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プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-
第5回 北瀬佳範 パート2

松井プロデューサーが『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物と対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。第5回の対談相手は、スクウェア・エニックスで『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズのブランドマネージャーを務める北瀬佳範さん。今回のパート2では、北瀬さんが初めて『FFXI』を見たときに受けた印象や、『FFXI』のルールがどのように生まれたかなどについて語っていただいた。

北瀬佳範

『FFV』で初めて『FF』シリーズの開発に参加し、『FFVI』から『FFVIII』までのディレクションを担当。『FFX』からはプロデューサーとして制作に関わる。以降、20年以上にわたって数多くの『FF』シリーズ作品・関連作品を手がけてきた。最新作は2020年に発売された『FFVIIリメイク』。2021年の4月には橋本真司氏から引き継ぐ形で、『FF』シリーズを統括するブランドマネージャーに就任した。

シリーズ11作目『FFXI』に感じたRPGの未来

  • 『FF』シリーズがナンバリング11作目にしてオンラインに挑戦すると聞いたときの率直な感想をお聞かせください。

  • 北瀬

    最初に白状してしまうと、僕はそれほどMMO(多人数同時参加型オンライン)RPGをプレイするタイプではないです。でも、そのころは『Ultima Online(ウルティマオンライン)』(以下、『UO』。※)をちょこちょことプレイしていました。その少し前から「未来のRPGはオンラインでつながっていて、街にいるひとりひとりが世界のどこかからログインしている。そんな世界が来るんだよ」というようなことが言われていて、『UO』が世に出たことで、いよいよオンラインの時代が来たことを感じていました。そんな中で『FFXI』をMMORPGにするというのは、「まさに“未来”だな」と思いましたね。

    ※『Ultima Online(ウルティマオンライン)』は、1997年にサービスが開始された、MMORPGの草分け的なタイトルとなる。
  • 開発者視点で、「無謀ではないのか?」といったことは考えませんでしたか?

  • 北瀬

    確かに、「オンラインRPGを3Dで作るのはたいへんだろうな」とは思いました。そもそも、シングルプレイのRPGでさえ、フル3Dのゲームはそうそうなかった時代です。『FFVII』と『FFVIII』の背景はプリレンダリングの擬似的な3Dでしたし、このころの僕が担当していた『FFX』もカメラには制限を持たせていて、レールカメラと言われる“視点が1方向に固定された3D”になっています。『FFX』では、当時のシングルプレイのゲームで要求されるグラフィックのクオリティで360度すべてを3Dで作るのは難しいだろうと早い段階で判断していました。ハードの制約はもちろん、作業量やコストも含めて考慮した結果ですね。そのように、シングルプレイの『FFX』でさえも最初に「なるべく狭い範囲を3Dで作りましょう」と決め、限定して作っていたのに、“フル3DかつMMORPG”ですから、ある意味無謀にも思えますよね。MMORPGを作ること自体は先に『UO』もありましたし、できるだろうとは思っていましたが、あれは2Dのゲームでしたから。

  • 松井

    でも、見えない(見せない)ところは作らないと割り切って考えるのもたいへんな作業だと思います。『FFXI』でも、プレイヤーのカメラでは回り込めないところや、実際には足を踏み入れられない範囲はあまり作り込んでいなかったりします。

  • とはいえ、『FFXI』の3Dの密度はすばらしいと思います。

  • 松井

    デザイナーさんたちの苦労のおかげですね。プレイステーション2という当時の最新ハードで、せっかく綺麗な3Dグラフィックが出せるようになったのに、「キャラクター1体あたりのポリゴン数を抑えてほしい。テクスチャーの容量も節約してほしい」と言われるわけですから。自分以外のプレイヤーが、どんな装備で何人画面に現れるのかわからない中、なるべくたくさんのキャラクターを表示できるようにするため、クオリティと相談しながら、できる限り1体あたりの容量を切り詰めてもらいました。

  • 北瀬

    『FFX』では“防具を変えるとグラフィックにも反映される”という部分も諦めたけど、せめて武器くらいは変えたいと思って、装備変更でグラフィックが変わるようにしました。『FFXI』は防具も含めて全部変わるのだから、すごいよね。

