『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)の20周年を記念して2022年5月8日にYouTubeで配信された特別番組『WE ARE VANA'DIEL』。番組内では“WE GREW VANA’DIEL”と題し、『FFXI』の開発に携わった方や、他社クリエイターも含めた関係者のさまざまな証言が映像等で公開された。しかし、それらは取材内容のほんの一部にすぎない。ここでは、関係者それぞれが語る“『FFXI』20年の軌跡”を、改めてインタビュー形式でお届けしていこう。
第7回でお話をうかがうのは、『FFXI』の北米コミュニティチームに所属するマット・ヒルトンさんとアンソニー・キャラウェイさん。北米プレイヤーの間ではおなじみのおふたりは、日本側とは異なる視線でどのように『FFXI』を見続けてきたのだろうか。パート3では、コミュニティチームとしての具体的な業務内容や、2006年にサンタモニカで開催された初のファンフェスについてうかがった。
『ファイナルファンタジーXI 20 周年記念放送 WE ARE VANA'DIEL』
スクウェア・エニックス アメリカ オンラインコミュニティディレクター。『FFXI』と『FFXIV』を担当しており、北米における各種イベントではMCとしても活躍しているため、配信などを通して日本のプレイヤーにも知られている。
スクウェア・エニックス アメリカ オンラインコミュニティマネージャー。日本生まれの日本育ちで、英語と日本語を流暢に操り、公私ともに日米の架け橋となる。プレイヤーや日米のスタッフから“トニー”の愛称で親しまれている。
北米コミュニティチームの業務内容とは
現在、おふたりはコミュニティチームに所属していますが、詳しい業務内容を教えてください。
- アンソニー(以下、トニー)
自分はコミュニティチームのアシスタントマネージャーを務めています。チームメンバーがいろいろな情報を受け取り、開発チームに正しく共有できているかなどを確認するのが仕事ですね。また、プレイヤーの皆さんが楽しくゲームを遊べるようなキャンペーンの施策をチーム内で考えたり、たとえばコミュニティ内で話題となっている不具合などがあれば、速やかに担当チームに共有するなどの業務も担当しています。また、公式フォーラムはもちろん、外部のコミュニティサイトなども毎日チェックして、プレイヤーがいま何を考え、どう感じているかなどを把握するように努めています。
- マット
自分は『FFXI』と『FFXIV』のコミュニティチームにおけるシニアディレクターとして、おもに日本チームとのやり取りや計画の監督を担当しています。ソーシャルメディア上などでのプロモーションも担当していますが、発売当初に比べてプレイヤーコミュニティがこれほど大きくなったことは感慨深いですね。
日本のコミュニティチームとの連携はどのように行っているのでしょうか?
- トニー
いまはチャットでリアルタイムに情報の共有が行えますし、もちろんメールでのやり取りもします。また、週に1回、チーム全体でオンラインミーティングを行っています。自分は英語と日本語の両方を話せるので、そういった意味ではラッキーでしたね。自分が日本語で話していると、まわりから「なんでそんなに日本語を話せるの? まるで日本人みたいだ」とよく言われますが、生まれも育ちも日本ですから(笑)。
- マット
チーム内にはトニーのほかに、もうひとり日本語ができるサムというスタッフがいるのですが、この2名がミーティング時に通訳してくれたり、日本語や英語のファイルを翻訳してくれたりしています。日本の本社にも10年以上と長い付き合いのスタッフの方たちもいて、お互いのことをよくわかっているので、やり取り自体はスムーズに行うことができています。フォーラム運営やアップデートのダイジェスト動画(※)の制作など、日本のコミュニティチームと協力して行っていることもあります。
※北米プレイヤー向けにアップデート内容を紹介する動画『FINAL FANTASY XI Digest』のこと。プロデューサーの松井聡彦氏とディレクターの藤戸洋司氏が解説を担当し、日本でも『FFXI』のYouTube公式チャンネルから視聴することができる。 動画コンテンツは、日本向けには『もぎたてヴァナ・ディール』、英語圏向けには『FINAL FANTASY XI Digest』と、それぞれのプレイヤー向けの内容になっていますよね。
- マット
短い動画ではありますが、プレイヤーの皆さんにアップデートの内容をきちんと届けられているので好評を博しています。日本側のスタッフも、欧米プレイヤー向けであることを意識して制作してくれているので、いつも助けられていますね。
日米それぞれのコミュニティサイトの違い
先ほどのマットさんのお話では、プレイヤーのコミュニティサイトも確認されているとのことですが、どのくらいの範囲までチェックされているのでしょうか?
