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水田直志/ナナーミーゴス
インタビュー 後編

『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)のコンポーザー・水田直志さん率いる音楽ユニット“ナナーミーゴス”が、新曲のレコーディングを行った。この収録に合わせて、ナナーミーゴスのメンバーにインタビューを実施。その後編となる本稿では、気になる新曲の用途やコンセプトについて聞いた。

水田直志(写真中央)

スクウェア・エニックスのコンポーザー。『FFXI』の楽曲のほとんどを手掛ける。そのほかの参加作品は『ファイナルファンタジーXIII-2』、『ファイナルファンタジーXV エピソード プロンプト』、『ストレンジャー オブ パラダイス ファイナルファンタジー オリジン』など。

伊賀拓郎(写真左)

作・編曲家、ピアニスト、キーボーディスト。さまざまなアーティストとの共演のほか、アニメやゲーム、CMなどの劇伴も手掛ける。ナナーミーゴスにはキーボーディスト、アレンジャーとして参加。

岡部磨知(写真右)

バイオリニスト。さまざまなアーティストのライブ、レコーディングでソリスト、アレンジャーとして参加。ナナーミーゴスの“センター”として、レコーディングにライブステージに活躍する。

新曲のイメージは“冒険のワクワク感”

  • 今回レコーディングした新曲ですが、ズバリその用途をお聞きしたいのですが……。

  • 水田

    その説明をしていなかったですね(笑)。8月に新たなバトルコンテンツの実装を予定していまして、そのための新曲になります。バトルコンテンツは2段階にわかれていて、今回レコーディングしたのはその1段階目にあたる“ソーティ”のBGMですね。

  • バトルコンテンツのBGMなんですね。ディレクター机に広げられていた譜面をチラッと見たら、仮題に“バトル”の文字が含まれていましたし、きっとバトル関連の曲なのだろうと思っていましたが、そんなにバトル然としていない曲という印象でした。

  • 水田

    ソーティは宝探しのようなイメージで、「楽しく冒険している感じにしたい」とリクエストをもらっていたんです。深刻な状況であったり、ボスに対する緊張感などの要素はあとから出てくるので、中途半端なことをするよりは1段階目と2段階目の曲のベクトルをそれぞれわかりやすく変えたほうがいいと思いました。

  • 伊賀

    何か新しいことが始まる、オープニング曲っぽいイメージがありますね。

  • 岡部

    わかる!

  • “戦い”よりも“冒険”のほうに寄せてあるわけですね。

  • 水田

    それで、この曲のモックアップ(デモ)を作っていたら、「これはナナーミーゴスだな」と。

  • 伊賀

    作っていったら、たまたまそうなったんですね。

  • 水田

    ええ。最初からナナーミーゴスでやろうと思っていたわけではなくて、作っているうちに「あれ?」といった感じで。3人でまたやれたら最高だなと思いました。

  • 伊賀

    それはうれしいお話ですね。

  • おふたりはレコーディングの依頼を受けてどう思いましたか?

  • 伊賀

    これはバトルの曲なのかな? と思いながら今日ここに来ました(笑)。

  • 一同

    (笑)。

  • 伊賀

    演奏の仕事では「この曲はこういうシーンでこんな風に使われるので、こんな気持ちで弾いてください」と説明を受けることが多いのですが、今回はそういう指示が一切なかったんです。けれども、ナナーミーゴスとして自分や岡部先生を呼んでくれたということは、こういう風にアプローチすればいいんだな、とわかるわけです。曲の用途は謎のままだけれど、“何を表現すればいいのか”という点においては迷いがない。スッと演奏できる楽曲でした。

  • 岡部さんはいかがでしたか?

  • 岡部

    私はナナーミーゴスというユニットが大好きなので、「またできるんだ!」と、すごく楽しみにして来ました。事前にデモ音源と譜面をいただいていたのですが、これはムチャクチャ楽しい! ということが弾かなくてもわかる曲でしたね。水田さんや伊賀さんとのナナーミーゴスというプロジェクトは、楽しさと同時に充実感を与えてくれる貴重な存在だといつも思っています。すごく楽しく弾かせていただきました。

  • ナナーミーゴスとしての活動は、2018年のよみうりランドでのイベント以来ですか?