  • 松井

    『FFXI』の場合は、それが前提の設計だったというだけで、優先度の違いでしょうか。『FFXI』も、ほかのところでは諦めたことが多いと思います。

  • 北瀬

    ハードの制限もあるからね。アマチュアとプロの違いとは、“何を諦めるのかを決められること”だと考えていて、「MMORPGは装備の種類や世界の広さを取る代わりに、いろいろなものを陰で捨てているんだろうな」とは思っていました。

  • 松井

    物語で言うと、ストーリーの途中でいなくなってしまう人は街の中に立たせることができないし、「みすぼらしかった人があるときを境にリッチになりました」というような変化も、基本的にはできませんでした。

  • 北瀬

    当時、MMORPGはまだそれほど数が多くはなかったから、お手本になるものはあまりなかったでしょう? 3Dという意味では『EverQuest(エバークエスト)』(以下、『EQ』。※)があったからビジュアル面で参考にした部分はあるんだろうけど、ゲームデザインや設計はどうやってノウハウを得ていたの? 作りかたで困ることはなかった?

    ※『EverQuest(エバークエスト)』は、1999年に米国でサービスを開始した海外産のMMORPG。
  • 松井

    『EQ』でも『FFXI』と同様に、戦闘不能時に経験値の一部を失います。その際に、『FFXI』ではつぎのレベルに必要な経験値を参照してペナルティ量を決定していましたが、『EQ』ではいまのレベルになるときに必要だった経験値を参照するというものでした。それとは別に、『EQ』では5レベルか10レベルごとに必要経験値がものすごく増えるという仕様があります。このふたつのルールが合わさると、レベルアップがたいへんなゾーンを抜けてひと安心と思いきや、そのレベルで戦闘不能になってしまうとすごい量の経験値が失われてしまうんです。これは“裏Hell(ヘル)”と呼ばれていたのですが、どうしてそういう仕組みになっていたのかわからなかったし、「そういう調整をしたかったのかなぁ」と想像で補うしかありませんでした。

『FFXI』のパーティが6人である理由

  • MMORPGに限らず、オンラインゲーム自体もまだあまりない時代でしたから、通信を介しての6人や18人での戦闘が成立するのかであったり、どのくらいのバトルスピードが適切なのかといったノウハウもほとんどなかったと思うのですが、そのあたりはどうしていたのでしょうか?

  • 松井

    それは、本当に自分で想像してシミュレーションをしてみるしかなかったですね。しかし、6人パーティの殲滅力は自分が考えていたよりも2倍も3倍も高く、予測はまったくと言っていいほど合っていませんでした。そもそも、それだけレベル差があれば戦う気すら起きないだろうというようなモンスターをみんなで狩りに行き、「命中が足りない!」と言うんですから。当時の自分としては、「そうだよ! そのレベルでそのモンスターと戦う想定はしていないんだよ!」と、心の中で叫んでいましたね(笑)。

  • その後、戦うことを推奨しない強さを表す指標として“とてもとても強い”という表記が追加されましたよね。それでも、みんな“とてとて狩り”していましたけれど(笑)。

  • 松井

    けっきょく、プレイヤーの皆さんは何とか狩れる“とてとて”を探してレベル上げをしていて、これは自分の想定の甘さでした。ですから、『FFXIV』でバトルの担当をしたときは、ぜんぜん違う計算にしましたね。

  • 北瀬

    そこで『FFXI』の経験が活きたと。

  • 松井

    でも、イチからMMORPGを作る機会はもうないでしょうけど……。

  • 北瀬

    せっかくノウハウを得たのにね(笑)。

  • そういえば、パーティは6人になっていますが、通信などの仕様面から決めたのか、もしくはパーティのロール(役割)から決めたのか気になります。

  • 松井

    そこは田中さん(田中弘道氏。『FFXI』の初代プロデューサー)や石井さん(石井浩一氏。『FFXI』初代ディレクター)がこだわった部分だったと思います。4人だと役割がガチガチに固定にされてしまうし、5人でも大差はなさそう。でも、6人までいると編成に遊びが出てくるだろうという感じでした。

  • 一般的なロールとして、タンク(盾役)、アタッカー(攻撃役)、バッファー(支援役)、ヒーラー(回復役)で4枠埋まってしまいますしね。

  • 北瀬

    ノウハウがあるわけではないのに、シミュレーションしてそういった設計をするのはすごいと思うよ。

  • 松井

    でも、バトル担当の人間はつねにそういうことを考えていると思いますよ。ストーリーを考える人やイベント班も同じように、「あのカップルはどんな会話をしているんだろう」とか、「この靴下はなんでここに落ちているんだろう」とか、日常の中から物語を感じたりしますよね。

