プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-
第2回 齊藤陽介 パート4

松井プロデューサーが『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物と対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。第2回の対談相手は、『ドラゴンクエストX オンライン』(以下、『DQXオンライン』)初代プロデューサーであり、『FFXI』プレイヤーのひとりでもある齊藤陽介さん。ラストとなるパート4では、ゲーム制作やプロデュースにおける齊藤さんのスタイルについて語っていただいた。

齊藤陽介

スクウェア・エニックス取締役兼執行役員。『NieR(ニーア)』シリーズやアイドルグループ“GEMS COMPANY(ジェムズ カンパニー)”ほか、さまざまなプロジェクトを手掛けている。『DQXオンライン』では、開発初期からプロデューサーを務め、2018年に勇退。現在(2021年)はプラチナゲームズが開発する『BABYLON'S FALL(バビロンズフォール)』をプロデュースしている。

人の気持ちがプロジェクトの成功を左右する

  • 齊藤さんにとって、ゲームを制作、プロデュースするうえで重視するポイントは何でしょう?

  • 齊藤

    プロデュースという言葉が適当かどうかはわからないですが、物作りの一端を担う人間として、携わるものに対して自分が楽しいと思えるかどうかはけっこう重要だと思っています。ゲームを作る期間ってかなり長いですよね。その途中で、もう無理だと思ったり、心が折れそうになることが何度もあります。でも、自分が楽しいと思えるものなら踏ん張れるんですよ。それが、楽しくなかったり、“やらされている”仕事であったら、たぶん途中であきらめてしまうと思います。ですから、「この人と仕事をするのは楽しい」と思えるかどうかという点も重要視しています。

  • 松井

    チーム全体が、高いモチベーションを維持したまま物作りができるかどうか、ということですか?

  • 齊藤

    よく言えばそうです。もっとシンプルに言えば、自分が続けられるかどうかです。自分が続けられなかったら、いっしょに付いてきてくれる人も当然続かないでしょう。あけっぴろげな話ですけど、自分が最後まで責任を持てるかどうかというのは、いちばん最初に考えますね。

  • ゲーム開発の現場では、それは難しいのですか?

  • 齊藤

    断言できるわけではないですけど、やりたくないものをやっている人もいるのではないですかね?

  • 松井

    僕もほかの現場の詳細はわからないですけど、プロジェクト全体の人数もけっこう影響が大きいと思うんです。人数が多い大プロジェクトともなれば、下にいるスタッフは責任も小さくなりがちですから、高いモチベーションを持ち続けたまま仕事をしている人というのはあまり多くないのかもしれません。逆に上の人間は、責任が大きくなることで過去の成功体験にとらわれてしまったり、ロジックに頼りがちになってしまう気がします。いま売れているゲームの作りはみんなこうだよね、みたいな話をしたがるというか。

  • 自分がやりたいかどうかというより、失敗したくない気持ちが勝ってしまうのでしょうか。でも、確かに責任者としては、採算は取らないといけないですよね。

  • 齊藤

    ビジネスなので、もちろんそうですよ。むしろ、最低限その意識はないと、開発を“楽しめる側”には来られないかもしれません。でも、ロジカルにこれがこうだからおもしろいよねとか、マーケティングから考えたらこれは売れそうだよねとか、そんなことはさして重要ではなくて、「これは楽しめるぞ、やってやるぞ」という、ある種の勢いみたいなものがあればいいのではないかと思っています。仮に、その売れるロジックが本当に存在するのなら、みんな成功していますよ。

  • 松井

    人の手を動かして作っているものですから、そういう勢いが最終的に作品のクオリティーにつながっていくことも多々ありますよね。

  • 齊藤

    開発のマイルストーン(※)の中に、踏ん張らないといけない場面がいくつかありますが、そこで最初にあった気持ちを維持できているかどうかは重要で、気持ちがなくなってしまったら5点や10点のデキにもなるし、同じメンバーでも気持ち次第で100点に近い数字が取れたりもするんです。根性論みたいなものですけど。アジャイル(※)がどうとかは“できたらやる”でいいので、けっきょくのところ「努力と根性じゃい!」みたいな感じで。私がこの業界で物作りをしていく中で、2~3周まわって行き着いた“最後に必要なもの”がそれです。