- マット
SNSだけではなく、ファンサイト、プレイヤーによるフォーラムやコミュニティ、ブログなども目を通しています。そこから得た情報は、取りまとめて開発スタッフと共有しています。昔は公式のフォーラムも存在していなかったので、コミュニティチームとしてファンサイトのフォーラムで交流を行っていたこともありましたが、いまではソーシャルメディアで告知が出せたり、公式フォーラムでプレイヤーとのやり取りをしたりと、さまざまな形でプレイヤーとコミュニケーションが取れるようになりました。
日本では匿名掲示板や定番の情報サイトなどを攻略の参考にするプレイヤーが多いのですが、海外ではそういったサイトはありますか?
- トニー
日本と同じようなサイトは海外にもありますね。プレイヤーは巨大掲示板で話し合ったり、古くからある攻略サイトやWikiも参考にされているようです。自分は北米のチームと情報を共有する際に「これ、日本語ではなんて言うんだっけ?」と困ったときは、日本の某情報サイトを見に行くこともあります(笑)。
『FFXI』のサイトには公式フォーラムがありますが、日本のフォーラムと海外のフォーラムで何らかの違いを感じることはありますか?
- トニー
書き込まれる内容自体にそれほど違いは感じませんが、日本のフォーラムでは“ひとつのスレッドで話題をつぎつぎと議論していく”のに対し、北米のフォーラムでは“スレッド自体が話題ごとに数多く立てられている”という印象です。また公式以外のコミュニティサイトの特徴として、日本ではひとつの大手外部サイトにいろいろな話題のスレッドが集中するという傾向がありますが、海外ではHNMなどの濃い話題はこのサイト、もっとカジュアルな話題ならこのサイト、そして不具合の報告ならこのサイト、といったように話題によってコミュニティが細分化されている感じです。
それらのコミュニティのチェックは、1日の業務の中でどれくらいの作業量になるのでしょうか?
- トニー
出社してから最初の2~3時間はそういったコミュニティのチェックに費やします。その後レポートにまとめる作業も含めると、けっこう時間がかかりますね。もちろん、そういったチェックは朝だけに行うというわけではなくて、一日中定期的に確認しています。
作業量自体もたいへんそうですが、ゲーム自体の最新の知識もかなり必要になりそうですね。
- トニー
そうですね。『FFXI』自体に対する知識量も必要ですが、たとえば「○○というタイトルにはこういったシステムが実装されているが、『FFXI』にはないのでどうにかしてほしい」といった内容の投稿があった場合、その別タイトルの知識も必要になってきますので、ある程度勉強しなければいけません。そういう点でもけっこう時間を必要とする作業です。
ファンフェスでの経験
“みんなのヴァナ・ディールの史"の2006年の関係者秘話では、おふたりがサンタモニカのファンフェス(※)について書かれていました。改めて当時の思い出をうかがえますか?
※2006年にアメリカのサンタモニカで開催された公式イベント“FINALFANTASY XI Fan Festival"のこと。- トニー
当時、自分はまだ『FFXI』のいちプレイヤーでした。ファンフェスでは初めて『FFXI』の開発スタッフに会える、しかもずっと憧れていた田中さん(田中弘道氏。『FFXI』初代プロデューサー)もこちらに来られるということで、ひとりで興奮していましたね。実際に会場で田中さんを見つけたので、駆け寄って「握手してください!」と言って握手してもらいました。でも、いっしょにいた彼女、いまの妻からは「誰あの人?」と言われてしまいました(笑)。僕にとって田中さんは神様みたいな人だったのですが、彼女にはそれが伝わっていなかったようです。
まさに『FFXI』の熱狂的なファンとしてファンフェスに参加されていたわけですね。
- トニー
はい。さらに、Q&Aコーナーでは開発スタッフに質問することができたのですが、日本語で質問していたのは自分だけでしたね。ちなみに質問の内容は、「デュナミス-ザルカバードで赤魔道士のレリック装束がなかなか出ないので、なんとかしてほしい」というものでした(笑)。
これもまた万国共通ですね(笑)。マットさんのファンフェスの思い出はいかがですか?