  • 北瀬

    確かにそうだね(笑)。でもいろいろなプレイヤーがいるし、皆が皆こちらの想定したようにパーティを構成するとは限らないでしょう? それがすごいなと思って。

  • 松井

    そこはポリシーがあるんですよ。プレイヤーの皆さんのためだと思っても、変なルールを作ってしまうと、そこが歪みになって悪い人に狙われてしまいます。ですから、“物理的に”と言うと変かもしれませんが、自然界にある法則になるべく近しいルールで作っておくと基本的には間違いがない、といった経験則があります。僕は正規分布(※)とか自然にある関数が大好きなんですよ。これまでに科学者や統計学者が研究した成果があるのだから、それを利用しない手はないですよね。

    ※統計学で用いられる確率分布のひとつで、データが平均値付近に集積する。
  • 北瀬

    天才肌の石井さんとはゲーム性の指向といった部分でぶつかったりしなかった?

  • 松井

    石井さんとは、コウモリ族が“獣(ビースト類)”か“鳥(バード類)”かの分類で揉めた記憶があります。

  • まさに“こうもり問題”じゃないですか(笑)。

  • 松井

    僕は“獣”にしたかったんですよ。

  • 北瀬

    分類学的にはどちらになるんだっけ?

  • 松井

    哺乳類です。でも、石井さん的にはコウモリ族は“鳥”で、「ヴァナ・ディールの人たちは鳥と認識しているんだよ。鳥でいいんだよ」と押し切られました。石井さんには石井さんのこだわりがあるんですよね。戦闘のフォーマットを考えると、“鳥”でくくってあげたほうが倒しかたや弱点が共通化するから、ゲームとしては正しかったのだと思います。

  • 鳥と同じように「突属性が効きそう」という感覚的な部分ですよね。

  • 松井

    そういったことはあったものの、ほかには石井さんと衝突することはあまりなかったかな。むしろ「具体的な中身は考えて!」と任せてもらえたことのほうがいっぱいありました(笑)。

  • 北瀬

    “科学的に正しい設計派”と“演出重視派”でぶつかることはけっこうあるから、「『FFXI』ではどうだったのかな」と気になってね。

  • 松井

    小さい部分ではいろいろありましたよ。たとえば、僕としては“そのときだけの特殊なルール”を入れるのは基本的にイヤなのですが、ストーリーやイベントで使う場合は、「気持ちよくイベントを作れるならいいか」と僕が折れることはありました。

  • 北瀬さんのチームでも衝突は起こるのでしょうか?

  • 北瀬

    最新のゲームでは、CG空間の中にライトを置くと現実世界と同じように光が飛んで反射するようになっているのですが、『FFVIIリメイク』でカットシーンを作っていたときに、“人物がアップになったときはその瞬間だけライトを当てて、より画面映えするように作りたい演出重視派”と、“変なところにイレギュラーな光源を置きたくないリアリティ重視派”がぶつかるようなことがありました。

  • でも、ドラマや映画などの映像作品では、自然光以外の光源は日常的に使われていますよね。

  • 北瀬

    ゲームの場合だと、あらゆる場所にライトを置けるので、その人物以外の環境にも影響を与えてしまうことがよくあるんですよ。

  • なるほど。極端な話、顔の脇にライトを置くこともできますもんね。

  • 松井

    プレイヤーが受け入れてくれることが大前提ですけど、ゲームだからと割り切る部分も必要ですね。ゲーム開発は、作り手も気持ちよく作れないとやっていられないくらい、たいへんな作業だと思いますので。

“MMORPGの沼”は社内でも噂になっていた

  • ゲームとしてしっかり形になった『FFXI』を北瀬さんが最初に見たのはいつですか? また、そのときにどういう印象を受けましたか?