    ※マイルストーン……プロジェクトを完遂するうえでの、中間の目標地点や重要な節目のこと。
    ※アジャイル……開発手法のひとつで、計画→設計→実装→テストといった開発工程を、機能単位の小さなサイクルでくり返していくやりかた。仕様変更に強く、計画をきっちりと煮詰めなくともプログラミングに入れるため、開発期間を短縮できるのがメリット。
  • 松井

    けっきょくはそこに行き着くと。

  • 齊藤

    スマートに開発して成功している人もいますし、プロデューサーの仕事はマニュアル化できないところでもあるので、何が正解かはわかりません。私のやりかたは方法のひとつでしかなくて、私の好みというだけです。また、あくまでもこれは私のやりかたであって、チーム全体でそれを踏襲しろとは思っていません。ディレクターが何を作るべきか理路整然と伝えられる人なら、そのやりかたでいいと思っています。ただ、それでもマスターアップ前は「努力と根性じゃい!」ですね(笑)。

  • 松井

    齊藤さんは“ディレクターファースト”だとつねづね言っていますしね。

プロデューサーという役職を引き継ぐこと

  • 齊藤さんは2018年8月に『DQXオンライン』のプロデューサーを勇退されていますが、そのときのお気持ちと、いまどのように『DQXオンライン』を見ているかお聞かせください。

  • 齊藤

    プロデューサーの引き継ぎについては、その2年くらい前から考えていました。私は責任者としてプロジェクトのヒエラルキーのいちばん上にいたわけですが、その下にいる人間の目線で考えた場合、キャリアパス(※)からしたら私はジャマ者でしかないわけですよ。それに、ツートップ、スリートップのプロジェクトが成功するのは難しく、やはりワントップであるべきだと私は考えているので、『DQXオンライン』のプロデューサーはキャリアパスのひとつとしてあるべきだと思っていました。何人かの候補に「これまでとはまったく違う職種になるが、『DQXオンライン』のプロデューサーをやってみるか?」という話をちびちびとしていく中で、青山(青山公士氏。『DQXオンライン』の元テクニカルディレクターで、現在はプロデューサー)にも「いまはひとつのプロジェクトのメインプログラマーだけど、つぎは新しいプロジェクトのメインプログラマーかもしれないし、ディレクターかもしれない。もしくは、会社という組織の中の技術者としてのトップかもしれない。そういった状況の中で、今後はどういうキャリアパスを考えているの?」という話をしました。

    ※会社などにおいて、社員がある立場に就くまでにたどる経験や役職のこと。
  • 何人かの候補の中のひとりが青山さんだったのですね。

  • 齊藤

    私はどちらかというと、青山にはラインプロデューサー的なポジションに就いてもらい、青山の得意分野でもある、円滑に開発ができる体制作りや組織の最適化、効率化を任せるのがいいと思っていました。プロモーションやコミュニティ運営といった、いわゆる外向きのプロデューサーは別の人間に就いてもらって、ツートップの形でやるのもありなんじゃないかと。先ほどツートップはダメと言いましたが、まずは未経験の領域であること、あとこの場合はふたりの役割が違うので、こういう形ならありかなと考えました。しかし、青山のほうから「内向きの仕事も外向きの仕事も両方自分にやらせてもらえるなら、プロデューサーを引き受けます」と言ってくれたので、それはこちらとしても渡りに船だなと思い、プロデューサーを引き継ぐことにしました。当時の心境としては、「『DQXオンライン』のプロデューサーをしていれば定年くらいまでは十分食っていけるだろうし、やっぱり居座ろうかな……」という思いも半分くらいあったのですが、青山がやると言った以上は後を任せようと思い、話を進めていきました。

  • 齊藤さんのユーモアをご存じない読者の方が真に受けると困るのでフォローしますが、冗談半分ですよね?(笑)

  • 齊藤

    いえ、本気です(笑)。変な言いかたですが、『FF』や『DQ』の重要なポジションにいるとメディアさんはもちろん、業界内外のいろいろなコネクションが得られますし、さまざまな経験が積めるようになります。極端に言えば、相手によってはスクウェア・エニックスという会社名より、『FF』や『DQ』の看板のほうが響くんですよ。のちに何をするにしても、『FF』や『DQ』の要職に就いておけば強みとして活かせるので、チャンスがあればやるべきです。そのぶんプレッシャーも大きいと思いますが、それでもやるべきだと思います。

  • 松井

    『DQXオンライン』は、もう現在は一歩引いて見ている感じですか?

