゲーム機。翌2000年にはカラー表示のワンダースワンカラー、2002年には液晶画面が改良されたスワンクリスタルが発売。
    ※2001年にワンダースワンカラー用ソフトとして発売されたRPG。ゲーム内の要素がカードで表現されているのが特徴。
  • 河津

    発売したのは2005年だね。もう16年も前になる。

  • 松井

    そんなに前になるんですね。あれの続きが見たいなと思っています。最近だと『ロマンシング サガ リ・ユニバース』(※)の物語がすごくよかったです。最初はおちゃらけた話になるのかなと思っていたら、途中からシリアスなストーリーが展開して。スマホのゲームでストーリーが楽しみでプレイするのは珍しいですよ。すごく楽しめましたし、つぎはどうなるのかなと期待しています。

    あとはこの機会に『FFII』の話も聞かせてください。よく「『FF』はナンバリングの奇数がシステム(ジョブ)で、偶数がストーリー」と言われていますけれど、最初からそう考えて作ったわけではないですよね? でも、自分から見てもなんとなくそういう感じがあって、『FFII』はその後のシリーズを決定づけた貴重な作品だと思っています。そんな『FFII』で河津さんは重要な役割を担っていたと思うのですが、いかがでしょうか?

    ※2018年12月にリリースされた、スマートフォン向けの完全新作RPG。『ロマンシング サガ3』の300年後の世界を描く。

  • 河津

    1作目の『FF』を作ってみんな経験を積めたけれど、一方で思ったより売れなかったと感じていたんだよね。「RPGを作るノウハウのようなものが得られたから、つぎは本格的に、もっとオリジナリティのあるものを作ろう」という話を坂口さんもしていました。

  • その結果、ドラマ性が強くなったのでしょうか。

  • 河津

    “バトルで全滅するところから始まる”という演出は、わりと最初のほうから決まっていました。『FFII』ではそういった“ほかではやっていなさそうなことをやりたい”というテーマがあり、坂口さんは「世界が街ひとつで完結するシティアドベンチャーみたいなものはどう?」という話もしていましたよ。

  • 『FFII』ではレベルの概念がなくなった(※)ことも驚きでした。さらに、当時は味方どうしで殴り合ってHPを上げるというプレイをしていた人も多かったと思うのですが、のちに回避重視にすると快適になることがわかり、すごく衝撃を受けました。

    ※『FFII』ではキャラクターのレベルアップがなく、戦闘でダメージを受けるとHPがアップし、武器や魔法を使うと熟練度がアップして威力が高くなるなど、パラメータが個別に成長するシステムとなっていた。
  • 松井

    盾持ちで戦うのがいちばんいいんですよね。僕がプレイするときは、まずミンウ先生がいるときに彼のエーテルを売り払って、“ぎんのむねあて”を買います。回避率の下がる鎧は呪い装備なので買いません。あとは、オーガメイジとひたすら戦って魔法耐性を上げつつ、お金を貯めます。それから旅に出る、といった感じですね。ほかにも当時は、ワードメモリーシステム(※)に衝撃を受けました。

    ※『FFII』ではNPCとの会話中の重要な単語を“おぼえる”ことができ、それをほかのNPCとの会話で“たずねる”こともできた。
  • “のばら”とかですよね。

  • 松井

    ヒルダに“のばら”と言うと、「わたしはほんものよ」と返してくれたときは、すごくうれしかったのを覚えています。それを見て『FF』は果てしなく進化できそうだ、と思いました。さらにそれが『サガ』シリーズになると、選択肢が“はい”と“いいえ”ではなく、セリフになりましたよね。そこもおもしろいと思いました。

  • 河津

    あれはTPRG的な感覚からきたものかな。

  • 松井

    あの衝撃がなければ、ゲーム業界に入ろうと思わなかったかもしれないし、スクウェアにも入社していなかったかもしれません。ファミコンのゲームでこれだけできるんだ、ということを教えてくれたというか。それに、ゲームボーイの『サガ』シリーズも、携帯ゲーム機でRPGが遊べるうえに、どこでもセーブできる、いつでも中断できるという点も含めて、あの完成度で出されたら離れられませんよね。

  • 河津

    どこでもセーブできたほうが便利なのに、なぜほかのゲームはセーブポイント制にこだわっているんだろうと思っていたんです。とはいえ、どこでもセーブできるようにするのは難しいんですけどね。

※第6回 河津 秋敏 パート4へ

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