  • 北瀬

    覚えていないなぁ……。ふつうにサービス開始してからプレイした気がします。2000年にあった“スクウェア ミレニアム(※)”で『FFIX』、『FFX』、『FFXI』を同時に発表し、それぞれのタイトルが並行して動いていたので、お互いに忙しかったですしね。

    ※2000年1月29日にパシフィコ横浜で開催されたスクウェア(当時)主催のイベント。
  • 『FFX』に付きっきりで、ほかのプロジェクトを気にしているどころではなかったと。

  • 北瀬

    実際にリリースされた『FFXI』を見たときの最初の印象は、「本当に3Dで動くんだ!」という感じでした。“スクウェア ミレニアム”のとき、「これからはオンラインの時代だ」と“プレイオンライン”も同時に発表し、そこから数年で本当にフルスペックのMMORPGとして『FFXI』がリリースされたわけですから、本当に驚きましたね。

  • 松井

    プログラマーだけで見ても、ものすごく贅沢なスタッフで作っていたので、「できない」というわけにはいきませんでしたね。

  • 北瀬

    そういえば、『FFXI』の開発現場に直接行ったことはなかったものの、風の噂で「『EQ』の世界から戻ってこないスタッフがいる」という話は聞きました(笑)。そういう話を聞いていたので、“沼に入ってしまうと戻れない世界なんだ、MMORPGは本当に深いな”と思いました。

  • 松井

    メインプログラマーのYさんが……。

  • そんな重要なポジションの方が、『EQ』の世界に行ってしまったのですね。

  • 北瀬

    そういう噂話が聞こえてくるので、「MMORPGの開発はたいへんなんだろうな」と思った記憶があります。のちに僕もスマホで運営タイトルを経験して、MMORPGとはちょっと違うものの、「確かに、沼になっているのはわかるな……」というのは実感しました。

  • 北瀬さんは『FFXI』はプレイされたのでしょうか?

  • 北瀬

    少しだけプレイしました。ちなみに、この対談があるので久々にログインしてみたんですが、十数年ぶりなのにキャラクターがちゃんと残っていてすごいなと思いました。

  • 松井

    おお、そうなんですね。北瀬さんはどの種族を使っているのですか?

  • 北瀬

    ヒュームの男性ですね。僕はこの手のゲームではだいたいオーソドックスなキャラクターを選びます。

  • 松井

    所属国はどちらに?

  • 北瀬

    国はサンドリアかな。オークと戦ったのは覚えているよ。ジョブは赤魔道士でレベル11でした。本当にぜんぜんプレイしていないよね(笑)。ソロでプレイしていたので、ここで力尽きたんだな(笑)。

  • 一同

    (笑)。

  • 北瀬

    『UO』もプレイしたけど、パーティを組むのが苦手なんだよね。

  • 松井

    僕もいっしょです。

  • 北瀬

    でも、当時はソロだとたいへんだったから、そのあたりでやめちゃったのだと思う。いまはソロでも大丈夫なんでしょ?

  • 松井

    いまは大丈夫ですよ。NPCとパーティを組んで遊べる仕組みもあります。

  • 北瀬

    ソロでも遊べるようになったと聞いたので、ちょっと遊んでみようかなと思ったんだよね。

  • 当時、ソロだとレベル10を超えたあたりからレベル上げがたいへんになってくるんですよね。

  • 松井

    ラテーヌ高原に行くくらいになると、“同じ強さ”のモンスターでもきつくなってくるので格下を相手にするんですけど、そうすると1回の戦闘でもらえる経験値は減ってしまうし、つぎのレベルまでの経験値もだんだんと増えていくから、どんどんとたいへんになっていくんですよね。リンクするモンスターや襲ってくるモンスターも増えてきて、戦闘不能になるシチュエーションも多くなりますし。

  • 北瀬

    当時、社内の人もけっこう『FFXI』で遊んでいたよね。野村哲也(『FFVII』のキャラクターデザインや『キングダムハーツ』シリーズ、『FFVIIリメイク』などのディレクターを担当)もプレイしていたし。

  • 松井

    そうですね。間さん(間 一朗氏。『ファイナルファンタジー レコードキーパー』プロデューサー)が、野村さんに何度も呼び出されたという話をよくしています(笑)。

  • 北瀬

    リアルのコミュニティで集団を率いている人たちは、オンラインの世界でもちゃんと集団を作れるんだよね。僕は一匹狼だったから、オンラインの世界でも仲間が作れなくて……(苦笑)。

  • 松井

    『FF』シリーズのプロデューサーが一匹狼というのはどうなんですか(笑)。

※第5回 北瀬 佳範 パート3へ

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