  • 齊藤

    そうですね。周年などのイベントに呼ばれれば盛り上げに行くよ、という程度でしょうか。ですから、手から離れているという意味では、孫ががんばっているな、みたいな感じで見ているのだと思います。それに、いまさら口出しされてもイヤでしょう?(笑) あとは、プレイするとどうしても口を出してしまうでしょうし、いちプレイヤーとしての発言だよと前置きしても、それ以上の受け取られかたをしてしまいますよね。そのため、プレイしたい気持ちはありますが、そこは遠慮するべきだと思っています。まあ、「大富豪大会をやるので来てください」とか言われれば、泣きながら死に物狂いで練習して行くと思いますけど。何も準備せずに行くわけにもいかないので。

  • 松井

    救難信号が出ない限りは見守っていくスタンスなのですね。

  • 松井さんは、田中さん(田中弘道氏。『FFXI』初代プロデューサー)からプロデューサーのバトンを受けたとき、どう思いましたか?

  • 松井

    僕自身は、開発職のほうでのキャリアパスを考えていたので、プロデューサー引き継ぎの話が来たときは、その仕事に向いているのかなという不安もありました。ですが、『FFXI』チームをまとめ、かつ『FFXI』を好きで遊んでくれている人たちを安心させることが僕の仕事だと気持ちを切り替えて、できることをやっていこうという感じでした。

  • 田中さんもその部分を託したかったのでしょうしね。

  • 松井

    プロデューサーをやることで、メディアの方と話したり、イベントなどがあれば「僕も行くよ」と偉そうなことも言えるようになりました。そういったいろいろな経験ができるようになったので、『FFXI』のプロデューサーをやらせてもらえたのは大きいと感じています。以前、齊藤さんは“後継をどう作るか、若手をどう育てるか”ということをすごく悩まれたと社内報で話されていましたよね。

  • 齊藤

    自分が若いときに、上が“つっかえている”と感じていたせいもあるかもしれませんが、この歳になると、いまの若い世代も同じように感じているだろうと。上の人間は率先して能力のある人、もしくはやりたいと思っている人たちに要職を任せるべきだとつねづね思っています。

  • 松井

    『FF』や『DQ』の責任あるポジションにはそれなりのプレッシャーもあると思いますが、そこは後ろから見守るというか、そっと支えてあげる感じでしょうか。

  • 齊藤

    口うるさく言うつもりはこれっぽっちもないけど、相談に来てくれれば、長く生きているぶん多少のアドバイスはできるかなと。ただ、それをそのままやるのは違うよね。その人がやっていることにはならないですから。

  • 松井

    自分の責任で決断するというのがいちばん成長すると思うので、まずは仕事を預けることが大事だと思います。

  • 齊藤

    『FF』や『DQ』は、スピンオフ作品も含めて、誰が作ってもそんなにめちゃくちゃにはならないと思います。でも、完全新規のタイトルだと、10本作って10本ともめちゃくちゃになる可能性だってあるんですよ。だからこそ、トップを経験している人間が新しいものをやるべきだと思っていて、吉田直樹(『FFXIV』プロデューサー兼ディレクター、『FFXVI』プロデューサー)や北瀬(北瀬佳範氏。『FF』シリーズのブランドマネージャー)はいますぐ『FF』を離れて新規IP(知的財産)を作りなさいと思っている派です(笑)。だって、どう考えてもそっちのほうが成功率は高いでしょう? 外向きのプロデューサーとしての顔もそうだけど、開発の過程で起こるトラブルの回避能力も高いですから。経験の少ない人に新規IPで大ヒットを出せなんて、どの口が言うのかというくらい難しいと思いますよ。新規IPは、私たちがやったって3割打てればいいほうでしょうね。

  • 松井

    齊藤さんは、自分の人生でゲーム開発に使える残り時間を考えたとき、あと何本新しいものを作れるのかみたいな話をしていますよね。

  • 齊藤

    そもそも、私は獣道を切り拓いていくのが好きで、舗装された道を歩くのは好きじゃないんだと思います。そう考えると、いまの仕掛り以外でいいとこ2~3本でしょうか。

『DQXオフライン』が発表! 『FFXI』は……?