- マット
サンタモニカで開かれたファンフェスでは運営スタッフとして参加していて、それはとても大きな経験でした。以前はもっと小規模な、ネットカフェなどに開発スタッフを呼んでファンと交流するといったライブイベントを行っていたのですが、それらの経験が2006年のファンフェスにつながっています。『FFXI』でこのような大規模なものを開催するのは初めてのことで、日本のスタッフと何度もミーティングを行いました。スタッフはもちろん、プレイヤーの皆さんにとってもこのファンフェスはよい経験になったと思っています。
当時ファンフェスの会場となったサンタモニカは、3月ながらとても寒かった記憶があります。
- マット
サンタモニカの有名な桟橋に大きなテントを張って、そこを会場としたのですが、それはもう寒かったですね。サンタモニカのあるロサンゼルスは風光明媚で、いつも太陽が照っている、という印象があるかと思いますが、そのときはなぜか大雨が降ってとても寒く、せっかく大勢のプレイヤーに来てもらって『アトルガンの秘宝』の発売をお祝いしようと思ったのに、天候は散々でした……。寒い思いをしているプレイヤーの皆さんのために、急遽近くのショッピングモールへ行ってブランケットを買い集めたことを覚えています。イベント自体はたいへん盛り上がりましたが、これを教訓にして「野外でのイベントは行わないようにしよう」と反省しました(苦笑)。
確かに、これ以降は屋内での実施が基本になりましたね。
- マット
翌2007年にはアナハイム、2008年にはハリウッドでファンフェスを開催することができました。プレイヤーにとってファンフェスとは、“ふだんあまり会うことがないほかの冒険者と実際に会って、いっしょに楽しむことができる場”ですが、開発スタッフにとっても実際に『FFXI』をプレイしているプレイヤーの姿を見ることができる場でしたので、非常に有意義だったと思っています。
ほかにファンフェスで印象に残った出来事はありますか?
- マット
これまでのファンフェスで自分がもっとも印象に残っている出来事は、2007年のアナハイムで行われた田中さんの基調講演です。そこで発表されたのがPC版のウィンドウモードだったのですが、「『FFXI』公式サイト上のLive Vana’dielに見せかけていた部分を拡大したらウィンドウモード状態のゲームだった」という演出で、プレイヤーの皆さんの大きな歓声が会場内でこだましたのを覚えています。また、イベントの最後に行われたライブ演奏も印象的でした。皆さんとても盛り上がってくれて、あのパワーは開発スタッフにもたくさんの元気を与えてくれました。もちろんポジティブな反応ばかりではなくて、たとえばQ&Aコーナーでプレイヤーが望んでいるような内容ではない回答をしたときは、はっきりと落胆されてしまいました。そういった面も含め、プレイヤーのリアクションを開発スタッフが直に体験できたことは、たいへんプラスになったと思います。
開発スタッフにとっては、それが何よりの収穫ということですね。
- マット
ふだんはオフィスの中でしか仕事をしていない開発スタッフが、ファンフェスの会場ではまるで有名なスターのようにファンから見られていたのも印象的でした。
ちなみに、ファンフェスのようなイベントの運営ノウハウは、日本のチームとも共有されているのでしょうか?
- マット
北米と日本のスタッフそれぞれが、よかった点や反省点を共有しています。また、『FFXI』のチームだけにとどまらず、ほかのタイトルでもこういったイベントを行う際にはさまざまなアドバイスを行うことがあります。