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プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-
第12回  島田宗毅 パート4

松井プロデューサーが、『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)とゆかりのある人物と対談を行うスペシャル企画“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”。第12回は、2002年のサービス開始から2016年まで『FFXI』のプラットフォームとしてヴァナ・ディールを支え続けたプレイステーション 2(以下、PS2)に注目。その開発に携わったソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)の島田宗毅(しまだむねき)さんに話を聞いていく。『FFXI』の開発初期段階からPS2のネットワーク部分に関わってきた島田さんは、家庭用ゲーム機で発売される初の本格的MMO(多人数同時参加型オンライン)RPGをどのように見ていたのだろうか? 最終回となるパート4では、島田さんが重要視する“技術や経験の蓄積”についてや、14年間にわたったPS2版『FFXI』のサービスについて振り返っていただいた。

島田宗毅

ソニー・インタラクティブエンタテインメント バイスプレジデント。1998年にソニー・コンピュータエンタテインメント(SIEの旧社名。以下SCE)に入社し、PS2や“PlayStation BB Unit”(以下、BBユニット)などの開発に関わる。その後はPSP「プレイステーション・ポータブル」などの携帯ゲーム機や、オンラインサービス“PlayStation Network”(プレイステーションネットワーク。略称PSN)、グローバルのゲームデベロッパーへの技術支援など、幅広い分野の開発に携わっている。北米在住。

PS2で『FFXI』が約14年間動き続けたという奇跡

  • 島田さんから見て、PS2という家庭用ゲーム機で発売されたこと以外に、『FFXI』がそれまでのMMORPGやほかの家庭用ゲームと違ったのはどのような点だと考えていますか?

  • 島田

    それまで『EverQuest(エバークエスト)』(※)などのPCでプレイするMMORPGは、マウスとキーボードを使ってプレイしていました。しかし、『FFXI』ではゲーム機をテレビに接続して、コントローラーでプレイが可能だったということが純粋に斬新でしたね。ほかにも印象的だったのが、サービス開始当初からすでに何カ月も先のバージョンアップの予定を計画していた、ということです。“ひとつのタイトルを制作して販売して、それで終わり”ではなく、長期的なスパンでコンテンツを継続的にリリースしていくというのは、それまでの家庭用ゲームにはなかった形でした。

    ※『EverQuest(エバークエスト)』は、1999年に米国でサービスを開始した海外産のMMORPG。
  • 松井

    『FFXI』以降は、BBユニットやネットワークアダプターを活用したネットワーク対応タイトルも増えていったと思うのですが、SCEさんの立場から見て、それらのタイトル数は想定の範囲内でしたか?

  • 島田

    具体的なタイトル数までは想定していませんでしたが、PS2の後期では、おかげさまでたくさんのソフトウェアメーカー様とネットワーク対応について相談させていただきました。そして、それがさらに広がったのはやはりPSPですね。PS2の流れを踏まえて、PSPでは発売当初から多数のネットワーク対応タイトルをリリースすることができました。ネットワークの技術面でもそうですし、プラットフォームの機能や、各社さんのゲームの企画の点でも、PS2での積み重ねがあったからこその結果だったと思います。ネットワーク対応といっても、当時はWi-Fiルーターやブロードバンド回線もまだ普及し始めたばかりのころでしたので、「何が可能で何ができないか」、「できないならどうすればいいか」ということは、PS2での経験を踏まえている部分が多いです。多くのタイトルにおいて、巨大なサーバー群を中心にしたサーバー・セントリック方式よりも、クライアントを起点としたクライアントドリブンの通信対戦の手法を採ったのは、まさにその具体例のひとつです。さらにその後は、GoogleやAmazonといったサーバー側のテックジャイアント(※)が台頭し、弊社でもプレイステーション 3(以下、PS3)などに向けて本格的にサーバーインベストメント(サーバーへの投資)を始める、という時代に突入していきました。

    ※世界や市場で支配的な影響力を持つIT企業群の通称。ビッグテックとも呼ばれる。
  • 松井

    PSPは『モンスターハンター ポータブル』シリーズ(※)の人気がすごかったですよね。駅のホームなどで中学生や高校生が集まってプレイしていたのをよく見かけました。

    ※2005年にカプコンから発売された『モンスターハンター ポータブル』を起点とする、PSPでの一連のシリーズ。アドホック通信により、ほかのプレイヤーとのマルチプレイが可能だった。
  • 『モンスターハンター』も、もとをたどればPS2が出発点でした。

  • 島田

    そうですね。根幹の技術やそれをどう活用するかはタイトルなどによって異なるのですが、各タイトルを担当するチーム自体はおそらくPS2からPSPにハードが変わっても同じ方々が関わっていくでしょうし、そこも経験の積み重ねがあったのだろうと思います。

  • 松井

    “経験や技術の蓄積”は重要ですよね。

  • 島田

    1990年代はその積み重ねがおもにグラフィックス面において顕著だったと思いますが、2000年代に入ってからはそれがネットワーク面で多く見られたという印象です。それはPS3でもずっと続いていたことで、プレイステーション 4(以下、PS4)くらいになってようやくひとつの完成形を見た、といった感じですね。

  • 『FFXI』も20年もの積み重ねでいまに至りますが、当時のSCE側としては“『FFXI』のサービスはいつまで続くのか”といった、期間の想定はされていたのでしょうか?