  • ここでちょっと話題を変えまして。先日『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オフライン』(以下、『DQXオフライン』)が発表されました。オンラインゲームをオフライン化することについて、おふたりはどう思われましたか?

  • 齊藤

    『DQXオンライン』はシナリオが高い評価を受けていると自負していたので、以前からオフラインでも遊べるようにするべきだと思っていました。とはいえ、『DQXII』も発表され、『DQXオンライン』のサービス開始からだいぶ経ったこのタイミングで出すというのはすごいことだと思います。『DQXオンライン』がどれだけいい評価を受けていても、オンラインはやりたくない、できないという人が一定数いるということはわかったので、そこを割り切ってオフライン版を作るというのはおもしろい決断だったと思いますし、より多くの人に『DQX』を遊んでもらいたいという意味では至極当然だとも言えます。それにしても、わざわざ“オフライン”とタイトルに付けているのがおもしろいよね。

  • 松井

    オンラインに対するオフラインということで、あえて付けたのでしょうね。

  • 齊藤

    あと、キャラクターのルックスの部分で好みはあると思うので、もしかしたら『DQXオンライン』のキャラクターを踏襲してもよかったかもしれないし、もしくはもっと違った見た目のキャラクターでもよかったのかもしれないけど、そこはどう決めるか次第だよね。

  • この流れで、『FFXI』のオフライン版はどうですか? と聞きたくなるのですが……。

  • 松井

    『FFXI』のオフライン版を作るとしても、『FFXI』そのものをオフラインにはできないですよね。それで、もし自分がオフライン版を作るとしたら、『FFXI』のワクワクした部分をエッセンスとして抽出して、オフライン版ならではの形に根本から作り変えてしまいたいです。ですから、『FFXI』プレイヤーが望むようなオフライン版にはならないでしょうね。オフライン版どころか、いまの『FFXI』の新生版を作れと言われても、僕はだいぶ作り変えてしまうと思います。

  • 齊藤

    オフラインにすると仕様が変わるところは多いだろうね。それを『FFXI』でと考えると、かなり悩みそうだ。

  • 松井

    何をもって『FFXI』か、というのは、人によってだいぶ違いますよね。僕が『FFXI』で大事にしていたものと、プレイヤーの皆さんがおもしろいと思っていた部分は違う可能性のほうが高いと思います。ですから、プレイヤーが望むものはいったん置いておいて、「自分が考える『FFXI』を作れ」という話であれば、それはそれで楽しそうだなとは思いますが……という感じの距離感です。

  • 齊藤

    『FFXI』のストーリーも高い評価を受けていますよね。

  • 松井

    そうですね。『FFXI』の世界ごと何らかの形で残したいとは思いますが、それは僕の専門分野ではないので、得意な人にお任せしたいという気持ちはあります。

  • いまの『FFXI』はフェイスを使えばレベル上げもひとりでできますし、ストーリーも追えますから、そういう意味ではオフラインのゲームに近いですよね。

  • 松井

    いまの『FFXI』はひとりでも十分遊べるので、ぜひストーリーを楽しんでもらいたいと思います。ただ、オフラインのゲームに近いとはいっても、やはりゲーム性については、ほかのプレイヤーがいるという点は大きいですね。

  • 『FFXI』の世界は、プレイヤーの存在によって完成している部分があるとよくおっしゃっていますよね。

  • 松井

    はい。それは、どのMMO(多人数同時参加型オンライン)RPGも同じはずなので、『DQXオフライン』も『DQXオンライン』での体験すべてをオフラインに落とし込むことはできないと思うんです。おそらく、ストーリーなり、世界の雰囲気なり、どこかにフォーカスしてくるんだろうなと。

  • 齊藤

    私は『DQXオフライン』の内容についてどうこう言える立場ではないので、ただ好き勝手に言っているという前提で聞いてほしいのですが、オンラインだからこそできることがあるのなら、オフラインだからこそできることもあるはずなので、それを何かしらの形で盛り込んでくるのではないでしょうか。それがないと、いまも遊んでくれている『DQXオンライン』のプレイヤーには物足りないでしょう。せっかく作るのに、それではもったいないですよね。

  • 齊藤さんは『DQXオフライン』については完全にノータッチなのですか?