  • 水田

    そうですね。じつはハロウィンイベント用の楽曲『Devils' Delight』で、ミュージシャンとしておふたりを起用しているのですが、ナナーミーゴスとは雰囲気が違いますよね。やはり、伊賀さんのピアノと岡部さんのバイオリンがあるからこういう曲にする、というところからスタートしないと、同じメンバーでもナナーミーゴスにはならないんです。

  • それぞれの個性がより反映されているのがナナーミーゴスという感じでしょうか。

  • 水田

    そうですね。このふたりにしかできない感じ、3人が集まったときの感じというものをこの曲で出したいと思いました。

同録による即興性の高いレコーディング

  • 今回のレコーディングにあたって、デモ音源と譜面はどのくらい前に受け取られたのでしょうか?

  • 岡部

    確か、1週間くらい前ですね。

  • 伊賀

    自分も同じです。

  • けっこう間際なのですね(笑)。

  • 水田

    おふたりともプロのプレイヤーですから、レコーディング当日に譜面をお渡ししても、そんなに変わらないと思いますよ(笑)。

  • 伊賀

    事前に送っていただいて申し訳ないのですが、そんな感じです(笑)。

  • レコーディング当日に楽曲と向き合って、その場で完成度を高めていくと。

  • 伊賀

    もちろん、事前に送られてきたデモ音源はちゃんと聴きますし、譜面も確認しますが、「よしオッケー! 大丈夫です! じゃあ、あとは当日よろしくお願いします!」という感じですね。

  • 岡部

    私も、家で楽しく聴いて終わりました。「これもう最高だ……」パタン(※譜面を閉じる音)みたいな。

  • 一同

    (笑)。

  • 岡部

    水田さんは楽器の特性を活かした、バイオリンが映えるメロディを書いてくださいますし、あとはもう当日に向けてテンションを上げていって、本番に臨むだけなんです。

  • 伊賀

    先ほどはちょっと誇張して話してしまいましたが、前提として「伊賀と岡部だから」ということを踏まえて構成してくださっているのも大きいんです。何の違和感もなくスッと曲が入ってきますね。

  • 実際にレコーディングを終えていかがでしたか?

  • 岡部

    やっぱり同録(※)はいいなとすごく思いました。

    ※同時録音。複数の奏者が同時に収録を行うこと。
  • 伊賀

    それはありますね。

  • 岡部

    先にピアノを録っておいて、それを聴きながらのレコーディングだったら、「きっとこうは弾いていないだろうな」と思うところがけっこうありました。

  • 伊賀

    自分はすべてのテイクで、一度たりとも同じようには弾きませんでしたけどね。

  • 一同

    (笑)。

  • 岡部

    自分の中のテンションの上がり具合がやっぱり違うんですよ。

  • 伊賀

    それは同録の醍醐味ですよね。すぐ近くで同じ音楽に対して同時に反応し合えるというのは。

  • 岡部

    自分を引き出してくれる何かがあります。

  • 伊賀

    でも、ピアノとバイオリンが同録するという現場って少ないでしょう?

  • 岡部

    本当に珍しいですね。すでに別の日にピアノを録っていて、そこにメロディを入れるということがほとんどです。

  • 今回の収録では、「バイオリンがそう弾くなら、ここのピアノは抑えようか?」といったやりとりがありましたよね。

  • 伊賀

    それも同録だから試せる部分ですね。そういえば、今回のスタジオに置いてあったピアノが、ベーゼンドルファー(※)だったんです。それもよかったですね。

    ※スタインウェイ&サンズ、ベヒシュタインと並んで世界3大ピアノと呼ばれるピアノメーカー。一般的なピアノは88鍵だが、ベーゼンドルファーには低音を拡張した92鍵、97鍵モデルがある。
  • レコーディングスタジオというと、スタインウェイが多いイメージですが。

