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プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-
第7回 野村哲也 パート3

松井プロデューサーが、『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物と対談を行う“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。第7回の対談相手は、スクウェア・エニックスを代表するクリエイターのひとりであり、『FFXI』でも初期のさまざまなキャラクターデザインを手がけている野村哲也さん。パート3では野村さんがどのようなプレイスタイルで『FFXI』を楽しんでいたかについて語っていただいた。

野村哲也

スクウェア・エニックス、そして『FF』シリーズの主要クリエイターのひとり。野村氏が生み出したクラウド、ティファ、エアリス、スコール、ユウナ、ライトニングらのキャラクターは、『FF』というIPをこれまで以上に世に知らしめる立役者となった。また、『キングダム ハーツ』シリーズではディレクターを担当しており、こちらも同社を代表するシリーズとして今年(2022年)に20周年を迎える。

雨のラテーヌ高原でぶつけ合った、互いの譲れぬ思い

  • 野村さんはふだん、プライベートでオンラインゲームを遊ばれるのですか?

  • 野村

    オンラインゲームは他人に気を遣い過ぎて疲れるので、積極的にはやらないですね。『FFXI』のプロジェクトが立ち上がる前も、坂口さん(坂口博信氏。『FF』シリーズの生みの親のひとり)の号令により社内のいたるところでスタッフが『EverQuest(エバークエスト)』(※)をプレイしていましたが、自分は一歩引いて眺めていました。でも、『ファンタシースターオンライン』(以下、『PSO』。※)は同僚たちといっしょに夢中で遊びましたね。その後は『SOCOM U.S. NAVY SEALs』(※)もよく同僚たちと遊びましたし、ソーシャルゲームもハマるときは思いっきりハマっていますよ。

    ※『EverQuest(エバークエスト)』……1999年に米国でサービスを開始した海外産のMMO(多人数同時参加型オンライン)RPG。
    ※『ファンタシースターオンライン』……2000年にドリームキャスト向けに発売されたセガのオンラインRPG。
    ※『SOCOM U.S. NAVY SEALs』……2002年にプレイステーション2向けに発売されたTPS(サードパーソン・シューティングゲーム)。
  • 野村さんがどのようなスタイルでオンラインゲームを遊ばれているのか気になります。

  • 野村

    基本的には社内の同僚といっしょに遊ぶことが多いですね。そして、どのオンラインゲームでも共通しているのが、効率面を追及するよりも、無茶してでも“冒険”を楽しむというスタイルです。たとえば『PSO』のときは、やられてしまうとロビーに戻されるのですが、ラスボスにひとりで挑むんです。「行ってくる!」とロビーから出て行ったのに、直後に「ただいまー」と戻って来るのがおもしろくて、みんなで代わる代わる挑んで「早っ!」と笑い合っていましたね。

  • 正式サービス後の『FFXI』はプレイされたのでしょうか?

  • 野村

    『FFXI』はいちプレイヤーとして純粋に遊んでいました。マイキャラはバストゥーク出身のミスラで、メインジョブは赤魔道士だったかな。印象に残っている出来事としては、あるときバストゥークの街中で身内に向けて言うつもりだったパーティチャットを“Say”で誤爆(※)してしまったことがあったんです。「俺、今から『スーパーマリオサンシャイン』を買ってくる!」と(笑)。そうしたら、まわりにいた見知らぬ人たちからSayで「いいなー!」、「いいなー!」と言われて、恥ずかしくて走り去りました(笑)。そういった、“MMORPGとしての何気ない日常”も好きでしたね。

    ※誤爆……チャットなどの送信先を間違えることのネットスラング。
    ※『スーパーマリオサンシャイン』……『FFXI』と同年の2002年に発売されたニンテンドーゲームキューブ向けの3Dアクションゲーム。
  • リアクションをくれた方も、まさか“中の人”が野村さんとは思わないでしょうね(笑)。

  • 野村

    無茶な冒険もだいぶしましたね。「いままで行ったことのないエリアを冒険しよう!」という話になって、マップすら持っていなかったパシュハウ沼に向かいました。すると、先頭を走っていた自分がモルボルに襲われて、一瞬で戦闘不能にさせられたんですよね。その様子を後ろから見ていた仲間に、「テツさん(野村氏の愛称)が“く”の字になって跳ね飛ばされた!」と爆笑されて。そんな“く”の字で吹っ飛ぶモーションなんて、実装されていないのに(笑)。

  • 松井

    そう見えてくるくらい、みんながヴァナ・ディールに入り込んでいたということだよね(笑)。

  • 野村

    そんなふうに遊んでいた自分たちも、少しずつ変わっていきました。『FFXI』には各ジョブの役割がきっちりと決められていて、戦いかたにもセオリーがある。レベル上げで戦うザコもけっこう強いので、そのセオリーから外れるとあっという間に戦闘不能になって、レベルも下がってしまいますよね。自分は楽しければデスペナルティも気になりませんが、ほかの仲間は違っていて、次第に方向性が分かれていったんです。ゲーム内のチャットで、自分が「危険を冒してでも冒険がしたい!」と言うと、仲間は「レベルが下がらないように堅実にいくべきだ!」と返してくる。いまでもその光景を覚えていますが、雨が降るラテーヌ高原で、雨に打たれながらキャラクターどうしが向かい合ってチャットで激論していましたね(笑)。

  • それはアツい(笑)。どちらにも思いがあって、遊びかたは間違っていませんよね。

  • 野村

    結果、自分は作業的になるのがイヤになって、遊びかたは自分自身で決めると、ひとりの冒険が始まりましたね。その後、また仲間が徐々に合流し始めて「オレがクエストを作る!」と仲間に宣言しました。そして、明らかに格上のエリアを目的地にした「死に場所を探して」とか、無謀なクエストを楽しんでいましたね。

  • 松井

    なかなか“通”な遊びかただね(笑)。

  • 野村

    そして、3国ミッションで挑むドラゴンの討伐を「これがラスボスだ!」と。自分にとっての『FFXI』は、これをもって完結しました。そこからは少しひとり旅を続けて、いまだにどこかの砂漠でひざまずいたままだと思います(笑)。

  • 松井

    『FFXI』のゲームバランスはシビアだったので、プレイヤーの方々も次第に効率を重視するようになったけど、最初はテツみたいに独自の冒険を楽しんでいた人も多かったんじゃないかな。

  • 野村

    やっぱり、そのほうが絶対に楽しいと思うんですよ。仮に万全の準備を整えて、100%勝てる状態になってから挑戦しても、そこにスリルなんてないと。いかにして困難な状況を乗り越えるかが冒険の醍醐味だと思うし、『FFXI』ではつねにそれを求めていましたね。そういえば“スリル”で思い出したのですが、初めてジュノへ行ったとき、自分がデザインをしたカムラナートたちのことを思い出して、「あれ? ここがラスボスがいるとこ?」と仲間に話したら、「それ、『マリオ』のときみたいに “Say”とか “Shout”で絶対に言わないでくださいね!」と注意されてドキドキしていました(笑)。

  • 松井

    もしシャウトしていたら、ネタバレだけで済む話ではなかっただろうね(笑)。

※第7回 野村哲也 パート4へ

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