  • 齊藤

    会社での立場上、発売されるタイトルは全部見ていますので、『DQXオフライン』はそのうちのひとつとして見ているだけです。

念願の“ハクスラ”タイトルを制作中

  • それでは、齊藤さんご自身が現在(2021年)手掛けられている新作について、何かお話しいただけることはありますか?

  • 齊藤

    同時並行で何本か面倒を見てはいますが、いまお話しできるものとすると、ずっとやっていなかったMO(※)のタイトルとして『BABYLON'S FALL(バビロンズフォール)』(以下、『バビロンズフォール』)をがんばって作っています。

    ※マルチプレイヤーオンラインの略。MMOが不特定多数のプレイヤーが集まる大規模なものに対し、MOは少人数で世界を共有するオンラインゲームを指す。
  • それは齊藤さん肝入りのタイトルなのですか?

  • 齊藤

    前にもお話ししましたが、もともと『Diablo(ディアブロ)』(以下『ディアブロ』)がめちゃくちゃ好きで、それが私のゲーム開発者としての起点でもあるので、ハックアンドスラッシュ(通称“ハクスラ”)のゲームをいつかは作りたいと思っていました。『ディアブロ』のような斜め見下ろし型のハクスラもいいなと思っていましたが、『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』(以下、『オートマタ』)でプラチナゲームズとつながりができたので、新しいものをいっしょに作りましょうという話をしました。その自分がずっと作りたかったハクスラにおいて、手触りのよさを突き詰めようとしたら、プラチナゲームズのアクションのよさが引き立つだろうと思っています。ただ、あんまり難しいゲームになりすぎないように注視しておかないといけないんですよね。油断するとゴリゴリなものを作ってきちゃうので(笑)。

  • プラチナゲームズが作るアクションゲームは骨太で歯応えがあるイメージですね。

  • 齊藤

    『NieR Gestalt (ニーア ゲシュタルト)』と『NieR Replicant(ニーア レプリカント)』を作ったときに、「物語を体験したいのに、ゲームが難しすぎて先に進めない」という声があったので、『オートマタ』のときは難しくしすぎないようにとお願いしました。そこで私が何か解決方法を言ってしまうとそれが答えのようになってしまうので、「アクションゲームが苦手な人を救済する方法を考えてください」と伝えたんです。その答えが、オートバトルでした。これはアクションゲームに一家言あるプラチナゲームズのプライドみたいなものをいったんどこかにどけて、アクションゲームが苦手な人でも楽しめる仕組みを真剣に考えてくれたうえでの実装だったので、そういった面でも信頼できるし、ありがたかったですね。『バビロンズフォール』は、アクションゲームはあまりやらないけど『オートマタ』は楽しめたという人が入って来てくれるかもしれないので、アクションゲームが苦手な人でも遊べるようにしつつ、逆にアクションゲームが好きな人は突き詰めていけばよりおもしろくなるような仕組みを用意してくれると期待しています。

  • ひとつ気になったのですが、『バビロンズフォール』のシナリオは岩尾さん(岩尾賢一氏。『FFXI』の世界設定などを手掛けた元プランナー)が手掛けているそうですね。これは齊藤さんからオファーしたのでしょうか?

  • 齊藤

    いえ、プラチナゲームズからの提案だったんですよ。「え? それ超うれしいんですけど!」と返しましたよ(笑)。

  • 松井

    それはおもしろい巡り合わせですね。

  • 齊藤

    私、ヴァナ・ディールはまあまあ詳しいですよ、という感じで(笑)。

  • 岩尾さんと言えばヴァナ・ディールの世界設定を作った人というイメージがありますが、加藤さん(加藤正人氏。『ジラートの幻影』までのプロットを担当)も世界の創生に大きく関わっていて、実際はどのように分担されていたのでしょうか?

