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プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-
第7回 野村哲也 パート2

松井プロデューサーが、『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物と対談を行う“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。第7回の対談相手は、スクウェア・エニックスを代表するクリエイターのひとりであり、『FFXI』でも初期のさまざまなキャラクターデザインを手がけている野村哲也さん。このパート2では、ヒュームやエルヴァーンのフェイスタイプの制作秘話をはじめ、野村さんが『FFXI』のキャラクターデザインにどのように関わったのかをうかがっていく。

野村哲也

スクウェア・エニックス、そして『FF』シリーズの主要クリエイターのひとり。野村氏が生み出したクラウド、ティファ、エアリス、スコール、ユウナ、ライトニングらのキャラクターは、『FF』というIPをこれまで以上に世に知らしめる立役者となった。また、『キングダム ハーツ』シリーズではディレクターを担当しており、こちらも同社を代表するシリーズとして今年(2022年)に20周年を迎える。

いま初めて語られる、『FFXI』キャラクターデザイン制作秘話

  • 続いては、野村さんと『FFXI』との関わりについておうかがいします。

  • 野村

    最初は坂口さん(坂口博信氏。『FF』シリーズの生みの親のひとり)から、プレイオンラインの発表会で『FFXI』の発表をするから絵を用意してほしいと言われまして。それを受けて「MMO(多人数同時参加型オンライン)RPGらしさが感じられる絵はなんだろう?」と考えた結果、大勢のキャラクターが集合したイラストを描きました。

  • 坂口さんの無茶振りと言いますか、強烈なリーダーシップにまつわる逸話は、いろいろなところで耳にしますよね。

  • 松井

    坂口さんは誰に対してもそんな感じでしたよ。僕も『聖剣伝説』シリーズの新作に向けて企画を練っていたところ、「つぎはMMORPGを作るから、お前らも来い!」と、有無も言わさずに駆り立てられましたし。

  • 野村

    『FFXI』の話ではないのですが、自分が『FFVII』のプロジェクトに参加する際にもエピソードがあります。当時は『FFVII』と同時期に高橋さん(高橋哲哉氏。現在はモノリスソフト取締役)が『ゼノギアス』の企画を立ち上げようとしていて、自分はそちらからも声を掛けていただいていました。そこで、『FFVII』の北瀬(北瀬佳範氏。『FFVII』ではディレクションを担当)と、『ゼノギアス』の高橋さん、自分の3人で「どっちのチームで獲るか?」という会議が行われたんです。そうして会議室で落としどころを調整していたら、いきなり坂口さんが部屋に入ってきて、「テツ(野村氏の愛称)は『FF』だから」と、ひとこと言い残して出て行きました。会議はこれで終わりです(笑)。

  • 野村さんがキャラクターを描いた『ゼノギアス』というのも見てみたかったですが、それにしてもすごい豪腕ですね(笑)。

  • 松井

    テツは坂口さんにずいぶんと好かれていた印象があるんだけど、実際のところはどうだったの?

  • 野村

    個人的には、あまり可愛がられていた印象ではなかったですけどね。いつまでも下っ端な感じだったので。当時、グラフィック担当は背景デザイナーがトップで、モンスターデザインは新人の仕事だと言われていて、給与も安かったんです。でも、自分はいずれ背景デザイナーになろうとはまったく思っていなくて、モンスターデザインで続けて行く気だったので、いつまでも給与が安かったんです。今後はモンスターデザインも専門として重要になるだろうと思っていたので、坂口さんに抗議したことがあったんです。そうしたら、「モンスターデザインが重要だという認識に自分が変えろ」と言われましたね。

  • 松井

    やっぱり好かれてるじゃんー(笑)。

  • 野村

    ただ、自分が描く女性キャラクターを坂口さんは気に入ってくれていたかもしれないですね。たとえば『パラサイト・イヴ』(※)の企画が立ち上がったときも、坂口さんから突然、「アヤ(主人公のアヤ・ブレア)描いて」と自宅に直電が掛かって来たこともありましたよ。

    ※1998年にプレイステーション向けに発売された、瀬名秀明氏著の小説『パラサイト・イヴ』を原作とするアクションRPG。

  • ちなみに、これらのデザイン画は一部を除いて初公開になります。当時、どのようにして描かれたのでしょうか?

  • 野村

    これは石井さん(石井浩一氏。『FFXI』初代ディレクター)と田中さん(田中弘道氏。『FFXI』初代プロデューサー)から指示を受けて描きました。「MMORPGにはさまざまな価値観のプレイヤーがいるので、全部のフェイスタイプをカッコよくしないでほしい」というオーダーがあり、どうバリエーションを出していくか、締切ギリギリまで悩みましたね。とても苦労しました。

  • 松井

    スキンヘッドにタトゥーが入っているフェイスタイプなんて、なかなか奇抜なデザインだよね。まだカッコよさが残っているとは思うけど。

  • 野村さんは、フェイスタイプのデザインとしてはヒュームとエルヴァーンの2種族のみに関わっていたのですか?

  • 野村

    そうですね。最初にこれら2種族のラフを描いて、『FFXI』開発チームの打ち合わせに提出したところ、田中さんや石井さんは興味深く見てくれました。でも、ほかのデザイナーからの反応があまりよくなかったんです。ヒュームとエルヴァーン以外の方向性はそのときのデザイナーたちのあいだでけっこう方向性が固まっていたようなので、それらの種族はお任せしました。

  • そうだったのですか。野村さんがミスラやタルタル、ガルカを描いていたら、どうなっていたでしょうね。

  • 野村

    けっきょく、自分はミスラを使っていたのでよかったと思いますよ(笑)。

  • そのほかにも野村さんは、ライオンやシドなどの主要NPCをデザインされています。

  • 野村

    シドに関してはご存じの通り、名前以外の設定はシリーズ作によってバラバラなので、自由にデザインしました。自分にとって『FFXI』のシドは、いかつい鍛冶屋の親父のような姿で、仕事現場で火の粉が降りかかっても気にしないような、豪快なキャラクターをイメージしていたんです。でも、実際にゲーム内の完成版を見たら、“裸エプロン”でしたね(笑)。

  • そして、なんといってもカムラナートとエルドナーシュの兄弟ですね。

  • 野村

    先ほどのフェイスタイプのデザインを加藤さん(加藤正人氏。『ジラートの幻影』までのメインシナリオを担当)に見せたときに、ストーリーの全体像を教えてもらったんです。そして「これがラスボスです」と、加藤さんが描かれたカムラナートとエルドナーシュのラフイメージも見せてもらいました。

  • すでにラフイメージがあったんですね。

  • 野村

    原案としては、ローブを着た老人のような姿で、中身は見えていなかったんです。ですので、けっこう自由に描かせてもらいました。

  • ちなみに、両者はかなり体格差がありますが、エルドナーシュが兄ということを念頭に置いたうえでデザインをされたのでしょうか?

  • 野村

    じつは、つい最近になってそのことを知りました。加藤さんの話を聞き逃していたのかもしれませんが、自分はこれまで20年間、カムラナートが兄だと思い込んでいました。いやもう、本当にびっくりしましたよ(笑)。

  • 松井

    マジかよ……!(笑)

※第7回 野村哲也 パート3へ

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