  • 島田

    SCEではサーバーそのものを用意していたわけではなく、各種ライブラリを提供していただけではあるのですが、PS2でのパッチングのメカニズムに関してはSCE側の領域でしたので、その点はずっとサポートしていく必要がありました。ただ、「いつまで運営を続けるのか」ということは、私が知るかぎりでは想定していませんでした。

  • 松井

    PS2版でのサービス末期は、SCEさんにすごいわがままを聞いてもらっていて……。本来、BBユニットのハードディスクは1タイトルで使える容量の上限があったのですが、あるタイミングで容量がもう足りなくなってしまって、一度そのルールを曲げて容量を広げてもらったことがあったのです。それにも関わらず、また足りなくなってしまって、最後のほうには「もう全部『FFXI』で好きに使ってもらっていいですよ」と言っていただきました。あとは、専用の開発機材をいつまでも保存して融通してもらっていたのも大きいですね。PS2版の『FFXI』があれほど長くサービスを続けられたのは、SCEさんの多大なるご協力があってのことなのです。

  • 島田

    そういう話をうかがうと、弊社にも喜ぶスタッフが数多くいると思います。社内にも『FFXI』が大好きな人間は多いので、きっと彼らが『FFXI』のサービス継続に貢献していると意識しながら対応していたのだと思います。

  • 松井

    思えば、PS2における最後のパッケージタイトルも『アドゥリンの魔境』(2013年3月27日発売)なんですよね。

  • 島田

    そう考えると、ひとつのコンテンツが20年も続くというのは、本当にすごいとしか言いようがないですね。それは開発スタッフの皆さんだけではなく、プレイヤーの皆さんも含めてのひとつのコミュニティがあったからこそだと思います。

  • 松井

    自分が制作の当事者だったこともあって、当時はPS2でMMORPGが動くのは当たり前のような感覚があったのですが、長年経って客観視してみると、そもそもPS2で『FFXI』が動いたということ自体が奇跡のようなものです。20年という歴史の中の14年間も動き続けていたということでも、PS2というハードには本当に助けられました。ハードウェア的な限界がもっと早い時期に来ていたら、『FFXI』はまた違った展開になっていたと思います。そういう意味では、PS2というハードはとても愛おしいです。

  • 島田

    PS2版のサービス終了が2016年ですから、PS4を発売してから3年後ですよね。改めて調べてみてびっくりしました。

  • 松井

    PS2のメンテナンス受付が終了するとのアナウンスがあったとき、『FFXI』のプレイヤーからは「市場在庫を探してストックを確保しなければ!」という声も上がっていました(笑)。

  • 島田

    PS2にはEXPANSION BAY(拡張ベイ)が実装されていて、それがあれだけ長期間稼働し続けた理由にもなっているかと思います。

  • 松井

    そもそもけっこう早い段階で、「PS2でMMORPGが作れそうだから『FF』でやるよ」という話にはなってはいましたが、初期からその拡張性も考慮に入れてのことだったのかもしれません。

  • 最大64人で突入可能だったデュナミス(※)であったり、700人も参加できるビシージが実現できたりと、いま考えてもPS2はすごいハードですね。

    ※実装当初のデュナミスは最大64人が同時入場可能な、エリア占有型のコンテンツだった。2011年に現在の非占有型の仕様に変更。
  • 松井

    デュナミスやビシージについては、「すべてのキャラクターを表示することができなくても、プレイヤー側から見て大事な部分だけが表示されていればいい」という形で作ってはいます。肝心な敵の姿が表示されなくて問題になったりしたこともありましたが……。それを踏まえても『FFXI』では、本当にPS2に無茶をさせまくっていましたね。

  • 最後に島田さんから、20周年を迎えた『FFXI』とプレイヤーの皆さんにメッセージをお願いします。

  • 島田

    20周年、改めておめでとうございます。くり返しにはなりますが、20年継続すること自体がとてつもないことなので、これからもできる限り運営を続けていただき、プレイヤーの皆さんにヴァナ・ディールという世界を提供し続けてもらいたいと思います。私はPS2時代の初期だけではありますが、プラットフォーム側の人間として『FFXI』という作品に関わらせていただいたことを非常に光栄に思っています。

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