  • 松井

    基本的には石井さん(石井浩一氏。『FFXI』初代ディレクター)が主導する形で進んでいきました。たとえば、私が関係するところですと、モンスターの原型を作られたのは石井さんで、それをバトル班が引き継ぐ形で実装しています。ストーリーラインに沿った世界観などは、会議で出た皆の意見を取捨選択しながら、石井さんと加藤さんの二人三脚で決められていたと思います。岩尾さんは、当初から装備やマップの小物などのデザイン部分でかなりアドバイスをされていたようです。実際は、開発と並行して少しずつ世界が形作られていったという感じで、最初からいまの形と同じ設定が作られていたわけではないのです。岩尾さんからの提案は、ヴァナ・ディールという世界にリアリティとより深い歴史的背景を補ってくれたので、拡張ディスクを出すごとになくてはならない存在となっていました。

  • 岩尾さんは世界にディテールを与える作業をしていたのですね。

  • 松井

    僕らも岩尾さんのことを、スクリプトを書いたり、お話を書いたりするイベント班のひとりという認識でしかなかったので、開発当初は岩尾さんを通して行う作業はありませんでした。後からそういった設定などの部分で力を発揮する人だということがわかり、だんだんと世界設定などについてお願いすることが増えていきましたね。

  • 齊藤

    『バビロンズフォール』でも、プラチナゲームズのゲームデザイナーたちが考えた世界観や設定がベースにあり、そこにリアリティーを持たせるための仕事を岩尾さんがしているので、いまの話にとても近くていいなと思いました。

  • 齊藤さんは今後もオンラインゲームを作っていきたいと思いますか?

  • 齊藤

    オンラインゲームは作るのがとにかくたいへんなので、プロジェクトが終わったときに「もういいかな」といつも思っているんですけど、バカだから忘れちゃうんですよね(笑)。

  • 松井

    毎回がんばりすぎて燃え尽きてしまうけど、しばらくすると楽しかったことがまた蘇ってくる感じでしょうか。

  • 齊藤

    スタンドアローンのゲームも好きですが、自分の遊びの体験として、人と遊ぶことが楽しいというのがあるのだと思います。逆に言うと、そこに甘えているところもあるかもしれないです。人と遊ぶこと自体が楽しいから、遊びとしておもしろいものをちゃんと作れば、最低限のおもしろさは担保できるというのはあるかも。

  • 松井

    齊藤さんは、ボードゲームやカードゲームなどのいわゆる“非電源系”のゲームも遊ばれるのですか?

  • 齊藤

    それも好きですよ。TRPG(※)も好きなのでけっこうやっていましたし、最近だとイマーシブシアター系のものや脱出ゲームなど、施設で遊ぶ体験型のゲームも好きです。やっぱり、人と遊ぶのが好きなんでしょうね。こんなことを言っておきながら、誰も信じてくれないと思うんですけど、平日に人と話をしすぎているせいか、土日は誰とも話したくないんですよ。素の私は根暗なんです。でも、月曜日に背中のスイッチをなんとか押して、金曜日に電源が切れるまでがんばろうと。それで、たまに土日にイベントがあったりすると、日曜日の最後の30分、月曜日になる直前まで、体育座りで天井を見ながら今週の反省をしていたり(笑)。

    ※テーブルトークロールプレイングゲームの略。ルールブックに従い、会話によって進行するRPG。いわゆる和製英語で、英語圏ではコンピューターゲームと区別するためにTabletop RPG(テーブルトップRPG)と呼ばれたりもする。
  • でも、なんとなく理解できます。人と関わることはエネルギーが必要ですし、社交的に見える人ほど、本当は人見知りだったり繊細だったりしますよね。……さて、齊藤さんの内面にまで迫って来たところで、そろそろお時間となってしまいました。最後に『FFXI』プレイヤーの皆さんにメッセージをお願いします。

  • 齊藤

    いまの『FFXI』プレイヤーの遊びかたはまったく想像がつきませんが、私が知る限り『FFXI』は世界最高峰のMMORPGだと思っているので、ぜひとも遊び続けてください。そうしてヴァナ・ディールを支え、松井さんにもっと「ああしろ、こうしろ」と言い続けてください(笑)。サルタバルタを走り、マウラへ行くまでの道はいまでも覚えていて、あの当時、ともに冒険していた人たちとまたあの世界を走り回りたい、冒険したいという気持ちはあるので、タイミングさえあえばヴァナ・ディールにもう一度降り立ちたいと思っています。いつの日かヴァナ・ディールに戻れる日を私は楽しみにしています。

  • 松井

    僕たちも世界を守り続けますので、ぜひ遊びにきてください。

  • 齊藤

    毎週必ず行っていたパラダモの丘の山登りやウルガラン山脈の崖滑りなど、身体が覚えているかどうか挑戦してみたいですね(笑)。