  • 伊賀

    スタインウェイの高音の煌びやかさは、やはり頭ひとつ抜けているなと思うことが多いです。でも、状況によっては煌びやかであることがベストではないと思っています。今回は低音が拡張されたベーゼンドルファーでしたから、そのふくよかな感じが弾いていて気持ちよかったです。そのあたりも、聴くときに気にしてもらえるといいかもしれないですね。

  • ほかにも聞きどころと言いますか、楽曲のポイントをお聞かせいただけますか。

  • 伊賀

    この曲は、イントロのキメが終わるとA/G(※)というコードに入って、そのA/Gのままバイオリンのメロディが入ってくるんです。このA/Gがヤバい!

    ※分数コード(オンコード)と呼ばれる音楽用語。今回のA/G(AonG)は、Aのコードを構成するラ・ド#・ミに対して、ベース音を構成音以外のG(ソ)にするというもので、ベース音と和音が分離した、どこか浮遊感のある響きになる。
  • 水田

    そこですか(笑)。

  • 伊賀

    今回の水田節の中でいちばんキテいる部分だと思っています。

  • 岡部

    なるほどね! 確かに。

  • 水田

    ちなみに言うと、イントロはあとから考えたんです。A/Gの部分から作り始めて、“キャッチーなイントロ”として付け足した感じですね。

  • 伊賀

    水田さんの曲は、「この瞬間が水田さんです!」という推しポイントがあるんですよ。今回に関してはA/Gが推しポイントです。

  • 岡部

    よくわかります(笑)。

  • いったいどれだけの読者に分数コードが伝わったかわかりませんが(笑)。

  • 伊賀

    わからないまま垂れ流していただければと! そこが激萌えポイントなので。あとは何と言っても落ちサビ(※)でしょう。

    ※落ちサビ……ラストのサビ(大サビ)の前に楽器数をグッと絞って、大サビを盛り上げるアレンジ手法。

  • 水田

    つい入れたくなっちゃうんですよ。このメンバーが集まると、「また(落ちサビを)やってしまった(※)」と思うのですが、いいものはいいんです(笑)。

    ※オリジナルアルバム『Nanaa Mihgo's Stolen Hearts』に収録されている『Khazam』でも、2:36あたりから珠玉の落ちサビを堪能できる。
  • 岡部

    落ちサビはリズム隊(※)も音数が絞られてメロディの聴かせどころになります。メロディそのものはサビと同じなんですが、落ちサビとサビの両方で“映える”メロディを書くって、すごく難しいんですよ。何度聴いても飽きないというのがすごいのです!

    ※リズム隊……バンドなどのアンサンブルにおける、リズムを担うパートの総称。一般的にはベースとドラムが該当する。アレンジによっては、ピアノやギターもリズム隊に含まれることがある。リズム体とも。

  • 伊賀

    自分も落ちサビで好き勝手にリハモ(※)しているので、そこもぜひ聴いていただきたいですね。

    ※リハモ……リハーモナイズ。メロディはそのままで、コードを置き換えること。

ナナーミーゴスから冒険者の皆さんへ

  • 最後になりますが、皆さんからメッセージをお願いします。

  • 水田

    『FFXI』に関わらせてもらったおかげで、さまざまな体験をさせていただきました。こんなにすばらしい超一流のミュージシャンの方々といっしょに音楽が作れて、そのうえ「楽しい」とまで言ってもらえるなんて、こんなに幸せなことはないです。そういう機会がこれからもいただけたらいいなと願いつつ、自分も何かでお返ししたいですね。

  • 岡部

    プレイしながら音楽を心の底から楽しんでいただけたらうれしいなと思います。どうぞ、楽しい時間を過ごしてください。

  • 伊賀

    ひさしぶりにナナーミーゴスとして呼んでいただいて、好き勝手に弾いたわけなんですけども、ゲーム内でもひさしぶりにナナーミーゴスの演奏が聴けるということで、ぜひ楽しんで冒険していただきたいと思います。

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